「自分が生きる社会」にこれからも向き合っていく

ヘイトスピーチ・原発・安保法制・・・

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龍谷大学学生 邊 玲奈さんインタビュー

活動する若者に、今回の参院選はどう見えたのか? 安保法制に対する抗議行動に取り組み、反ヘイトスピーチや原発問題などに関わり続ける邊玲奈さん。ARAWやSEALDs関西、関西市民連合などで幅広く活動する邊さんに、(1)自民党改憲案・野党共闘への評価、(2)参院選を念頭にこれまで取り組んだこと、(3)在日としての背景と思い続けていること、をインタビューした。

(編集部・ラボルテ)

-自民党の改憲案について
:「やばい」の一言です。それは、(1)基本的人権の本質を規定した憲法97条が削除され、(2)現行憲法での「公共の福祉による制限」は権力の都合を優先できるような「公の秩序/利益による制限」に変わり、(3)緊急事態条項では三権分立・地方自治・基本的人権の保障を制限し、市民に義務を課すことができます。
 「創生『日本』」(右派超党派議員連盟)が主催した2012年の集会では、長勢甚遠氏(自民党・元衆院議員)が「改憲案に欠点がある。アメリカに押しつけられた基本的人権・国民主権・平和主義がまだ残っているからだ」と平気で発言しています。
 そもそも憲法は市民が国家権力を縛るものなのに、改憲案は国家権力が市民を縛るものになっています。自衛隊を国防軍にする/しない以前の問題で、「人をどこまでバカにするんだ」とムカついています。人間として見ていないですよね。

-野党共闘への評価は
:1人区32選挙区の中で、反改憲勢力が11人当選したことを肯定的にみています。これまでの様々な社会運動は、向かっていく方向は同じでも、部分的な差異から全面対立する傾向にありました。一緒に共闘できる過程をつくったことは、今後も引き継がれていくと思います。実際に参院選直後の東京都知事選で野党共闘が行われていますし。
 しかし、「応援したい、国会にいてほしい」と思える候補者はいても、野党が頼りないと感じます。これは朝日新聞の世論調査(7月11日・12日)でも明らかで、有権者の71%が「野党に魅力がない」と答えています。野党間の政策を詰めて鮮明に打ち出す、独裁とは違うリーダーシップを発揮することが必要です。

市民運動は確実に前進

-選挙や政治活動に関わった経緯は
:私は以前から集団的自衛権反対を訴えてきました。また、安保法制の強行採決後から、一緒に活動する仲間たちと「参院選で改憲勢力に議席の3分の2を取らせない」と話していました。
 大局的にみれば、市民運動は確実に前進しています。3・11による危機感で、原発を全基停止させた実績があります。ヘイトスピーチ問題では、在特会を実力阻止するカウンター行動が全国各地で取り組まれ、有田芳生さん(民進党・参院議員)が、ヘイトスピーチ対策法(6月施行)を成立させました。これは市民運動の成果です。
 一方では、「どうせ変わらない」という雰囲気も漂っていました。去年末、私が卒業した朝鮮学校の同窓会では、「安保法が通ると思ってたわ」と言われたり。私は、「最低な状況」にさせたくありません。自分のエゴかもしれませんが、せめて、自分や家族、友達が平穏に暮らせる社会にしたいです。

友達20人に一時間ずつ電話

―参院選で取り組んだことは
:私が通う龍谷大学では、学生・教職員のオール龍谷で安保法制に反対するグループ「ARAW」があります。ARAWは安保法制強行採決後、当初は「関西各地の学生によるデモ」を企画していました。けれど、「大学の中の一人ひとりと話し合っていくことが大事」という結論に至ったんです。学内シンポジウム開催といった大きなものから、「CHAT FOR DEMOCRACY」という対話型イベントも6回行いました。
 念頭においていたのは、(1)一方的に意見を押しつけないこと、(2)考え方や背景の異なる人たちを大事にすること、(3)論拠やデータをもとに話し合うこと、です。安倍さんや他の多くの政治家たちは、経済や社会保障政策の実績をうまく見せかけて、感覚を麻痺させるぐらい大きなウソをついています。裏返せば、根拠を少し調べるだけで、実態がみえてきます。
 また、私は林久美子候補(滋賀県・民進党)を応援し、『HOW TO VOTE』という投票の方法を記載したガイドブックを駅前で配ったり、事務所で電話掛けをしました。
 学内で私個人としても、ゼミの友達など約20人に、電話で1時間ずつ選挙のことを話しました。参院選があることを知らない友人もいれば、「3分の2ってなに?」という反応もありました。「相手が何を考え、やっているのか」ということと、「私は」という主語を大事にして伝えるようにしました。その子が他の友達に伝えていって、選挙を話題にする輪が広まっていったように思います。
 しかし、参院選の結果、関西では京都を除けば自民・公明・維新の独占状態となりました。滋賀では「勝てる」と見込んでいたんですが、約4万票の差で負けたので、危機感を覚えています。「マジで終わってる」というのが率直な感想です。今も複雑な気持ちで、できなかったことを挙げればキリがない。でも、「できることは最大限に取り組んだ」と自負しています。

