いま欧米では 米メディアとイスラエルの特別な関係

アメリカを精神面で占領するイスラエル

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ロッド・サッチ(ワールドブック&エンカルタ百科事典元編集者)
翻訳・脇浜義明

 ロレッタ・アルパーとジェレミー・アープの脚本・監督の映画『アメリカ人の心の占領―米国におけるイスラエルのPR戦争』(2016)は、他国と比べ何故米国の主流メディアがイスラエル・プロパガンダのパイプ役になるのかという問題を投げかけた。この問いに答えるべく、映画はイスラエルの「ハスバラ」(プロパガンダ)だけでなく、パレスチナ人の人権や民族的権利の徹底的拒否を描いて占領の根本原因に光を当てている。米国大統領選中イスラエルのハスバラが推進されるであろうから、映画のタイミングは上々である。

メディアの非対称報道を暴く

 映画は米国―イスラエル「特別関係」の比較的知られていない側面を暴き出し、米国人大衆がメディアの偏向報道に影響されてイスラエルの言い分を信じ込み、支持する理由を説明している。使われている映像は、パレスチナ問題をよく知らない人だけでなく、よく知っていると思っているベテラン活動家をも惹きつけるだろう。
 映画の最初のシーンは2014年のガザ空爆で、観客はフィラデルフィア州ぐらいの小さな地域に2万3000トンの爆弾が注ぎ込まれたことを知る。
 米国の家庭のTVで映される大虐殺シーンにもかかわらず、テレビの解説はイスラエル寄りで、パレスチナ人をユダヤ人嫌悪者、イスラエルをアラブに包囲された犠牲者のように表現し、イスラエルのガザ封鎖にまったく触れないことを、映画は指摘する。次に映画は、1947年の不当な国連パレスチナ分割決議、その後に続いて起こる民族浄化、1967年戦争、入植地拡大、占領地西岸地区の分離壁建設、チェックポイント、ガザ封鎖など、パレスチナの闘いの歴史を簡潔に紹介し、それから何故米国のメディアがこの歴史と現在パレスチナ人が置かれている状況を伝えないのか、という問題へ戻る。
 しかし、米国メディアがずっとそのように偏っていたわけではないことも、映画は紹介する。1982年のイスラエルのレバノン侵攻のとき、短い間ではあったが、米主流メディアは新「帝国イスラエル」が台頭したのかと疑問を投げかけたときがあった。そのときのイスラエルは、巨人ゴライアテと闘うダビデではなく、地域のならず者で、国際的に認められた国境を無視して拡張、1万7000人以上のパレスチナ人とレバノン人、それもほとんど民間人を殺害した怪物扱いされた。このとき初めて米国メディアはパレスチナ人虐殺 ーサブラとシャティーラ難民キャンプの虐殺を伝えた。
 これがイスラエルにとって大転換の契機となり、ハスバラ産業の誕生となった、と映画は説明する。それを専門的に担当する閣僚ポストを作り、米国のミラー・ライト・ビールのコマーシャル「腹は張らず味は最高」を作成した伝説的なカール・スピールヴォゲルなど、マディソン・スクエアー・アヴェニューの広告専門家を採用して、ハスバラ事業を興した。
 最後には右翼米国世論調査専門家で政治コンサルタントのフランク・ランツと相談、フランツはイスラエルの主張を飾る語句を考案した。メディア批判者ノーマン・ソロモンが映画の中で「言語学的に操作されたうさぎの穴」と評した語句である。
 ランツは、入植地をイスラエルの広報活動にとって最大の問題だと考えた。彼はパレスチナ人をテロリストと描くことでイスラエルの土地略奪や領土拡大から世間の目を逸そうとした。「テロが問題、テリトリーではない」という標語である。話の筋を変えるためにランツが提案した5点(「映像の世界ではこちらの負け戦だ」と彼は書いている)の役に立ったのは、2014年ガザ攻撃のとき、米メディアが「ロケット弾が雨あられのようにイスラエルへ降り注ぐ」というような句を繰り返し流してくれたことだ。映画はこの句をお経のように繰り返す人物の顔をカットごとに映している。米国のイラク侵攻に至るまでの間も、「キノコ雲という決定的証拠がある」という決まり文句が毎日繰り返されて、イラクに大量破壊兵器があると国民を信じ込ませたことが思い出される。新聞も同罪で、レクシスネクシムのキーワード調査によれば、ハマスの「ロケットが降り注ぐ」というキーワードが6900回使われたのに対し、イスラエルのガザ封鎖という語句は800回以下だった。
 まれに主流メディアがパレスチナ人の主張を報道すると、番犬役のイスラエル・ロビーが、その番組を担当したアンカーをハマス派だと大騒ぎする。パレスチナ人ジャーナリストのルーラ・ジェブリルは映画の中で、オーストラリアのチャンネル4のような報道TV局と比べて、これを「米メディアの恥辱」と呼んでいる。チャンネル4のアンカーがイスラエル政治家を厳しく批判する場面を映画が見せているが、これは米国テレビ界では絶対起きないことである。米国主流メディアがイスラエルだけを贔屓にしているのではないのは言うまでもない。米国家の戦争を支持するように世論を操作するプロパガンダは、得意中の得意である。

