オーストリア大統領選挙

リベラル派勝利の裏で進む 欧州「極右政党」の台頭と中道左派の凋落

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オーストリア在住 近藤悦子

12月4日、オーストリア大統領選挙が行われ、「緑の党」前党首で親EU派、リベラルのアレクサンダー・ファン・デア・ベレンが、極右政党「自由党」のノルベルト・ホーファーを破って当選した。11月にアメリカ大統領選挙が行われ、予想を覆してトランプ氏が当選。ヨーロッパに連動すると予想されていただけに、朗報と思われた。
 しかし、現地からは「みんな、割とシラケています」との報告が寄せられた。理由は、(1)オーストリア大統領は、ほぼ飾り物で、政治的権力は無きに等しい、(2)今回の大統領選挙は、「再選挙」であるうえに、「トランプの野卑な鼻息に怖じ気づき、逆効果を生んだだけ」のことという。
 「欧州における中道左派の退潮は、米国民主党以上」(ウォールストリートジャーナル)との分析もあり、反EU、反移民世論を背景とした極右政党台頭の流れは、当分続きそうだ。オーストリア在住の近藤悦子さんにレポートをお願いした。  (編集部)

トランプの野卑な鼻息に怖じ気づいたオーストリア人

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 オーストリアでは、今年5月に大統領選挙があり、中道左派の「緑の党」の元党首ファン・デア・ベレンがかろうじて当選したのですが、対立候補(極右=自由党)が、不正選挙だと最高裁に提訴。10月、「開票の手続きに不備があった」として再選挙を命じる判決が出ました。
 しかしその再選挙も、投票用紙を入れる封筒の底が抜けて中身が出てしまうという「不都合」が発覚。こうしたマヌケなできごとのせいで、12月に再々延期。
 さらに、米国でのトランプ大統領誕生の影響を受け、大手メディアは、「自由党の候補者が優勢」などと煽りましたが、結果はごらんのとおりです。保守的で臆病なオーストリア人は、トランプの野卑な鼻息にすっかり怖じ気づき、10月の「英国のEU離脱」国民投票の結果にも相当怖じ気づいてましたから、この2つが、逆効果を生んだのでしょう。
 2002年のフランス大統領選で、パパ・ルペン(極右=国民戦線)が出馬した時、フランス社会党は、保守党シラク候補に投票し、ルペン勝利を阻止しました。これは、フランス大統領が強大な権力を持っていることが原因です。
 ところがオーストリア大統領はほぼ飾り物です。ハプスブルグ皇帝の代わりに王宮に住んでいますが、政治的権力は無きに等しいのです。このため今回のオーストリア大統領選挙も、左翼系は「投票拒否」が多かったようです。勝利したファン・デア・ベレンはEU派なので、ユーロ支配=EUの新自由主義的な官僚政治からの離脱を掲げている左翼は、彼に批判的でした。「どうせ権力が無いなら、どっちがなっても大差ないや」というムードです。

極右の政権入りは確実実権もつ首相も…

 ただし、投票前には、6千人規模の「反『反難民』デモ」が、数回行われました。右翼やネオナチのデモは100人単位ですから、10倍以上です。私は、英国労働党党首=ジェレミー・コービンのような政治家にシンパシーを感じますが、EUに批判的な彼も、結局、難民受け入れか、受け入れないかの踏み絵を踏むように、EU離脱には反対しました。このねじれが、本当に苦しい処なのでしょう。
 欧州各国で長年、主流派の柱となってきた「左派」の社会民主主義政党が軒並み支持を落としています。すでに、欧州五大経済大国のうち、社会民主主義政党が政権に就いているのはフランスとイタリアの二カ国のみ。イタリア政治の今後も、よく判りませんが、憲法改正の国民投票で負けたレンツィ首相が辞任したことの方が、悪い影響が大きいのではないか、という意見も聞きました。
 トランプ大統領がどういう政治をするのか、まだよく判りませんが、「民主主義と人権」といったきれいごとを言いながら、平気で軍隊を動かすクリントンが大嫌いでしたから、「どうせ死ぬなら、きれいな口で嘘をつきながら人殺しする政治家より、悪漢らしい悪漢に撃たれて死ぬ方がいいや」という感覚もあります。
 いずれにせよ、新自由主義の世界制覇と、落ちこぼれた貧乏人の反イスラムと異文化拒否の傾向は、動かし難く明快なことかと思われます。
 来年もしくはさ来年、オーストリアでは国政選挙が行われます。この時に、政治的実権を握る首相が決まるのですが、保守、社民両党とも、極右自由党との連立を抜きに政権を取ることはできない情況ですし、自由党が第1党になり、首相が自由党党首となる可能性はかなり高いと言われています。大統領もさまざまな妥協を強いられると思います。

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