共謀罪 国会上程へ(2)「テロ対策」のために必要なのか?

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(前号1面より)
 安倍政権は、共謀罪の必要性について、東京オリンピックでのテロ対策の重要性を強調している。しかし「テロ対策法は、すでにある」というのが、永嶋氏の指摘だ。以下紹介する。
 ―市民的常識からする「テロ対策」のための共謀罪は、いいか悪いかは別として、既に成立しています。「爆発物取締罰則」には、爆発物に対する共謀罪がありますので、爆弾の相談をすれば現行法で逮捕できます。殺人・放火・強盗・誘拐などの犯罪については、予備罪が設けられており、予備罪の共同共謀正犯も認められているので、かなり広い範囲で取り締まりが強化されています。
 凶器準備集合罪では、プラカードを持って集まっても犯罪が成立します。ピストルにしても米国と違って日本では、所持しているだけで犯罪成立です。このような現行法があるのにさらに共謀罪が必要か?という批判はあり得ます。―
 公衆便所の落書きのための相談や高校生の万引きの相談までもが、「テロ対策」として共謀罪が作られねばならないのか?という疑問もある。外務省のウェブサイトによると、「米国同時多発テロの発生時点でわが国が未締結であったテロ防止関連条約は3本あり、そのうちの爆弾テロ防止条約を01年11月16日に、テロ資金供与防止条約を02年6月に締結。07年には、核テロリズム防止条約を締結した結果、わが国は、2015年8月現在、下記の13条約の締結を完了しました」とある。
 そもそも、共謀罪の口実にされている国連越境的組織的犯罪防止条約は、「テロ対策強化をめざして採択された条約ではない」と永嶋弁護士は指摘する。「越境的組織的犯罪とは、薬物・銃器・さらには人身売買などであり、マフィア対策であってテロ対策とは何の関係もない」(同氏)という。
 共謀罪は、「越境的」であることを犯罪成立条件にしておらず、「条約締結のため」という説明は、この点からも口実でしかない。

既遂処罰の原則を変える共謀罪

 犯罪とは、「人の生命や身体や財産などの法益が侵害され、被害が発生すること」と考えられてきた。そして法益の侵害またはその危険性が生じて初めて、事後的に国家権力が発動するというシステムが近代的で、自由主義的刑事司法制度だ。人は、さまざまな悪い考えを心に抱き、口にもすることがあるかもしれないが、大多数の人は自らの良心や倫理観からこれを実行に移すことなく、犯罪の着手には至らない。さらに着手の後にも、自らの意思で中止し、未遂に終わることもある。現在刑事法体系が、犯罪の処罰を「既遂」を原則とし、必要な場合に限って「未遂」を処罰し、ごく例外的に極めて重大な犯罪に限って、着手以前の「予備」を処罰するのはこのためだ。
 逮捕し、拘置所に監禁し、裁判を受けさせて場合によっては刑務所に送り込むという行為は、法律には則っているが、極めて暴力的な行為だからだ。公益の侵害などの具体的行為(犯罪)が行われて事後的に国家権力が発動されることが、近代的で自由主義的な刑法制度とされてきた。
 共謀罪は、予備よりも手前の「相談」を犯罪とする。既遂処罰の原則を根幹から変えることとなる。

罪刑法定主義の否定

 「法律なくして犯罪なし、法律なくして刑罰なし」―罪刑法定主義のスローガンだ。つまり、犯罪を罰するには厳格な基準が定められねばならないというのが、民主主義・自由主義を重んじる近代法の大原則である。ところが、共謀罪は、犯罪を成立させる基準が極めて曖昧なので、「罪刑法定主義の否定に等しい」(永嶋弁護士)という批判もある。
「ナチスは、罪刑法定主義を完全に否定した」(同弁護士)という。ゲッベルスの提案によると、法律としては「ナチス的に国民を指導することという公に知られた諸原理に対する違反で充分(罪)である」とされた。1930年代には、「罪刑法定主義」を極端に否定した諸国が現れ、戦争の後、あらためて罪刑法定主義の意義が再認識されてきたという経緯がある。共謀罪は、この罪刑法定主義をも掘り崩す法律となる。 (続く)

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