中国の政治・経済支配への抵抗運動
逃亡犯条例 抵抗運動
香港の逃亡犯条例改正案への抵抗運動は、中国の窓口としての重要性が薄くなった香港の位置づけを物語る。返還以降の20年間、香港は西側ネオリベラル・グローバリズムと中国国家資本主義の橋渡しをしてきたが、民衆の代償は酷いものだった。香港を世界有数の金融ハブ、中国資本の総合展示場として利用した国家と企業のために、ジニ係数が高くなったのだ。5人に1人は貧困ライン以下の生活。異常な家賃高騰で、大卒サラリーマンは給料を17年間全額貯金してマンションの頭金にするという状態だ。そんな中で香港人は、香港が「世界への窓口」である限り、自分たちの文化・生活様式は守られると信じてきた。
だが、その窓が閉じられつつある。GDPが香港の30倍に達した中国は、自らのイメージに合わせて香港をモデルチェンジする立場になった。返還後20年で中国は香港の主要機関や制度を取り込み、独占企業を管理下に置き、宗主国が残した機構を再利用し、権威主義的政治を実現した。
一般民衆はこの変化に「怒りの抗議」と「あきらめの順応」という複雑な感情で対応したが、何らかの政治的解決が成立するという淡い望みを抱いてもいた。だが、普通選挙を要求して79日間街頭占拠した2014年雨傘運動の挫折で、この期待は吹っ飛んだ。
さらに、今回の民衆デモへの警察暴力のエスカレートは、「中国当局は最終的統合の際、我々の生活を一切考慮しない」という香港人の危惧を裏打ちした。
「自己香港自己救」=香港を救えるのは香港人だけだ=というスローガンがある。それは呼びかけであると同時に孤立する香港の苦しげな表現であり、グローバル・ネオリベラリズムの「自由を守る」という空約束をも指摘する。中国政府は「デモの背後に西側スパイの策動がある」と非難するが、西側が介入している徴候は全くない。抗議者は「人民外交」―外国新聞に意見広告や、英・米政治家へのロビー活動を展開したが、反応は形式的で、トランプ大統領の「デモは暴動だから、中国政府は粉砕してよい」との発言でご破算になった。
グローバル・ネオリベラリズムが、アジアの資本主義的「小島」のSOSに応えないのは明らかだ。それは搾取の仕組みであり、国境を越えて助け合う枠組みではないからだ。むしろネオリベラリズムは衰退し、新しい国家主義的・専制主義的資本主義にとって代わられつつある。しかも国際的左翼勢力不在の中で香港危機が起きているのだから、これは香港に限らず世界の危機だろう。
今の香港をポストコロニアルのように、自由化という枠組でイメージするのは不可能であるばかりか危険でもある。香港人は歴史性に基づき、未来ヴィジョンを開発しなければならない。西側諸国政府ではなく、世界の人民と連帯して反ネオリベラリズム、反国家主義的な未来を構想しなければならない。
700万人の小さな都市が、独力で自らを縛る巨大なヘゲモニーから解放されることはないだろう。彼らの闘いは、民族国家という資本主義的モデルを超える社会を作ろうという呼びかけになる。バーニー・サンダースのいう「国際的進歩派戦線」構築への具体的呼びかけだ。長い道のりだが、それしかない。