フィリピンは 日本の戦争被害国
警護されることで危険が増す
10月19日朝、マスコミは「政府は国家安全保障会議(NSC)を開き、日本関連船舶の安全確保のため、海上自衛隊の独自派遣に向けた検討を始めることを決めた。防衛省設置法に基づく『調査・研究』のための派遣とし、船舶警護を直接の目的とはしない」、独自派遣を決定した理由について「米国の意向に配慮しつつ、イランとの関係も維持する。こうした観点から米国の構想に加わらなかった」(読売新聞)と報じた。
なぜかマスコミは触れないが、バーレーンに本部を持つCMF(有志連合海上作戦部隊)は既存の組織であり、その下部にはCTF(合同任務軍)を置く。アデン湾での海賊対策を主任務とするCTF151へ日本人海将補を司令官として送り出している。今回の中東派遣の決定は、ホルムズ海峡を任務範囲とするCTF152への拡大であり、有志連合への不参加を意味しない。
防衛省設置法4条に基づく「調査・研究」とは何を意味するのか。「必要に応じて、海上警備行動を発令(自衛隊法82条)し日本関連船舶などの警備を行うことも検討」(読売新聞)。「防衛相の判断ひとつで自衛隊の派遣が可能。ハードルの低さから『打ち出の小槌、魔法の杖』」(朝日新聞)。こうして安保理決議も国会承認も経ない商船警護を目的とした軍隊派遣が、恒久化されようとしている。
長期にわたる軍事的対立は、不測の事態を惹き起こしかねず危険である。戦争は人間の怒りの感情を狂気へたかぶらせる。海戦法規では、軍艦に警護された商船は敵性船舶とされ、軍事攻撃の対象となる。警護されることでむしろ危険が増すのである。
日本の戦争被害国フィリピン
自衛隊が自衛隊法82条で警護できるのは日本籍船に限られるはずだが、日本商船隊の9割は既に便宜置籍船である。船員も日本人ではなく多くはフィリピン人だ。6月14日にホルムズ海峡付近で被弾し、今回の問題の契機となったKOKUKA COUREGEOUS号は、パナマ船籍、船員は全員フィリピン人、運航会社が日本の国華産業という典型例である。現在の日本の海運を船員として底辺で支えているのは、フィリピン人船員だと言っていい。
太平洋戦争での抗日ゲリラを含むフィリピン人の死者は110万人。当時のこの国の人口は1600万人。一方、日本の人口は7千万人で内地での広島、長崎を含む市民の死者数は50万人。フィリピンは中国、朝鮮とともに日本の戦争で蹂躙された最大の被害国のひとつである。
日本の石油や、船主の利益追求の手段である便宜置籍船を守るために、戦争で死んだフィリピン人の子や孫の生命が危険にさらされる。到底許されてはならないはずだ。
便宜置籍船:船主が船籍を、税金や船員の資格・労働条件などの面で有利な外国に登録している船。