滅びるか、それとも人人の関係及び人と自然の関係を変革するか、これが今人類が直面している大問題だ。この命題の正しさを証明する証拠は明確で、しかも増え続けている。にもかかわらず、その原因の理解は必ずしも広く行き渡っていない。 人類が危機に直面していることを認識している人々はいるのだが、危機の本当の原因―人間社会の資本主義的編成―へ結び付けることが出来ない人はかなり多いのだ。 原因の認識に基づいた取り組みがないと、全般的社会崩壊と地球的規模の生態系崩壊という大破局の未来が必ずやってくる。
以下、現在人類が直面している問題の根源が資本主義システムかどうかという議論と取り上げる。
疑問
環境問題は大昔からあったのに、何故資本主義だけを環境問題の元凶だというのか。 資本主義出現以前にも、土壌侵食や土壌減少、乱獲、森林伐採などの問題があり、人類はそれに悩み、それに取り組んできたではないか。人間社会が存在する限り人間と自然の関係が規定されるが、環境問題はそういう人間と自然との関係の中に位置づけられるべきではないか。
例えば、1900万人の人口を擁した高度なマヤ文明が僅か一世紀間で崩れたのは、急激な森林伐採から生じた干ばつのせいだと言われている。技術進歩のおかげで人口が増加、増加した人間の行動が環境に大影響を与えることを考えると、問題は人間社会全般にあるのであって、資本主義だけが問題というのではないのではないか。
応答
大昔の人々も環境悪化に苦しんだのは間違いない。8~9世紀にマヤ文明を崩壊させた干ばつの原因の60%は森林伐採であった。しかし、それは一地域に限られた問題であった。それに対し現在見られる生態系危機は地球全体の規模である。限定された地域でなく、全般的危機であるのが今日の危機の特徴で、科学的研究も、今何とかしなければ全滅してしまう歴史的瞬間にあることを告げている。
例えば温暖化。現在地球を囲む大気中の炭素はこの三百万年間最高水準にある。 産業時代に入ってから地球の平均温度は1℃上昇した。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は「地球温暖化を1.5℃に留める(産業革命以前の水準より2℃上昇すれば大破局になる)ためには、社会生活全般にわたって早急にこれまでにない大規模な変革が必要だ」と言っている。
次に海洋温度上昇を考えよう。1871年以降海洋温度は毎秒平均広島に投下した原爆を爆発させたのと同じ割合で上昇してきた。炭素排出が海洋温度上昇を加速させているのだ。海洋は、人間が作り出した温室効果ガスで大気中に閉じ込められた熱の90%以上を吸収する。この付加エネルギーのために海面が上昇し、ハリケーンや台風がより凶暴化する。
次に種の絶滅の加速化。最新の国連レポートによれば、今後数十年間に種全体の8分の1にあたる百万種の動植物が絶滅すると予測されている。 50か国の145人の専門家が作成に関わり、他に1万5千点の科学論文を点検、そのうち310論文を収録した、包括的はレポートである。「圧倒的に悲観的な未来像が描き出された」と編集者が書いている。
「人間が経済、生活、食の安全、健康、世界中の生命体の基礎を蝕んでいるので、早急で抜本的変革が必要。早急で抜本的変革とは、これまでのパラダイム、目的、価値観を含めたあらゆるものもの、技術、経済、社会生活全体の再編成である。」
現在の危機の特徴は、社会の活動の行き過ぎが脅威を招いているのではなく、グローバル経済の通常の活動が地球的規模の危機を引き起こしていることだ。 つまり、資本主義経済システムが世界を支配する広がりを持っているのだ。まさにその広がりが地球上の生命維持システムに甚大な損傷を与え、地球そのものの破滅へ至る軌道を走っているのだ。
この損傷がシステムの誤作動から生まれたのでなく、通常の機能から発していることを理解しなければならない。生態系悪化が構造的性格を有するにで、その構造の中心的な動因力を冷静に分析しなければならない。
その動因力とは、1)最大利益を求める利己的計算に基づく、癌細胞のように増殖する経済拡大欲、2)人間労働を単なるコストと見るだけで、労働が創り出す価値を労働者に一切還元しない欲、3)世界人口のほんの僅かな一部にすぎない多国籍企業資本家が大規模投資を行って私的利益を得ようとする欲。
