金津まさのり
法を無視した強権発動が沖縄で行われている。ヘリパッド建設予定地の高江では、周辺住民が、県道での検問や封鎖の禁止を求めた仮処分申請を行っている。第3回審尋(1日、那覇地裁)で、住民側は、「7月の検問は反対運動の規制が目的で違法」と主張。検問での免許証提示も「無免許や酒気帯びなどの具体的な容疑がないまま、強要している」と批判した。
また、特殊部隊の自衛官や米兵が、身分を隠して抗議現場に来ていることも確認されている。「日米の特殊部隊の一体化が進んでいる」との懸念も聞こえる。 8月、2度にわたって現地「支援」のために高江に飛んだ金津さんに、報告をお願いした。(編集部)
変わり果てた集落の風景
オスプレイヘリパッド建設が強行されている沖縄本島北部の高江を、8月中に2度訪問した。県道70号線沿いに多数の機動隊および警察車両が展開し、穏やかだった風景は一変していた。これまで長年の座り込みが続けられてきたN1表ゲートのテントは撤去され、設置されたフェンスの前を警備員と機動隊員が固めている。ゲート上には監視カメラが設置され、中には建設資材やトイレが置かれているのが見える。その周囲を、サングラスとマスクで顔を隠した防衛局職員が動きまわる。
1年前に現地を訪れた際は、工事の動きもなく、テントの中で住民の方たちや各地からやってきた座り込み参加者同士で談笑したり、周囲を散策してやんばるの森の豊かさに触れたりしていたものだが、そうした風景は跡形もなくなっており、言葉をなくした。
なりふりかまわぬ日本政府
高江のヘリパッド建設問題は、1996年の日米SACO合意にさかのぼる。ヘリパッド建設と引き換えに、広大な面積を有する米軍海兵隊北部訓練場を一部返還するというものだ。実際は、老朽化して使用不能な施設を整理し、高江の集落を取り囲むように6つのオスプレイヘリパッドが建設される。高温排気・騒音・低周波を発生させ、事故の危険性も高いオスプレイが人家のすぐ近くで離発着を繰り返し、住民への被害は甚大なものとなる。
実質的な基地機能強化であり、辺野古新基地建設と同様の構図だ。2007年に工事が開始されてしまったものの、座り込みを始めた住民たちにより工事は長期間にわたり止められ続け、いまだ2カ所(N4)のヘリパッドしか完成していなかったのが、今年7月までの状況である。
しかし、沖縄県で自民党候補者が全敗した参院選投票翌日の7月11日、まるで報復のように工事が再開された。沖縄県警だけでなく、東京(警視庁)・千葉・神奈川・愛知・大阪・福岡から500名の機動隊が動員され、抗議する人々を暴力的に排除しながら資材搬入が連日行われている。信じがたいことに、4月にうるま市で起きた米軍属による女性暴行殺害事件を受け、米兵に対する防犯パトロールを行うという名目で全国から集められた防衛省職員70名も、全員高江現地に動員されている。さらに重機搬入のために自衛隊の輸送ヘリ使用も計画されており、米軍基地建設のため安倍政権は全力を投入し、沖縄を抑圧している。
やんばるの森で座り込む
こうした状況下で、現在取り組まれている行動の柱は二つある。まず一つは、N1ヘリパッド建設予定地の裏側、森の入り口での座り込みである。N1だけでなく、今後着工が予定されているGとHのヘリパッド工事にも関連する重要地点である。撤去をまぬがれていた座り込みテントを大規模に拡張し、そこからの資材搬入を止めている。
その大きさには、一見して度肝を抜かれた。200人くらいは収容できようかという大きさで、全国・全県から集った多くの人々が連日泊まり込んでいる。テントの改良も日々続けられ、またカンパで寄せられた食材を使って炊き出しも行われている。防衛局・機動隊の撤去がいつやってくるかもしれない緊張下であるが、参加者同士でゆんたく(交流)したり、各地の報告を共有したり、時には歌ったり踊ったりと、創造的なエネルギーに満ちた空間となっている。
8月25日には、テントの裏側の山道に防衛局が巨大なフェンスを設置した。高さ4メートルはあろうかという、まるでパレスチナの分離壁を思わせるような外観である。N1表ゲートから搬入された砂利は山道に敷き詰められ、防衛局の手はテントのすぐ裏側まで迫ってきている。
1秒でも長く工事を止めるために
もう一つの行動は、県道70号線沿いでの資材搬入阻止行動である。日曜を除く毎日、島の反対側の西海岸にある採石場から砂利を積載したダンプカーが、機動隊車両やパトカー十数台に護衛されやってくる。これを自家用車や身体を使って止める行動が取り組まれている。車列を待ち伏せ、前に割り込んでゆっくり運転を行い、通行を遅らせる「牛歩戦術」や、ゲート近くの路上で車数十台をぎっしり並べて道路を封鎖し、その周囲にスクラムを組んで座り込んだりといった、さまざまな手法がとられている。機動隊もなりふりかまわず排除してくるのだが、こちら側もどんどん新しい方法を編み出し、少しずつ工事を遅らせていっている。住民の方の一人が、排除されてもまた回りこんで何度も何度も座り込んでいたのが印象的だった。
さらに9月3日からは、毎週水・土のゲート前大行動が開始されている。3日は300名の人々が早朝6時から結集し、完全に搬入を止めることに成功している。
機動隊の暴力
県外から動員されてきた機動隊員たちは、高級ホテルであるカヌチャリゾートなどに宿泊しながら連日現場にやってくる。派遣費用は一日あたり数百万円にのぼるとみられ、また警備会社の今年度の契約費用は8億円とのことだ。沖縄を傷めつけるために多額の税金が使われていることに、心底怒りを覚える。
特徴的なのは、彼ら(全員男性である)が何を聞かれてもほとんどまともに回答しないことだ。警察手帳の提示にはもちろん応じないし、どこから来たのか(大体車両のナンバーやしゃべり方でわかるが)をたずねても答えない。人や車の通行を止めることに対して法的根拠をたずねても、何一つ回答しない。他の車は通すのに抗議車両だけを止めるということも、当然のように行われている。法律より何より、米軍基地工事がすべてに優先しているのだ。
一方で、切々と訴えかける人の声に目をそらしたり、あきらかに動揺している若い機動隊員も、数は少ないものの時折みられた。こんなことをするために警察官になった人間はいないだろうから、当然のことだろう。かろうじてみられた人間性のかけらが、組織の中で圧殺されてしまわないことを願いたい。
座り込みに参加しよう!
高江現地の情報は、ネットやSNSである程度得ることができる(本土のマスコミがこの無法をほとんど報じないのは大きな問題だが)。しかし現地に行って感じたのは、ネットの情報だけでは決して得られない、現場の豊かな空気である。行く側としては、現地を「支援」するため、そしてヤマトの人間として沖縄に基地を押し付け、抑圧に加担してしまっている現実を変えたいという思いで行くのだが、逆にはるかに多くのものを自分が「もらって」帰ってくる感覚がある。決してあきらめないこと、怒りとともにユーモアも忘れないこと、先人のたたかいに学ぶこと、したたかにやりぬくこと…言葉では伝えきれないものが高江の現場にはある。また、やんばるの自然の豊かさも、現地に来て初めてわかることだ。ぜひ多くの人に高江に来てほしいと思う。那覇空港から名護バスターミナルまで高速バスに乗り、名護バスターミナルから高江現地まではテント村の送迎車(運行の詳細はネットなどで確認のこと。路線バスもあり)が出ている。ぜひ、高江へ。