イスラエル・ロビーの実態追究

 『アメリカ人の心の占領』は、イスラエル・ロビーの役割を追及している。また、米・イスラエルの「特別関係」が始まったのは、ニクソン政権がイスラエルを中東における米国のエネルギー権益を守る「地域担当警官」に「任命した」ときからだと説明している。1960年代後半から米国の対イスラエル軍事援助費が急増しているグラフを見ても、このことは明らかである。
 このドキュメンタリー映画はフィリス・ベニス、マックス・ブルーメンタール、ノーム・チョムスキー、アミラ・ハス、スート・ジャリー、ラシード・ハリディー、ラミ・クーリ、ユーセフ・ムネィールなどの著名人の賛同を得ている。主流メディアが企業支配下にあるからといって、映画製作者たちは絶望していない。彼らは、ソーシャル・メディアの発展、対抗的メディア発信局の成長、BDS運動などに希望の光を見ている。

フランス「ユダヤ旅団」のネット右翼活動

アリ・アブニーマ(電子インティファーダ、6月17日)

 「ブリガード・ジュイーヴ」(ユダヤ旅団)と名乗るグループが、パレスチナ連帯活動たちに脅迫メールを送っている。メールを受信した人は絶対にどこもクリックしたり、添付ファイルを開いてはならない。Eメールにはマルウエア(破壊工作ソフト)が含まれており、コンピューター破壊だけでなく、ネットワークへの不正アクセスされる恐れがあるから。
 メールはフランス語で「イスラエル・ボイコットの皆さん」という挨拶で始まり、次にひどい英語での「我々は特別な技術を長い間かけて身につけたので、それでお前たちに悪夢を見させてやる」というような内容の文が続き、最後はフランス語で「要するに、我々がお前たちの頭の皮を、一人ひとり、グループごと、連合体ごとに、剥いでいってやることを、お前たちBDS屋は知るべきだ」とある。
 ブリガード・ジュイーヴはイスラエルとユダヤ人社会を守る称する過激ユダヤ人グループで、そのウェブサイトは、BDS(イスラエルのボイコット、脱投資、制裁)運動に関わる者たちを暴力集団に「知らせ」て制裁すると宣言している。この名称は第二次世界大戦で英国軍指揮下で闘ったユダヤ旅団から借用した名前であることは明らかで、ユダヤ旅団の兵士たちは、シオニズム運動の一環としてパレスチナの植民地化に協力した。ブリガード・ジュイーヴのフェイスブックには8000以上のアドレスにメールを送ったとあり、BDS活動家の頭皮を剥ぐというのは「比喩的表現」だと弁解。
 こういう嫌がらせは、イスラエル政府が国内の活動家への弾圧と恫喝を強化させたのに付随して盛んになった。単なる嫌がらせならよいが、ユダヤ人極右グループの暴力の歴史を考えると、用心に越したことはない。

脅迫・サイバー攻撃

 電子インティファーダが得た情報によると、ヨーロッパの活動グループの中には脅迫罪の罪で当局へ訴えたところもある。パレスチナ人の人権擁護グループ、フランス・パレスチナ連帯協会は、脅迫メールを受け取った場合は「人種差別と反ユダヤ主義と闘う仏閣僚間機関(DILCRA)へ報告するように」と会員に指示した。
 フランスには、反パレスチナ過激派がオンライン攻撃してきた長い歴史がある。ウルカンの名で知られる元ユダヤ防衛同盟員グレゴリ・シェリが、新聞記者によって自分の批判記事が書かれたことへの報復として、リュ89(訳注:2007年大統領選に関連して左派系紙リベラシオンの元記者が設立したネット新聞)に対してサイバー攻撃を仕掛けたといわれる。ウルカンは他にもBDS活動家を標的にした悪意ある攻撃を仕掛け、リュ89の記者ル・コーの父が心臓発作で死亡したのは、ウルカンのテロの影響である。

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