最後の多国籍企業資本家について述べる。 ピーター・フィリップスは近著『ジャイアンツ:グローバル・エリート』の中で、2017年僅か199人が経営する多国籍投資会社17社が動かした資産は41兆ドルだったと書いている。それができたのは、政府や関連権力機構の便宜のおかげで、民衆の反対運動が排除され、最大の利益が保障され、グローバル資本にとって国民が「封じ込め地域の住民」となるので、安心して確実な資本投資が可能だったからである。
これまで私は資本主義のグローバル性格とそれが地球のエコシステムに及ぼす影響について述べてきた。
しかし、資本主義はこの美しい地球を攻撃するだけでなく、そこで生活する人間をも攻撃する。至る所で資本家たちは、階級、人種、ジェンダー、民族の差を使って国民を分断し、無慈悲な搾取を強行して富を蓄積、人々を支配しながら大きな抵抗を受けないでいる。 蓄積のための蓄積の祭壇で人間と地球を犠牲にするのが資本主義の本質的性格である。
2018年人類の半数(34億人)が一日5ドル50セント以下で生活しているとき、1日につき25億ドルも富を増やす億万長者が2200人いたという事実をどう解釈すべきだろう。2015年医療を受ける金がないために死亡した人々が1日に1万人もいたとき、タックスヘイブンのオフショア会社で7.6兆ドルの税金逃れをした金持ちがいたことをどう解釈すべきだろう。人口1億500万人のエチオピアの保健予算が世界富豪ジェフ・ベゾスの財産(1120億ドル)にかかる1%の税金と同じくらいしかないという事実をどう解釈すべきだろう。
支配階級は階級支配の再生産が作り出す生存危機のどう対処すればよいのか分からない。それどころか、危機を生み出す仕組みも理解していないし、悪化する社会生態系を良くする方法も分からない。例え下からの圧力で事態の深刻さを認めたとしても、富蓄積の魅力の方が強くて、たぶんそのまま突き進むであろう。
だから我々人民でやるしかないのだ。 我々一人ひとりが心を開いて「我々」意識を発展させて、グローバル資本主義とその産物―帝国主義、ネオリベラリズム、戦争と軍国主義、レイシズム、性差別、貧困、そして特に生態系破壊に挑戦しなければならない。
最後にあげた生態系危機に関しては励まされる徴候がある。 2019年5月24に資125か国1664都市で数十万人の若者がエコロジー危機に抗議する学校ストを行った。その前の3月には133か国2000か所で160万人以上の人々がエコロジー・デモを行った。
4月後半には英国の気候変動に抗議する運動エクスティンクション・レべリオンがロンドンの主要箇所を10日間占拠し、その圧力で英政府は「気候異常事態」宣言を出し、5月1日に議会がそれを承認した。
米国では若者によるサンライズ・ムーヴメントがあり、それが推し進めるグリーン・ニュー・ディール運動を議員たちが取り上げるようになった。
しかし、そうはいっても、時局はまだ我々に有利になっていない。地球を待ち受けている破局が全面的に具体化しないうちに、我々はもっと強力にもっとラジカルに行動しなければならない。政治たちにパリ協定を認めさせるぐらいではだめだ。パリ協定は公正で自由で維持可能な新社会を創るために必要な長い革命に向かうための単なる一歩にすぎない。例えば、グリーン・ニュー・ディール運動も、単なる政策を越え、地球の生態系を破壊する軍国主義と戦争の役割に対して闘う運動であるべきだ。
そういうことができるためには、イデオロギー的神秘化を通して資本主義体制が自らの本質的性格をカモフラージュしていることを正しく見抜き、草の根からの反資本主義的政治闘争を築き上げてこそ可能となるのだ。
そういう政治闘争の構築の中で我々自身の人間関係や自然との関係を変革できる希望が出てくる。この変革への希望は、我々が集団的理性を共有し、予測される破局を避けるために先取り的に行動できるという前提のうえに立っている。
単に反応型の意識形態で行動するのでは不十分である。すでに生起している社会生態系破局に受け身に反応して行動(または行動を制限する)だけでは、現在直面している多元的危機の原因に打ち勝つことはできない。
かつてキング牧師が言ったように、「現在私たちは恐るべき緊急事態に直面している」ので、実際「手遅れということもあり得るのだ。」とりわけ生態系の展開に関してはそれがあり得る。 しかし、まだ最悪の事態になっていない。
我々はマルクスにならって、「人はついに自分たちの本当の生活状態および仲間との関係に醒めた感覚で直面せざるをえなくなった(共産党宣言)と言わなければならない。 私は「生活状態と仲間との関係」に「自然との関係を付け加え、さらに「それに基づいて世界を変革する行動をしなければならない」を付け加えたい。