【イスラエルに暮らして】「知らなかった」ではすまされない誤謬に基づく取材姿勢

偏見に囚われた日本のテレビ局と接して

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イスラエル在住 ガリコ美恵子

 「人民新聞で美恵子さんのことを知り、確固たる人生観をお持ちのようなので、『なぜこんなところに日本人?』という番組に出演してもらいたい」とテレビ制作調査部から電話がきたのは、4年前のことだった。
 テレビクルーは「美恵子さんの在りのままを撮りたいので、密着させてもらいます」と言う。私は、「反占領活動をしているので、同行取材となれば、デモやパレスチナの被占領地に行くことになるが・・・」と尋ねると、「美恵子さんがイスラエルに溶け込んでいる一面なので、デモにも同行します」と返答してきた。
 そんなやり取りを何度も繰り返し、今年4月にテレビ取材班がやってきたのだが、前日、予想外のことが起こった。「私、コーディネーター兼通訳兼ドライバーをつとめます」と、入植地に住む日本人ツアーガイドの男性が電話してきたのである。
 イスラエルのツアーガイドには、イ政府機関発行の認定証が必要である。認定を受けるには、イスラエルの歴史観、政治観を主流にしたテキストを頭に叩き込んだ上で、試験に合格しなければならない。
 この過程でガイドは、シオニズム思想に洗脳される。
 その彼は観光スポット(ベツレヘムの生誕教会、へブロンのアブラハムモスク、エリコの誘惑の山教会)以外、パレスチナに行ったことがないし、アラビア語も話せない。
 私の通訳をするなら、アラビア語とヘブライ語の両方ができる人でなければならない。ところが取材班は、そもそもパレスチナとイスラエルの違いと関係さえ知らないようだった。結局、私は主演、通訳、解説、道案内という4役をひとりで背負うことになってしまった。

パレスチナを知らない案内役

 彼等が到着した日は金曜だったので、東エルサレムにあるシェイク・ジャラの金曜恒例占領反対デモに同行してもらった。しかし、何かおかしい。私がパレスチナ人やイスラエル人たちと並んでプラカードを持っている画は撮っているのだが、字が読めないほど離れて撮っている。理由を聞くと、「政治的主張はテレビで出せないので、プラカードの文字は撮れない」。これでは、何をしているのかわからないではないか。
 2日目は、シルワン村の友人宅にへ出かけ、屋上からエルサレム旧市街や村の景色を撮影してもらった。
 問題が発生したのは3日目だ。北海道パレスチナ医療奉仕団の猫塚医師に、へブロン・H2のタル・ルメイダにある『べツァレム・へブロン支局』兼『入植に反対する青年たち』事務所に寄付する薬や湿布薬を届けに出かけた時である。
 これらの団体は、イ軍やユダヤ人入植者の非道を撮影し、世界に発信することで、占領の非道を訴える活動をしているため、イ軍は目の仇にしており、タル・ルメイダは、人民新聞3月25日号で発表した『イスラエルの白い嘘』の舞台でもある。
 タル・ルメイダにつながる石の階段を登る道中、私たちは兵士に銃口を向けられて検問され、「撮影を止めろ」と脅された。ようやく事務所に到着したが、リーダーのイッサ・アムロがまだ来ていない。
 庭で待っていると、兵士5人を連れた軍曹が、「すぐに退去しなければ逮捕する」と通告してきた。私たちは、厳しい監視の目を感じつつ坂道を降り、チェックポイントを通過し、H1に抜けたが、行き違いにイッサと会うことができた。
 帰路にも問題が発生した。エルサレムに戻るには、ベツレヘムまでバスに乗り、タクシーに乗り換えて検問所を通過しなければならない。ところが急にコーディネーターが顔色を変えた。「ビザ更新中で、弁護士に依頼しているが内務省の許可はまだない。つまりビザが切れている」という。検問所でこれが発覚すれば、軍と揉める可能性が高い。
 「私はIDを持っているが、他の皆は日本からの観光客だ」―先頭に立った私は、イスラエルIDを兵士に提示。コーディネーターは列の最後に並んだ。兵士は私のIDを確認した後、テレビクルーらやコーディネーターのパスポートの表紙と顔写真を軽く確認して通過を許可。事なきを得た。通常観光バスは、入植者用道路を走るのでこの検問所を通らず、特別検問所を通る。観光バスで日本人客のガイドをしているコーディネーターは、初めて乗合いバスに乗ったので、検問所のことが念頭になかったらしい。

