那覇市議会議員(沖縄社会大衆党) 平良 識子さんインタビュー
在沖縄米軍による犯罪が、またもや明らかになった。「狙う女性を2〜3時間探し、見つけた女性を背後から棒で殴って襲った」(容疑者・米軍属の自供)という強姦事件である。加えて被害者女性の遺体を、用意していたスーツケースに入れて林の中に遺棄する、という残虐さである。
「米軍は『二度としない』と言いながら、事件を繰り返す」(被害者の同級生のコメント)─被害者の家族・親族・友人はもとより、沖縄の悲しみ・怒りは言葉には尽くせない。安倍政権は、沖縄の怒りに共感・代弁するポーズをとりながら、5月31日には「米軍再編交付金」の支給対象を、基地のある自治体や都道府県に拡大する方針を固めた。以前、辺野古新基地に反対する名護市の頭越しに、辺野古3地区に直接交付したことを制度化しようとするものだ。また、この事件直後の日米首脳会談でも、辺野古新基地建設について、「沖縄の負担軽減が唯一の解決策という立場は変わりない」とするなど、沖縄への高圧的な姿勢に変化はない。
容疑者が軍属として勤務していた嘉手納基地では、事件に抗議する市民による抗議が連日のようにおこなわれ、沖縄県議会や県内の市町村議会では、抗議決議と意見書の可決が相次いでいる。6月19日には、午後2時からセルラースタジアム那覇で「米軍属女性遺棄事件抗議!沖縄県民大会」がおこなわれる。那覇市議会議員(沖縄社会大衆党)の平良識子さんに話を聞いた。名護市からの現地報告(2面)と合わせて掲載する。
(編集部)
米軍の性暴力は氷山の一角に過ぎない
──米兵から被害を受けた人は多いのですか?
平良:沖縄が日本に復帰して44年、米軍関係者による事件事故が5862件、その内、今回の事件のような殺人、強姦などの凶悪犯罪だけでも571件。毎年起きています。
しかしそれ以上に、被害総数の実態は、なかなか見えません。今回の事件は、容疑者が逮捕されたことにより、事件が明らかになりました。とりわけ女性への暴行事件は、非常に深刻なのですが、事件化したのは氷山の一角です。
沖縄戦で米軍が上陸してから今に至るまで、沖縄の女性たちは絶えず米兵からの性暴力に晒されてきました。戦後71年経っても暴行殺人遺棄事件が起こり、過去に米兵から被害に遭った関係者からの「同じような経験をして沈黙していたけれど、もう黙っていられない」という新聞投稿もありました。沈黙を強いられた被害者は、まだたくさんいるんだと感じます。
──米兵の姿は、基地の外ではよく見かけるのですか?
平良:そうですね。とりわけ夜の繁華街では多いです。
今年3月に、那覇市内のホテルで、女性観光客が米兵の性暴力の被害に遭っています。この米兵は、米軍キャンプ・シュワブ所属の海軍兵士で、5〜6人の仲間と一緒に那覇市のホテルに宿泊していました。
これまでも、米兵による犯罪が明らかになるたびに、「綱紀粛正」「再発防止」の一環で、外出禁止令が実施されてきました。午前0時の門限までに帰ってくること、夜間外出や基地の外での飲酒禁止、といった内容です。
ところが、実はこの禁止令の網をかいくぐり、基地外で宿泊することで、禁止令の時間帯を基地外で過ごす米兵が多くなったと指摘されています。ですから米軍の「綱紀粛正」「再発防止」なんて、まったく解決策となっていないのです。
今回の遺棄事件を受けて、在沖米軍のローレンス・ニコルソン四軍調整官が「綱紀粛正」「再発防止」を発表した直後の6月4日にも、嘉手納基地所属の海軍兵士が飲酒運転による交通事故を起こしています。道路を逆走し、車2台に正面衝突し、女性が重傷を負いました。しかも、米兵の呼気から基準値の6倍のアルコール濃度が検出されました。
こういう犯罪や事故は、基地があるが故に起こる事件です。米軍基地をなくさなければ、今後もこうした事件が起こる、ということを認めてしまうことになってしまいます。「綱紀粛正」「再発防止」が不可能であることの証左です。
地位協定改定と基地撤去は政府の責務
──沖縄では連日の抗議行動が続いています。
平良:今、多くの県民から、「全基地撤去しかない!」という声が湧き上がっています。辺野古への新基地建設なんて言語道断であり、根本的な問題として、「海兵隊は撤退せよ!」「すべての基地の撤去を!」という声が大きくなっています。
彼女の命は、基地がなければ奪われることはなかった。結果的に基地をなくせなかった政治責任を感じます。そしてたった0.6%の国土面積に74%の米軍基地を集中させ続ける日本政府と無関心な日本国民への怒りを感じます。
米軍関係者による事件事故の総数からみても、こんな異常な状態に置かれ、放ったらかしにされている地域は、日本の他のどこにありますか?日本政府は、沖縄を日本と見なしていない、と言わざるを得ません。
