河出書房新社の『文藝』秋号が売れているらしい。特集は「韓国・フェミニズム・日本」。「日本」の要素がはっきり分からないが、韓国作家の最新短編小説を一挙に読める▼家父長制などの旧来的な秩序を自明視せず、啓蒙的な「正しい」言葉での批判にも留まらず、なぜ旧来的な秩序を再生産してしまうのかも問う小説は、文学表現の可能性を見せてくれる。エッセイもフェミニズム的問題と日韓関係を交差させ、日本社会への違和感を正面から捉えている▼しかし重要な問題提起のある特集だが、日本で日本語で発行された媒体の限界か、「北朝鮮」に対する紋切り型の発言が何の疑問もなく載っている。ある論考の「隣にディストピアを抱えた国・韓国」という言い切りがその例だ。韓国について決して紋切り型の理解をさせない文学を日本語で紹介し、その重要性を訴える雑誌が、いざ「北朝鮮」になると全く紋切り型なのだ。これは日本語で書かれる全ての表現に無意識的に沈着する感覚なのだろう▼文学の現実的役割は、紋切り型の再生産を拒否する実感を伝達することだ。日本語で表現する全ての者は、常識化してしまった「北朝鮮」ヘイトから決別せねばならない。 (K)