「あなたの環境は変えられる!」

在日外国人女性支援の現場からー社会的企業支援法制定を

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ワークメイト代表 もりきかずみさんインタビュー

 「移住労働者からみた日本社会」第3弾はワークメイト代表・森木和美さんのインタビュー。同氏に、(1)当事者として関わった80年代の国籍法改正運動、(2)移住労働者を対象にした就労・生活支援の取り組み、(3)自立・エンパワーメントとはなにか?を聞いた。「移住労働者が抱える問題は、日本社会が抱えている普遍的課題」だ。「外国人労働者の仕事づくりを行政が支援する」ための社会的企業支援法の制定、「自己責任論ではない自立概念」など、日本社会を見直す発想や手法が数多く含まれている。

(編集部・ラボルテ)

―活動のキッカケは?
 私自身の当事者経験が出発点です。大学卒業後にベルギーへ留学し、その後も海外生活を送るなかで、ブラジル人の夫との間に子どもが生まれ、日本での生活を希望しました。ところが「夫・子どもの在留資格は認められない」と言われ、子どもたちにも日本国籍がありませんでした。理由は、当時の国籍法に「日本人父の子どもが日本国籍を得る」という女性差別と子どもへの不平等をもたらす規定があったからでした。夫は外国人駐在員として、なんとか日本に住むことが認められ、子どもはブラジル国籍で日本に暮らすという「外国人家族」の経験をしました。
 法律が女性差別・外国人差別を肯定しているのですから、法律を変えなければいけません。当時、「アジアの女たちの会」などのNGOが進めていた女性運動・国籍法改正運動に加わり、私は当事者団体である「国際結婚を考える会」を立ち上げました。その後、署名活動をはじめとした運動や女性差別撤廃条約・難民条約締結の成果によって、1984年に国籍法は改正され、私自身が抱えていた問題はクリアできました。

アジアの女性たちとともに

―「支援者」側に関わるようになったのは?
 「アジア女性自立プロジェクト」の結成(1994年)です。日本へ出稼ぎに来たエンターテイナーの女性たちの失業や貧困状態の改善、エンパワーメントとしての自立支援を行うための取り組みをしています。
 これは、アジアの女性団体から「日本へ出稼ぎに行った女性たちの帰国後の生活が困窮している」と問題提起を受けたことがきっかけでした。具体的には、仕事づくりになるフェアトレードを始め、いまは4カ国でやっています。例えば、フィリピン首都・マニラにある現地NGO団体「ランパラ・ハウス」では、伝統的な織物などの素材を使って縫製技術を習得した当事者女性たちが製品を作り、アジア女性自立プロジェクトが日本で販売しています。
 また、阪神淡路大震災後、アジアの人々が孤立していたので、アジア女性自立プロジェクトが相談事業を始め、やさしい日本語や英語による情報発信を展開しました。加えてエンパワーメントの具体策として、日本語教室や料理教室、パソコン教室といった場などを運営してきました。
 次第に外国人支援の地域的な基礎ができ、神戸では「神戸外国人救援ネット」、全国的には「移住連」(移住者と連帯する全国ネットワーク)が発足しました。地域で抱えている問題を移住連で共有し、政策提言を進めることで、立法や行政施策に反映させる取り組みを進めています。例えば、DV防止法では、対象から外されていた外国人女性を組み入れ、警察庁や入国管理局に対して「被害者の在留資格に配慮する」という通達を出させました。
 相談を受けてわかったのは、その時は解決できても、また同じような問題や別の問題を抱えてしまいがちなことです。相談者の人生まるごとに付き合っているかのような、複合的で構造的な問題があります。これは、社会的・法的環境を変えることも必要ですが、ひとりひとりが力をつけて、安定した生活基盤を作ることも重要です。こうした問題意識から、2年前に「ワークメイト」を立ち上げました。

―具体的な取り組みは?
 大まかにいうと、(1)外国人雇用に関する事業者・求職者双方からの相談受付、(2)暮らしや仕事に不可欠な日本語習得のクラスや子どもへの学習支援、(3)フィリピン人向けのタガログ語ニュースレターを発行しています。仕事を作るというより、企業と外国人労働者を結びつける中間支援的な役割を担っています。
 ニュースレターには、日本での生活で知っておくべき情報をタガログ語で、英語表記の求人情報・労働条件なども掲載しています。またハローワークや兵庫県補助事業を受けているNPO法人「生きがいしごとサポートセンター」と提携して、求職者の企業面接にも同行しています。