サミットの前に、日米首脳会談がありました。オバマ大統領も安倍首相も言葉だけを並べているけれども、沖縄にとっては、意味のない内容でした。オバマ大統領からは謝罪さえなく、トップの責任回避をし、安倍首相に至っては、日米地位協定の改定を求める提案すらしませんでした。日米地位協定は、憲法を超えて米軍人軍属に対して特別的な地位をあたえる、日本人にとっては非常に差別的な内容ですから、日米が対等な国家であるならば、改定を求めるべきです。
今回の事件の容疑者は軍属ですから、日米地位協定の本来の内容からすれば、守られる対象範囲となります。米韓地位協定と比べても、日本にとって差別的な内容になっています。地位協定の改定を求めない安倍首相は、国のトップとして、国民の命や安全を守るという視点が欠如していると言わざるを得ません。
──政府は、パトロールを増やすなどの対策を打ち出しました。
平良:的外れで、場当たり的なひどいものだと思います。政府は、(1)国によるパトロール隊の創設、(2)警察官100人、パトカー20台の増強、(3)防犯灯や監視カメラ整備、を発表しました。場当たりな内容ばかりで、馬鹿にするのもいい加減にしろ、と言いたいですね。在沖米軍基地を撤退させる、地位協定を改定するのが政府の本来すべき対策です。
世代を超えた基地問題の反響
──沖縄県議会選挙で、翁長知事与党が大勝しました。県議選の雰囲気は?
平良:知事与党の勝利は、翁長知事の就任以来1年半の政治姿勢、取り組み、行政手腕が有権者に評価された結果だったと思います。知事は、辺野古新基地建設阻止の公約である基地問題だけではなく、子どもの貧困対策、経済政策などのさまざまな取り組みをおこなっています。それが翁長知事を支える「オール沖縄」の勢力が大勝した、という結果につながっていると思います。
それとともに今回の事件に対する沖縄県民の憤りの声が大きかったのです。オール沖縄の原点となった「建白書」は、普天間の閉鎖・返還と、県内移設(=辺野古新基地建設)の断念を求める内容です。県議選では、県民の世論が建白書を超えた、と感じさせられました。
今回の事件に対して、もはや言葉では表現しようのない、臨界点に達した沖縄の怒りが、県民の投票行動に表れたのだと思います。私は今回の県議選において候補者の応援演説のために各地を回りましたが、今回は若い人も含めて、基地問題への反応が大きかったことを感じました。
告示前に事件が発覚したこともあり、この事件についての発言をどうしても避けるわけにはいきませんでした。マイクで訴えながら市民の反応として、世代を超えて、「もう基地撤去しかないよね」と大きく動いている、沖縄県民の気持ちを実感しました。
危機的状況を変えるために
──安保法案が成立しました。参院選も控えています。沖縄から見た日本はどう映りますか?
平良:民意が無視され、平和憲法が変えられようとしている危機的状況ですね。日本、大丈夫ですか?という感じがします。
参院選に向けては、「オール沖縄」のような野党統一候補の取り組みが、本土でも進んでいます。自公以外の票は、野党が上回っています。これまでの選挙では、野党が票を奪い合い、結果自公が当選してしまう、ということが繰り返されてきました。今、憲法改正の平和が後退する安倍政権の日本の政治の危機的状況に対して、安倍政権を倒すという目標で結集し、沖縄方式で「野党統一候補」をみんなで擁立する取り組みは、大変意義のあることです。
各政党、個人の主張はそれぞれ違うのは当たり前です。今は日本にとって危機的状況なので、政治や政治家の責任として、そこは許しちゃいけないと大同団結して、政治を変えていくことが大事です。そのためにまず選挙に勝つことが大事なのです。
──「沖縄の自己決定権」について聞かせてください。
平良:翁長知事は当選後1年半で2回訪米し、米政府・議員や市民などに辺野古移設に反対する県の意思を伝えています。これは自己決定権の発露ですよね。また知事は、昨年9月にジュネーヴで行われた国連人権理事会に出席し、「沖縄の自己決定権や人権が蔑ろにされている」という歴史的経緯を訴えました。このことは、沖縄の歴史にとって、重要な一歩となりました。
また、日本政府が辺野古新基地建設で、和解案を受け入れました。これは、翁長知事を先頭とした県民の民意が、政府にそうさせたということです。これまで、沖縄の声に耳を傾けようとせず、工事を強行するだけだった日本政府でさえ、和解案を受け入れざるを得なかった、という事実は、沖縄がそこまで追い込んだ、一つの成果・勝利だと言えます。