「当事者の必要」を軸に社会の問題として考える

セックスワーカーの課題と現状

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SWASH 要 友紀子

 「女性の貧困問題」に関連して、セックスワークに関する報道も増加している。編集部は8月11日にスタジオ・シチズン(吹田市)で開催された講演「セックスワークの課題と現状」を取材した。
 講演では、「当事者の必要」に焦点をあてた提言が印象的だった。講演者の要友紀子さんが所属する「SWASH」は1999年に設立。セックスワーカー当事者とサポーターから構成されており、企画の全てに当事者が関わっている。相談支援や、カフェイベントの開催、風俗店事業主向けの研修、海外団体とのネットワークづくりなど、活動は多岐にわたる。
 要さんの講演内容の抜粋として、(1)セックスワーク問題の現状と課題、(2)問題の捉え方・考え方、(3)AV業界へのバッシング問題と人身売買問題、の3つをまとめた。

(編集部・ラボルテ)

可視化されない被害

 日本では、デリヘルなどの非店舗・派遣型の風俗業が主流です。風俗業界への「取り締まり」強化によって、逆にセックスワーカーの被害リスクが高まりました。これは、風営法改正(1999年)によって非店舗・派遣型が合法化され店舗型が規制された結果です。
 実態把握のために、派遣先のひとつであるラブホテルでの凶悪・刑法犯罪件数を警察庁に問い合わせたところ、(2011年までの)過去11年間約2万6千事件という結果が返ってきました。なかでも、殺人・強盗・監禁・強姦の凶悪犯罪件数は2043件です。店舗型では起こりにくい犯罪です。
 このなかで「派遣型セックスワーカーが何人殺されているか」は、わかりません。また、遺族の方の「デリヘル嬢として報道してほしくない」という要望や、被害者の社会的アイデンティティが会社員や主婦など別だということもあります。
 加えて、仮にデリヘル嬢が殺されても、「一般婦女子」が被害となる事件でなければ報道されないメディア業界の慣行もあります。もし、店舗内での被害であれば、部屋の外で待機している従業員に助けを求めることができますし、殺人事件があれば即刻営業停止・社会問題になります。
 「リスクがない」とは言えませんが、店舗型の方が低リスクなのです。逆にリスクが高いのは、派遣型で働く、セクシャルマイノティや外国人、性暴力・虐待被害者などのサバイバーです。孤立しがちで、誰にも相談できず、被害を受けやすい状況が共通しています。
 「SWASH」への相談で多いのは、お客さんとお店からの被害です。これを法的課題と社会的課題にわけて、問題点と改善方法を示します。
 まず、法的な課題としては、労働環境の整備や事業者・セックスワーカーに対する労働法などのガイドライン周知です。例えば、風俗店を営業したい人は、資金さえあれば、研修指導を受けることなく誰でも事業主になれます。開業条件として、研修の受講を必須とし、安全な労働環境整備や緊急避妊ピルなどの知識を学んで、「どこまでがサービスで、どこからが性暴力なのか?」を認識させることが必要です。
 社会的な課題については、差別・偏見をなくすことです。これは例えば、差別・偏見が当事者の弱みとなって、店や客が「風俗で働いていることを親や友人に言うぞ」などの脅迫につながり、理不尽な要求を飲まされる二次被害や搾取をつくりだします。差別・偏見がなくなり、家族や友人に言える社会であれば、回避できる被害なのです。
 最近では、貧困関連の報道として、シングルマザーの貧困、奨学金返済、ブラック企業などの問題を通して、セックスワークの問題も語られています。ですが、この「語り」は、あくまで貧困問題の引き立て役の問題として登場しがちです。受け手の印象は、「セックスワーカーにならないために、大学を卒業して、正社員にならなければ」という影響をもたらしています。
 貧困問題関連の報道のみならず、セックスワーカーが何かの社会問題の引き立て役として「利用」され、セックスワーカーへの偏見・差別を助長しています。

