【警察が大学を襲撃】攻防は年を越す
11月20日、香港当局は香港理工大学に立て籠もっていたデモ隊の制圧を発表した。理工大学の落城はデモ隊の勢いを大きく削ぐとの評価もあるが、あからさまな警察の暴力による被逮捕者・負傷者の多さからしても、容易に収束することはないだろう。 理工大に先だって警察の襲撃を受けた香港中文大学で教鞭をとる小出雅生さんに緊急電話インタビュー。長期化の理由や市民の反応などを聞いた。 (文責・編集部)
編集部:現状は?
小出:香港中文大学が警察によって封鎖された際、段崇智学長が「休戦」合意交渉のため、警察が張った非常線に近づこうすると、警察は催涙弾を発射し、学長は催涙ガスに包まれ入院しました。
香港理工大学でも、学長が、警察に武器使用の一時停止を、学生に平和的に大学を離れるよう求める声明を発しましたが、警察がこれに応じることはなく、立て籠もる学生に対して「実弾使用の可能性」を警告。校外に退去してきた救護担当の学生らすら逮捕しています。
逮捕されたデモ参加者は千人を超えており、負傷者の数も増え続けています。被逮捕者の長期拘留や刑事訴追がどうなるのか? 予断を許しません。
編集部:学生たちの要求やスローガンは?
小出:「5大要求」((1)逃亡犯条例改正案の完全撤回、(2)市民活動を「暴動」とする見解の撤回、(3)デモ参加者の逮捕、起訴の中止、(4)警察暴力の責任追及と外部調査、(5)行政長官の辞任と普通選挙)をすべて実現するまで抗議を続けるというスローガンは、今も叫び続けられています。
最近は、「香港人は反抗する」、「沒有暴徒、只有暴政」(暴徒はいない、暴政あるのみ)などに変化してきています。暴力の連鎖は、どっちもどっちではなく、暴政に責任があるという主張です。
運動の合言葉は「BE WATER(水のようになれ)」です。容れ物によって自在に形を変える水のように、事態に柔軟に応じながら抗議を続ける、という意味です。長年にわたる植民地の歴史・経験のなかで、国家に頼らず生きてきた香港人のアイデンティティも表現しています。
編集部:長期化の理由は?
小出:まず、歯止めのない警察の暴力です。コントロールが失われていると思われるほどの凶暴さを前に、若者たちは一歩も引けないと感じています。警察側も「デモ制圧まで手を緩めない」という固い意思を感じます。それでも抗議運動がつぶれないのは、組織やリーダーがおらず、個人の決意と責任に基づいて、「水のように」闘っているからでしょう。
次に、香港行政府に対する強い不信感と失望です。100万人デモ(8月30日)の後、林鄭(キャリーラム)行政長官は、市民対話集会を行いましたが、従来の主張をくり返すのみで、「対話」のアリバイづくりに終始しました。こうした官僚的態度への怒りは、一般市民層にも浸透しています。
香港中文大学や香港理工大学は交通の要衝にあるので、大学封鎖によって香港での移動は麻痺状態となりました。香港政府と警察は、この市民の不満の矛先をデモ隊に向けようと躍起になって、「過激派学生」非難宣伝をくり返しています。政府寄りメディアの一部もデモを敵視し、香港政府の主張に沿った報道をくり返しているので、市民の反感を買っています。先に紹介した「市民対話集会」のテレビ報道では、紹介された4人の市民のうち3人が警察擁護の市民という偏向ぶりを見せつけました。
香港人アイデンティティの高揚
編集部:市民の反応と今後の見通しは?
小出:世論調査でも、7割の市民がデモを支持しています。「警察改革」については、8割の市民が「必要」と回答しています。
街頭では、「チャイナチ」という落書きも見られるようになりました。チャイナ=中国とナチズムを重ねた批判です。北京政府への批判も含まれています。
香港では、今回の大規模な抗議活動をとおして、「香港人」というアイデンティティが広がっています。中国が民主化されることは当面ないという絶望を背景として、「自由・法治・多元主義」の価値を共有する香港人というアイデンティティが形成されつつあります。
習近平政権は、香港の騒乱が中国本土に飛び火することを恐れていますので、徹底した取り締まりの方針を変えることはないでしょう。抗議者も闘争を止めれば未来が失われることをはっきりと理解していますから、今後は消耗戦となります。少なくとも年を越して攻防が続くと思っています。