コミュニティ形成の試み

 私たちのまわりには、フィリピン人シングルマザーが多くいます。彼女たちのなかには、人身売買被害にあって、神戸外国人救援ネットにつながった人たちもいます。貧困や教育問題から当事者の高齢化など、女性たちが直面する課題はより多様化しつつあります。
 このような状況の中で、「すこし違う形で組織化して、フィリピン人・コミュニティを形成できないか」と考え、「マサヤン・タハナン」というフィリピン人母子のグループをワークメイト内に立ち上げました。そこでは、日本語教室、子どもたちへの学習支援、タガログ語教室の3クラスを開講しています。これは日本人ボランティアとの交流や参加者の「居場所」にもなっています。
 よく「社会人の常識」と言われますが、そもそも日本社会独特のことが多いので、学ばなければわかりません。「履歴書の書き方がわからない」といったことや、企業面接に子どもを連れて行ってしまったケースもありました。こうした「常識的」なことについて、ニュースレターで伝えています。

人権NGOを偽る人身売買事件の多発

 ワークメイトの取り組みを通して、様々な課題が見えてきます。一例をあげれば、求職者の母語や日本語能力に応じた労働条件の明示・契約書交付が必要でしょう。また、「企業側は8時間労働を希望しているが、女性たちは育児・家事の兼ね合いから4時間しか働けない」ことなど、条件マッチングの難しさを痛感しています。
 また、フィリピンで生まれ育ったJFC(日本人父とフィリピン人母の子ども)が、日本へ移住・就労する事例が増えていますが、ブローカーによる新たな人身売買の被害に遭う事例が身近に起きています。人材派遣コーディネーターをしている知人に相談し、フィリピンからの旅費の補助や寮の確保、さらには労働条件の明確化や社会保険加入など、JFC当事者のことを第一に考えた環境整備に努めました。
 ところが、「人権NGOを偽る人身売買事件が頻発している」ために、JFC当事者からの信頼が得られませんでした。誤解が解けて、本人自身が「日本に行きたい」と決心した際には改めて応援したいです。ブローカーを介することで、多額の手数料などの借金をさせられ、労働条件が不透明な環境で働かされている事例が多くあります。JFC当事者に私たちの存在を広く知ってほしいです。

―世界的な不況に加え、日本人の雇用・労働環境も厳しいという現実があり、外国人市民への就労支援はより難しいと思います。違ったアプローチが必要なのでは?
 社会的企業支援法の制定を求めています。参考にしているのは、韓国の社会的起業育成法です。特徴は、(1)社会的弱者に対して公共サービスを供給すること、(2)供給する主体は民間の非営利団体・社会的企業であること、(3)起業や事業運営に必要な人件費などを行政が支援すること、です。これは市民運動の成果として制定されたもので、賃金水準の低さなど問題点も指摘されていますが、日本より進んでいます。
 私たちは現在、就労/生活相談・居場所・学習支援・情報発信の一環を担っていますが、限界があります。一歩踏み出して、仕事に直結するような公的支援が必要です。

エンパワーメントが自立につながる

―これまでの経験から「自立」を基軸に取り組まれていますが、自立の意味とはなんでしょうか
 「あなたの自己責任だ」と本人を突き放すことや、「単に仕事をすること」だけが自立ではありません。
 自立とは、能力をつけていくこと、自己決定の選択肢をより多く持つこと、そのための環境を獲得していくことです。DVや労働搾取を受けなくてもいい状況を作ること、問題を抱えてしまった時に「どのように対応するか」という力を身につけていくこと、主体的に行動できる自信と能力をつけることも自立です。したがって、エンパワーメントの過程が自立につながると考えています。
 例えば、相談先を知ることや、被害時の証拠を残しておくこと、困窮した時には生活保護などの救済手段があることを知っておくことも、よりよく生きぬくための力のひとつでしょう。日本語能力や情報収集能力を身につけることも、自立=エンパワーメントです。また、冒頭に述べたとおり、私自身がもともとは当事者で、取り組んだ市民活動によって国籍法を変えることができました。国籍法を変える取り組みが私自身のエンパワーメントの過程だったのだと思います。
 自立のための側面支援は続けますし、「こんな環境、変えられるわけがない」と思い込んでいる人に対して、「あなたのいる環境は変えられる」と伝え続けていきます。

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