「危険な場所には 行きません」

 その数日後、翌々日に予定していたビリン村のデモに「同行しない」とテレビクルーが言いだした。「危険な場所には行ってはならない」と局から言われているという。
 おかげで、私はビリン村の人々と話す時間を十分確保できたが、取材前に言ってたことと、実際の行動が違う。
 また彼らは、イスラエルのレンタカーを借りていた。イスラエルの車は、被占領地で事故に遭うと、保険が使えない。このため私は、パレスチナ自治区のA地区には、レンタカーで行かないよう助言しいた。しかし、休日、ラマーラに野菜の買出しにでかける私に同行した彼らは、コーディネーターが運転するレンタカーで、私が乗車したバスの後ろを追いかけて来た。カーナビでなんとかなると思っていたようだが、パレスチナでカーナビは、役に立たない。ヨルダン川西岸とガザ地区には高速モバイルネットサービスがないからだ。パレスチナ自治区のモバイル通信は、暫定和平合意のもと、イスラエルが管理している。
 したがって、帰路が問題になる。最短路であるカランディア検問所を通過すると、ビザがないコーディネーターの身が危険にさらされる。そこでカランディア検問所手前の東に抜ける道をエリコ方面に走り、高速道路に出ることにした。高速道路の検問所は、外国人に対し厳重なチェックをしないからだ。私は助手席で道案内したが、彼は「アラブは危険」と洗脳されているためか、ずっとイライラしていた。

イスラエルに偏った解説に激怒

 彼らが帰国してしばらくすると、「放送予定日が8月15日夜に決まった」という連絡があり、以下のメールが送られてきた。
 「私共は公共の電波を使用するため中立な立場であり、ご希望に添えないかもしれませんが、異議ありましたらお教えください。イスラエル情勢に詳しい日本女子大教授の臼杵陽氏に確認して作成したものです」という前書きで、「ラマーラに行った時に撮影した分離壁の解説を確認してほしい」、と伝えてきた。
 その解説とは、「イスラエルに隣接して、パレスチナ人が統治するパレスチナ自治区が存在。長年、対立が続いていたアラブ人とユダヤ人。一部の過激な人の中には、時に、テロ行為に及ぶ人も。そのテロ対策の一つとして『パレスチナ自治区』と『イスラエル』の境界には、『安全壁』と呼ばれる高い壁が建設され、簡単に行き来できないようになっているのです。先ほどバスから見えた大きな壁は、テロを防ぐためなどの目的で作られた壁だったのです」。
 これを読んで、私は激怒した。パレスチナがまるでオマケの存在のような説明ではないか。「対立が続いているアラブ人とユダヤ人」という説明もおかしい。事実は対立ではなく占領だ。『安全壁』という呼称を使ったは、コーディネーターだが、聞いたことのない言葉だった。イスラエルはテロ対策と主張するが、67年の停戦ラインを超えてパレスチナ側に深く入り込んでいるため、パレスチナ人が土地を没収され、イスラエルの領地が拡大したことは、誰の目にも明らかである。
 自分が出演する番組で、パレスチナ・イスラエルの関係や分離壁に関して、偏った解説がなされるのは許せない。今まで人民新聞で私が書いた記述とも異なるので、嘘つきにされた気分だ。
 私は、そうした異議内容を説明し、「変更しないなら、出演を拒否する」と通告した。同時にフェイスブックで経緯を説明し、意見を求めた結果、多くの友人たちが私の怒りに同調し、意見を発信してくれた。「パレスチナの平和を考える会」の役重氏は、以下の的確な文案を送ってくれた。

「イスラエルに隣接して、パレスチナ人が統治する『パレスチナ自治区』」という表現には重大な事実誤認がある。また、分離壁が建設されているのは、パレスチナ自治区とイスラエルの境界ではない。イスラエル領に隣接するのは、西岸地区とガザ地区からなる被占領パレスチナ領。そして、西岸地区の一部の土地に飛び地状に指定されているのがパレスチナ自治区。分離壁の大部分は、C地区と呼ばれるパレスチナ自治区ではない被占領地の内部に建設されているため、国際司法裁判所によって国際人道法違反と勧告されている。

 テレビディレクターは、慌てふためいて電話をかけてきた。イスラエル情勢に関して無知だったことを詫び、「再度テキストを考案する、問題の場面をカットすることも考えている」とのこと。さて、どうなることやら。

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