ひっこもり名人 勝山 実のポンチ・ピープル

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ひきこもり調査を調査する

 

ひきこもり名人 勝山実

 今年9月、内閣府が「若者の生活に関する調査」、いわゆるひきこもり調査を公表しました。しかし実はこれ、ひきこもり当事者を直接、調査の対象としていないのです。15~39歳までの、若者とその家族が調査対象なのです。
 なぜかというと、ひきこもりがどこにいるのか、調べて状況を把握することが困難だからです。代わりに、若者へアンケートをすればいい、そのなかにひきこもりもいるはずだ、それでいいんだ、という発想で行われている。
 まずもって、ここに問題がある。ひきこもりの状態&ひきこもりが必要とする支援を調べることが目的なのに、調査している対象が若者だからです。つまり調査の目的と、調査の対象が異なっている。この時点で、確率論に基づいた統計調査は成り立ちません。
 「若者の生活に関する調査」は、標本調査(サンプリング調査)で行なわれています。まあ普通のやり方です。ランダムに選ばれた5千人を、調査員が訪問。アンケート用紙を渡し、後日回収するという、ちょっと面倒な方法です。この調査に答えた3115人は〝律儀者〟と言っていいでしょう。回答率62・3%はそのまま律儀率です。
 全数調査(例・国勢調査)と比べ、標本調査は全員を調査しなくていいという利点がありますが、弱点もあります。誤差です。選ばれた人だけが回答する以上、偏りは避けられません。でも約3千人の若者の回答があれば、だいたいの「若者」の実態は分かる…のですが、「ひきこもり」の実態を知ることなんかできません。
 この調査で定義されている、狭義ひきこもりと広義のひきこもり(準ひきこもり)の両方を合わせても、ひきこもりは全体の1・57%でしかない。そのわずかな(49人の!)回答を元にひきこもりの実態に迫ろうと言うのです、顕微鏡でひきこもりを覗き込んでやろうとでも思ったのでしょうか。ちょっとヤバイぞ、お前たち。
 こんなやり方で、ひきこもりを分析してもすべてが「誤差の範疇」ということになるでしょう。前回の調査と比べて、「ひきこもりが増えた・減った」というのも誤差の範疇です。
 母数が違う、ひきこもり当事者と一般の人との性格を比べるのも無理がある。選ばれし、ひきこもり49人の一票ならぬ、一回答の重みがありすぎます。数人の極端な回答(外れ値)が紛れ込んだだけで、ひきこもりの調査結果は大きく変わってしまいます。
 内閣府は、ひきこもっていない人を「一般群」と「ひきこもり親和群」とに分けています。ひきこもりに理解があり共感をしめす人を、ひきこもり親和群(ひきこもり予備軍!)として、一般群から取り除いているのです。そのように加工しておいて「一般群」と「ひきこもり群」とを比較しているのです。
 導き出される結論は、ひきこもる人は生まれつき一般群とは違う性格、考えを持った人間だという偏見、差別です。それが統計の結果であるように見せかけるインチキ。社会の問題ではなく、個人の資質であるという、変わるべきは個人の(弱い)性格だという、まあいつもの結論がでるように、実によく工夫されている。
 ひきこもり大臣として、ひきこもり調査の中止を勧告します。このやり方を続ける限り、仮に調査の対象年令の幅を広げたとしても、ひきこもりの実態が分からないことに変わりはありません。駅前でアンケートをとっているのと同じで、ひきこもり調査になっていないからです。
 統計には向き不向きがあります。訪問すれば隠れてしまうようなひきこもりは、まさに統計に不向きな対象です。それすら分からない人が調査をしている。ひきこもり支援策が失敗ばかりな原因のひとつは、その根本となる調査に欠陥があるためなのです。

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