市民的権利を確立すること

 支援の基本的な考え方は、「労働現場における搾取や性暴力をなくすこと」です。その一方で、「性産業に入らないように、婦人保護の視点から、格差・不平等によるサバイブ(生き抜くこと)をなくす」という考え方もあります。
 この婦人保護の考え方は、「なぜセックスワークなんかにに就いてしまったのか」、「どうしたらセックスワーカーは他の仕事に就けるのか」など、過去(入口)と未来(出口)に重点をおいています。私たちは、「今、何に困っていて、どんなニーズがあるのか」に着目した、当事者ベースの視点です。
 また、「セックスワークは、続けたい人は続けたらいい。辞めたい人は辞めたらいい」という考え方がありますが、これは間違いです。人間には不幸な「時」や幸せな「時」があります。しかし、不幸な「人間」や幸せな「人間」はいません。例えば、「指名がたくさん取れた、いいお客さんと巡り会えた」というのは、風俗で働いていてよかったな、と思える瞬間です。
 一方で、ネガティブになることもあります。「お客さんが怖かった」「性感染症にかかった」「盗撮された」などの被害経験によって、誰だって「こんな仕事なんか辞めたい」と思います。しかし、これらのネガティブな経験のほとんどは、改善が可能なのです。
 問題解決のアプローチとしては、性感染症については、コンドームの使用による性感染症予防、店舗型による盗撮防止・性暴力防止などで防げるわけです。概念的な表現をすると、一般社会の市民的権利を風俗業界に移植させ、風俗業界で達成できていない市民的権利を確立していくことです。セックスワークへの差別・偏見をなくし、労働三権を確立させ、待遇改善する捉え方が必要です。
 近年、AVに対して「AVの存在は女性の人権侵害であり、需要はなくなるべきだ」という批判が大きくなっています。批判の手法としては、行政や立法に圧力をかけるのと同時に、流通や販売などAV業界に関わる企業に対しても圧力をかけることで、追い込もうとしています。この手法によって、強要被害の検証なく、AVプロダクションを労働者派遣法に基づく有害業務で摘発しています。実際にAV業界では、「強要がなくても摘発される」との懸念が広がっています。
 このAV業界へのバッシングを、他のマイノリティ・被差別問題に置き換えて捉えてほしいのですが、例えば部落民、ホームレス、元受刑者、障がい者、在日外国人、LGBTQなど、もし、この人たちが事件や不祥事を起こしたら、社会からどんな影響を受けるか?を想像してみてください。
 「ああ、やっぱり○○だから」「この人たちは、こういうことするんだよな」と言われて終わるじゃないですか? AVもそうなんですよ。一部分のみを切り取った見方で全面的にバッシングを行うということは、真面目に仕事としてやっている人たちを、踏みにじることにつながります。
 強要被害にみられるAV女優への「親にバラすぞ」などの脅しは、職業差別につけ込んで行われています。AV強要被害問題を提起している団体は、脅しの原因となっている職業差別の問題をなくそうとは言いません。
 人身売買問題は90年代後半から報道され始め、ビザ厳格化や風営法強化、人身売買罪の創設など、2005年以降、外国人のセックスワークへの取り締まりが厳しくなりました。入管で水際作戦が行われ、「街中で怪しい外国人を見たら通報してください」というキャンペーンが張られました。
 これらによって、フィリピンやタイ、韓国や中国などのセックスワーカーの渡日が難しくなりました。人身売買対策が何をもたらしたかというと、例えばフィリピン人女性の場合だと、日本での就労に代わって、韓国に渡り、より悪い労働環境下での就労になったそうです。
 これは実際に、私がフィリピン・マニラのKTV(日本人向けのカラオケパブ)でインタビューし、多くのホステスが答えてくれたことです。規制強化後、日本で合法的に働くためには、前借金をして、多額の手数料を支払って日本人配偶者を獲得しなければならなくなりました。好きでもない男性と定住ビザが出るまで暮らさざるえない、その中でビザのことで脅されたりDV被害を受けているかもしれません。被害がなくなったのではなく、水面下に潜り、深刻化しただけなのです。

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