現職知事の裏切り 野党共闘の奮起と限界
尾﨑正直県知事(以下尾崎)が、4選不出馬と自民党からの国政挑戦を表明したのが8月21日。国政挑戦は噂されていたが、「自民党」「高知2区から」に驚き、裏切られたと感じた。さらに尾﨑は、後継候補まで指名した。
カネにモノ言わせる自民党県政の弊害を払拭した橋本大二郎県政。その4期16年間を継承し、自民党色はないと勝手に思いこんでいた。また、高知2区は、2017年衆議院選挙で、野党統一候補=広田一を無党派市民が全力応援。現職自民党候補に2万票差をつけて勝利した選挙区。そこを、自民党が奪い返そうというのか。尾﨑の3期12年間は自民党に与する国政への地ならしだったと知り、怒りが噴き上がった。
さらに、「桜を見る会に後援会員を招いてどこが悪い」とも放言。二階派に入ると言う。尾﨑のどす黒い正体に言葉を失う。
高知県の民主的市民団体「憲法アクション」は、2014年閣議決定による「集団的自衛権の行使容認」、翌15年「安保法制」の強行採決に抗議すべく発足、活動している。政権が憲法を壊しているという危機感からだ。
この団体の呼びかけ人会議で、尾﨑後継に対抗する候補選びが難航し、数人の該当者に固辞されたと聞いた。「カネもかかるし、見合わせようか」というつぶやきに、「尾﨑のバケの皮が剥がれた今、黙っているわけにはいかない!」と私は主張した。そして、7月の参議院合区選挙で自民党候補に善戦した、35歳の松本けんじさんが出馬を決めた。
若い松本候補は、応援しがいのある候補だった。今回も、めざす県政を、熱くわかりやすい言葉で語った。「ここでいっしょに生きよう」「あなたの一票でだれ一人取り残さない高知県政へ」「高知のことは高知で決める」、そして「高知からこの国を変えよう!」と。演説を聴くたびに、内容が進化し、深化して、涙腺がゆるんだ。県外の仲間たちも、「こんな知事候補がいて羨ましい」と言った。
対する尾﨑後継候補は、「行政経験豊富」とされる。しかしその業績とは、自治官僚のとき、安倍政権の北朝鮮脅威論に乗じて菅官房長官と共にJアラート(ダンゴムシ作戦)を考案。ふるさと納税を創設(税制の破壊)。大阪副知事時代は国保料値上げ、学テ結果の教員給与への反映、カジノ誘致など。こんな業績なら、まっぴらゴメンだ。
棄権した有権者の関心
呼びさます方法は?
松本候補の応援には、志位、枝野、福島瑞穂、森ゆうこ、辻元清美、蓮舫ら、野党のお歴々が次々と高知入り。政権与党との一騎打ちの意義を力強く語った。聴衆もそれに応え、大勢が演説に聴き入り、沸いた。
相手候補応援には、菅官房長官が高知入り。演説会場を、ダークスーツのボディガードが取り囲んだ。選挙カーには、現役知事の尾﨑が乗り込み、高知市の全固定電話には「尾﨑正直です、後継候補〇〇さんをよろしく」との録音メッセージが入った。知事を名乗っていなければ選挙違反ではないらしいが、ともかく猛烈な攻勢をかけてきた。
結果は、47・67%の投票率。最大の敗因は、現役知事の応援だろう。あと、政権与党の有する組織票か。課題は、過半数が棄権した投票率の低さ。
野党共同は成立したが、政権に幻滅し、野党にも期待しない有権者の関心を、いかに呼びさますことができるのか。
この選挙の直後、平和憲法のもと軍隊を廃止し、軍事費を教育に充てた、中米の小国コスタリカを旅行した。かの国では、小学生のときから、暴力ではなく論理的に話し合って解決する姿勢を育んでいる。この国の課題も教育が鍵ではないか、と私は考えるのだが……。