家事労働者不足で介護問題が深刻化

シンガポールにおける家事労働者受け入れの現状

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大阪府や神奈川県の「戦略特区」において、家事・育児に追われる女性の「活躍推進」を名目に「外国人家事労働者の受け入れ」が進められている。8月29日には、内閣府と大阪府市が、国家戦略大阪特区における事業者としてダスキン・ベアーズを認めた。これに先立ち、7月10日に開催された、シンポジウム「シンガポールにおける家事労働者受け入れの現状~大阪と神奈川特区への受け入れの示唆」の講演内容を報告する。要旨として、NGOスタッフで元家事労働者のマリカさん、徳島大学教員の上野加世子さんの発言をまとめた。「外国人労働者でジェンダー問題を下請的に解決」(1581号)と合わせて一読いただければ幸いである。

(編集部・ラボルテ)

家事労働の実態 マリカさん

 私たちフィリピン人が海外で働く理由として、貧困問題があります。フィリピン国内では就職先が少なく、最低賃金は日給1000円です。
 私はシンガポールの同じ雇用主の下で、3年7カ月間、住み込みで家事労働者として働いていました。そこで直面した問題は、まず自由がなかったことです。休日はなく、契約時の1カ月に1回は休みをくれるという約束は、全く守ってもらえませんでした。たった5分間の電話も使わせてもらえず、5時間の睡眠時間しか与えられず、雇用主の仕事の準備を朝5時から手伝っていました。私が使っていた部屋は雇用主家族の子どもたちと共有で、いつでも誰かが中に入れる状態でした。また、近所の人と口をきくことさえ許されませんでした。
 雇用主から「バカ」「愚か者」と暴言を受け続けました。食事も不十分で、残り物を食べていました。私はホームシックを抱えながら、病気の時でも働いていました。
 私は、NGOの支援でまず自分の権利を知りました。例えば、(1)雇用主が家事労働者に健康や安全を保障しなければならないこと、(2)1日8時間は休憩時間があること、(3)1週間に1日の休日があること、(4)1日3食を保証すること、などです。自分の権利のために「闘う」ことも選択肢としてあることを知り、NGO支援のもと未払い賃金請求訴訟を起こしました。
 私はNGOのシェルターで過ごすことになり、8カ月間、無料で宿泊と食事などの提供を受けながら、判決を待ちました。シェルターにいる間、NGOの電話相談の窓口を手伝うことで賃金を得、ピザの焼き方まで教えてもらいました。最終的には、雇用者から未払い賃金をとり戻すことができました。
 2013年6月に家に帰って、家族と再会できたことが嬉しかったです。私を支援してくれたNGOであるHOME(シンガポール)と、私が責任者をつとめるようになったNGOのSOHO(フィリピン)によって、女性たちのシンガポール就労の際、フィリピンの斡旋業者に対して料金を払いすぎた239ケースがPOEA(フィリピン海外雇用庁)に認定され、総額で約668万ペソ(約1400万円)が女性たちに支払われました。

高齢化により介護問題が深刻に 上野加世子さん

 シンガポールは、経済成長を通して労働力需要が高まり、女性の就労が盛んです。しかし、就労のハードルを下げるためには「家事・育児、介護など、女性が担ってきた労働をどうするのか」が問われます。同国では、1978年という早い段階で女性の労働市場参入を目的とした外国人家事労働者計画が策定され、受け入れが進められてきました。現在、シンガポールは急激な高齢化が進んでいて、2030年には2人で1人の高齢者を支えるという超高齢化を迎えます。しかし、社会保障施策に正面から取り組まず、代替策として外国人家事労働者を導入し続けることで、介護をはじめとした問題解決を図ろうとしています。いま、5~6世帯に1世帯が住み込みの外国人家事労働者を雇用しています。
 家事労働者の滞在条件ですが、2年間の住み込み雇用で、その後更新することも、別の雇用者を探すことも可能です。家事労働者の実際の年齢は10代後半~50代までと幅広く、同じ雇用者で更新を続け、結婚などのライフサイクルで一時帰国をして長く働き続ける人もいます。
 雇用者には、人頭税と保証金が課せられています。前者は「労働力過剰であれば人頭税を引き上げ、家事労働者を雇いにくくすることで女性を家庭に戻す」ことも可能であることから、労働市場の調整弁という機能を付与されているように思います。現在、一人の家事労働者当たり2万円程度です。後者は、外国人家事労働者の帰国を確実なものとするためのもので、一人当たり40万円です。また、雇用者の責任で半年ごとに妊娠検査を行い、家事労働者の妊娠が判明した場合には、強制的に国外退去処分となります。
 外国人家事労働者不足により、賃金が高騰し、雇えない人々が増え始めると、シンガポールでは介護問題がとてつもなく深刻化していくのだろうと思われます。

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