自らの背景・存在を通して

-選挙権を行使できない一方で、有権者に選挙を呼びかけることについて、どのように思っていますか
:「選挙権を持っていない可哀想な自分」とは思っていません。有権者たちの主権者としての自覚のなさに、怒りを感じました。
 学内の投票率向上を目指した活動に関わっていたんですが、「私が選挙に行こうよ」という思いと違っていたんです。「お祭りみたいに楽しいし、選挙に行くと得するよね」というスタンスで推し進めていたので、私は「そんな甘っちょろいもんじゃないわ」と違和感を感じていました。
 しかし実際には、龍谷大学の期日前投票で約400人が訪れたとのことです。今では選挙に結びつけた取り組みの効果としては大きかったと、肯定的にみています。合理的に投票率を向上させることも重要だし、一方で選挙や政治への思考を日々深めることを怠ってはいけないとも思っています。

兄の心配

-在日というアイデンティティのことで、しんどかった経験は
:7月中旬に朝日新聞の取材を受け、大阪版に掲載されました。本名も顔も出して、選挙権がないことも明言しました。後日、兄から「こんなスレが立ってるけど大丈夫?」と連絡があり見てみると、2ちゃんねるやヤフー知恵袋などで私をバッシングする内容が、約50件のスレッドで上がっていました。
 覚悟していたことですが、実際のものを目にするとしんどかったです。ですが、兄の方が私以上にしんどかったと思います。私も自分自身のことより家族のことを書かれるほうがしんどいので。
 でも、先生や友達からは「仕方ないよね」といった反応が多くて、内心は「立場わかってんのか、お前らも加担してる立場やぞ」って。やるせないです。
―邊さん自身が、様々な社会活動にかかわるようになった経緯は
:2013年に在特会が梅田駅周辺(大阪市北区)で行ったヘイトスピーチを目の当たりにしたことがきっかけです。私はちょうど朝鮮高校を卒業したばかりで、幼稚園から高校までずっと在日しかいない環境で育ってきたんです。
 「今から日本社会に出るんだ」という矢先に在特会のデモと鉢合わせして、警察も誰も止めず、あの情景と罵声に、言葉にならない感覚を覚えました。みんな何にも言わないし、友達が泣きながら在特会に抗議すると、警察に取り押さえられました。街中は私たちの存在を根底から否定する憎悪の言葉で満ちているのに、周りの大人たちは「仕方ない」「これが現実」という人が多くて・・・。そんな中、ヘイトスピーチに抗議するカウンター行動が始まり、「私も社会の一員として行動しないといけない」と実感できました。

生活の中での自分の立ち位置

 さかのぼれば、高校1年生の頃に3・11を迎えました。「他人ごと」に思っていたのも事実です。しかし、原発は私たちが生きる社会でつくりだした問題の一つで、私自身が社会の一員です。ひとりの人間として声を上げ、行動する責任があります。これは、朝鮮高校で、子どもの貧困問題や「世界がもし100人の村だったら」をテーマにした授業で、先生が「責任」を説いてくれた影響です。
 とても個人的なことですが、私はコーヒーが好きです。一方で、世界各地の多くの生産者が、劣悪な労働条件で働かされ、生きています。この現実を知っているのに、「普通にコーヒー飲んで笑って楽しんでるだけじゃ、いけないよな」って思います。日本の国際政治での立ち位置と、生活の中での自分の立ち位置ってなにかな、って。この世の中、人の数だけ問題があり、「どれが一番大事か」って順位付けできないし、全部解決するのは無理かもしれません。
 でも、私たちには、自分が生きている社会に対する責任があります。関係ないことだって目を背けるのではなく、これからもひとりの人間としてちゃんと向き合っていきたいと思います。

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