『アルテルナティーバ』記者 アナ・パウラ・ラモスさん
リーマンショックから8年。当時、非正規労働者の解雇が相次ぐなか、自動車工場などで働いていた日系ブラジル人の多くが解雇され、帰国を余儀なくされたことを覚えているだろうか。
今回、日系ブラジル人を対象にしたポルトガル語雑誌『アルテルナティーバ』記者・ラモスさんに、(1)ラモスさんにとっての日本社会、(2)『アルテルナティーバ』の目的、(3)リーマンショック後の日系ブラジル人コミュニティ、について聞いた。
(編集部・ラボルテ)
――ラモスさんにとっての日本社会は?
ラモス:日本に暮らす前の印象としては、「社会問題はなく、治安がいい国」としか思っていませんでした。私は日本語や日本文化が好きで、高校から大学にかけて学び続けてきました。
しかし、実際に暮らして知ったのは、見えづらいけれど、社会問題が多くて、特に外国人を否定的にみているということです。
社会全体として、「生きるために仕事をしているのではなく、仕事をするために生きている」ように思えますし、日本政府は外国人に対して「仕事はしてほしいけれど、社会参加してほしくない」といった考え方があるように感じます。
例えば、外国籍の子どもに就学義務はありません。裏返せば、「学校に行かなくてもいい」と言われているようなものです。
言葉の壁がもたらす疎外
――『アルテルナティーバ』誌の目的は?
ラモス:日本に暮らすブラジル人の母語であるポルトガル語で、必要とされている情報を提供することです。
日本に暮らすブラジル人の多くは工場で働いていますが、現場の同僚から家族・友人関係もブラジル人で、ポルトガル語だけで生活が完結することもあって、日本語をうまく話せる人が少ないのです。
読み手を意識して、おすすめの日本国内の旅行スポットなど娯楽関連も多く掲載していますが、必ず外国人に関する社会問題の特集を組んでいます。
今号の特集は、「ブラジルルーツの子どもたちに自閉症が多いのは、本当なのか?」です。自閉症を持っている日本人の子どもは1.49%の一方で、日本の学校に通うブラジルルーツの子どもたちの6.15%が自閉症を抱えているとされています。学校の先生から「なにも喋らないのは自閉症なのでは」と考えられています。
しかし、日本の学校に通うブラジルルーツの子どもたちは、日本語ができないことから、コミュニケーションをとることが難しいのです。学校の中で友人関係がつくれず、わからないまま授業が進むことで勉強ができない。先生からなにか言われても、どう答えていいかわからない。これは言語の問題として提起して、教育環境を整備しなければいけない話です。
日本社会で生きぬくための選択肢をもつこと
――リーマンショック後、ブラジル人コミュニティはどう変容しましたか?
ラモス:工場で働いていた日系ブラジル人の多くは、「景気が悪化すれば、真っ先に自分たちが切られる」ことを実感しました。リーマンショック直前は34万人だったのが、リーマンショックを契機に毎年減少が続き、いまは約半分の17万人です。
日本のブラジル人社会のマジョリティは、非正規の工場労働者です。『アルテルナティーバ』を含めて、工場以外で働いているブラジル人の多くは、ブラジル人向けのスーパー、レストラン、学校などさまざまな形で、工場で働くブラジル人に依拠しています。彼/彼女らが失業するということは、連鎖的に他のブラジル人も失業し、コミュニテイそのものが消滅するということです。
子どもが日本の公立学校に入って「友達がつくれない、日本語ができない」と学校を辞めると、親がそのままにしておく、というケースがよくあります。学校に通わせることの必要性を理解していなかったり、情報や選択肢をもっていないのです。子どもが教育を受けないまま大人になるということは、親と同じような働き方をし、親世代の受けた不幸を繰り返し経験することになります。
教育問題以外にも日系ブラジル人をとりまくさまざまな社会問題がありますが、教育問題に限っていえば、学ぶことの必要性を、子どもを持つ日系ブラジル人たちに伝えていきたいです。子どもには、学力を身につけて、「日系ブラジル人=非正規の工場労働」だけではなく、日本社会のさまざまなところで活躍してほしい、と思っています。