気温上昇によるヒマラヤ山脈氷河融解
ヒマラヤ山脈 3分の2の氷河が失われると予測
ヒマラヤ山脈の氷河は、2000年以前と比べて2倍の速さで融解している。このままだと3分の2の氷河が失われると予測されている。
冷戦期、米国の秘密のスパイ衛星が写した映像が、この事実を知ることに役立った。1970年代~80年代の米国スパイ衛星計画ヘキサゴンは、世界中を監視するために20基の衛星を打ち上げた。
2011年にスパイ衛星の画像は機密扱いを解かれ、資料として科学者が利用できるようになった。科学者はその映像をNASAや日本のJAXAの人工衛星データと比較・統合し、ヒマラヤ山脈氷河の大変化を発見したのである。
ヒマラヤ山脈氷河融解の加速化の発見は、科学ジャーナル『サイエンス・アドヴァンシーズ』に発表された。それによると、この40年間で氷河融解速度は2倍の速さになっている。毎年氷河が0・5m消失している。最大の原因は気温上昇だと研究者は結論付けている。
コロンビア大学博士課程の研究生ジョシュア・マウアーが中心となる研究集団は、2000キロメートルにわたるヒマラヤ山脈地域の650の氷河を調査した。1975年から2000年の間に、毎年平均40億トンの氷が喪失してきたが、2000年から2016年の間に氷河融解の速度が2倍に上昇し、毎年の氷喪失量は平均80億トンになることを発見した。氷喪失には地域差もあるが、彼らが調査した地域では、全体として喪失傾向は一定であった。
農業、経済、生活が破壊される エコシステム破壊の被害
この発見は、他の多くの研究結果と一致している。
ヒマラヤ・ヒンドゥークシコ地域を調査した研究報告によると、最も楽観的に見ても、ヒマラヤ山脈は今世紀末までに全氷の3分1を失うとされている。せいぜい脱炭素を急速に行って地球温暖化を1・5℃に留めることで、2050年にカーボン・ニュートラル(二酸化炭素排出量と吸収量のバランスがとれる状態)な世界になる、というのが最良のシナリオだと述べている。
この研究報告は、今年ネパールのカトマンズにある国際総合山岳開発センターが発表したもので、氷河融解が続くと、雪解け水が増加して、異常気象や洪水の増加、給水サービスや水力発電の崩壊などの大災害を引き起こす、と警告している。
ヒマラヤ山脈のふもとの広大な地域は、夏の間は氷河の溶け水を運ぶ川が16億人の住民を支えている。貧しくて不平等な生活をしている人々は、氷河の喪失によって壊滅的な影響を受けるであろう。氷河は地域のエコシステムの源泉であり、住民はそのエコシステムに依存して生活をしている。8億人の人々が、氷河の恩恵である灌漑(水路を作って農地に水を引くこと)、水力発電、飲料水システムに依存している。この人々の農業、経済、生活が破壊されるのだ。
一番苦しむのは貧者だ。貧者は消費が少なく、生活での温室効果ガスの排出量も金持ちに比べるとわずかなのに、エコシステム破壊の被害を大きく受けるのだ。資本家が環境を破壊したのに、ツケを払わされるのは貧者なのだ。