差し迫る核兵器使用と核事故を隠す
米国の原爆責任と日本の侵略責任両方問うのが「ヒロシマの責務」
今年も8月6日の広島原爆投下日に合わせて、広島で多くの反核集会・デモが行われた。今年の情勢は危機的だ。米国・トランプ政権は、核兵器を巡る世界情勢を根底からひっくり返そうとしている。小型の「使える核兵器」の開発を進め、ロシアとの間の中距離核戦力(INF)全廃条約を一方的に破棄。中距離核兵器のヨーロッパと極東・アジアへの前線配備を計画しており、8月16日には試験発射を強行した。
また米軍は6月、統合参謀本部の公式文書「作戦指針」に、核兵器の戦術的な使用を正式に書き込んだ。さらに「陸上部隊や特殊作戦部隊は核爆発後の放射線環境下でも、全ての作戦を遂行する能力を保持しなければならない」として、核戦力を通常兵力と共同運用する重要性を強調した(東京新聞7月29日)。原子雲の下を兵士が目標に向かって進撃することが想定されているのだ。
これは当然中露をはじめ他国による対抗措置も促し、世界的な核軍拡競争を引き起こしている。今年の8・6は、差し迫った核戦争に向かう危機のなかで行われた。
8月5日夜、「被爆の原点からヒロシマの責務を考える―東アジアの平和のために―」集会が広島市内で行われ、180名が参加した。主催者は「日本人がアメリカの原爆攻撃の加害責任を追及できないことと、自国の侵略戦争や植民地支配の加害責任を追及できないことは表裏一体」であり、その両方を果たすことが「ヒロシマの責務」だと説明した。
核がもたらす惨事として、核兵器禁止条約の現在について広島の木原省治さんが、福島原発事故の真実と責任をいわき市議会議員の佐藤和良さんが、報告した。そして戦争の「加害」は、韓国徴用工判決への報復措置で繰り返されている。韓統連の尹康彦さんは「南北米首脳会談で朝鮮半島の非核化が進んでおり、日本政府はそれを冷戦対立へ引き戻すために韓国を攻撃している」と批判した。
また、主催者代表で歴史家の田中利幸さんは、加害の最高責任者である天皇を絶賛する現象が起きていると問題提起。
これは「トランプの一国主義や英国のEU離脱と同根だ。新自由主義経済でバラバラに液状化された個人の拠り所として、『古き良き祖国へのノスタルジア』を提示しているからだ。だが日本は新手のポピュリズム政治家ではなく、天皇制がノスタルジアの中心に居座っている。その意味で日本は歴史認識も最初から液状化しており、事態は米英より深刻だ。
そのため、消費税廃止や障がい者福祉の拡充を訴えて今夏注目を集めた山本太郎氏も、一方で6年前に天皇に原発事故被害者の救済を『直訴』し、今年自分の党名に『れいわ』と元号を付けた。天皇制こそ民主主義を壊していることも同時に問題化していかなければ、日本社会を変えることはできない。
日本の五輪は常に核がらみ 今こそ反核国際連帯を
「ピースデポ」の湯浅一郎さんがまとめを行った後、メイン講演として、東京で反五輪運動を続ける鵜飼哲さん(一橋大学)が、「今、反核インターナショナリズムを考える」と題して講演を行った。
「日本の五輪は常に核がらみだった。1964年大会の聖火リレーの最終走者は、45年8月6日に広島で生まれた坂井義則氏。2020年五輪は福島のJヴィレッジから出発し、解除した帰還困難区域を走破する。核惨事の被害や責任をごまかし、いつわりの『復興』イメージ演出に全面利用するのだ。
また、20年五輪は日韓の外交的危機の中で強行される。安倍の韓国輸出規制には、福島産食品を選手に食べさせる計画への国際的非難の高まりに対し、福島産食品輸入規制を韓国に撤回させる狙いも含まれている。朝鮮半島の平和統一は、日本をはじめ東アジアの『原発を含む』非核化と不可分なのだ。
同時に安倍や日本会議は、トランプの日米安保軽視を予想し、それを契機に改憲と日本独自の核保有を考えている。私たちは、ポスト安保の構想と新たな反核運動も作る必要がある。
私たちは16年3月に『反核世界社会フォーラム』を東京で開催し、核事故が起きれば取り返しがつかなくなることを、今後原発=核を導入しかねない南米やアフリカを含む諸国の運動と共有した。こうした『反核インターナショナリズム』を推進していこう」。
」 ※ ※ ※
翌日6日、主催者は原爆ドーム前での集会から中部電力へのデモを敢行。また、福島原発事故の避難者たち「ゴーウエスト」は、夜に「日本政府は被ばくの被害自体を全否定しながら、汚染地帯で来年五輪をする。世界中から一緒に五輪と被ばく隠しに反対を」という英語チラシを配り、アピールした。昨年の不当逮捕にめげず、今年も警備員や規制線の妨害があったがはね返し、無事盛況に行われた。