【大阪入管、収容者を9本一度に抜歯】差別待遇に裁判を起こす

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本人同意もなく、麻酔も不十分な危険行為

 宋ビンシュクさん(36)は、日本への帰化を望む在日韓国人。韓国籍の両親のもと大阪で育ったが、在留資格がはく奪され、収容された大阪入管で表記の待遇を受けたため、国家とK歯科医院を相手取り裁判を起こした。  

6月11日、大阪地裁にて第三回公判が行われた。前回の被告側の答弁書に対し、準備書面で反論。書面には主に(1)麻酔不足ないしは麻酔なしの可能性、(2)そのこと(激痛)による全身性ショックなどによるリスク、(3)安全管理のための術前の問診がない、(4)治療内容の説明と合意が極めて不十分、(5)9本同時抜歯による「敗血症」などの全身へのリスク、(6)奥歯抜歯後の放置による咀嚼障害、について書かれている。  

宋さんは26歳の時、薬物使用等で9年間服役した。その間、定期的に入管の調査員が滞在資格を審査し、「結婚詐欺」の疑いと「反抗的態度」により在留資格をはく奪され、入管に収容された。  

2016年8月、宋さんは夕方ごろ歯に痛みを感じ、職員に訴えたが、翌日朝の点呼まで放置され、やっとK歯科医院へ。そこで原因歯とされる2本以外は説明と同意なく9本抜歯された。  

支援者は、「一度に9本も抜くのは危険。入管の中での差別待遇について関心が高まり、待遇改善につながれば」と傍聴を広く呼びかける。  

根底にある 在日韓国人差別

宋さんが痛みを訴えた歯は2本だが、抜かれたのは9本。麻酔は2本のみ(カルテより)。麻酔なしで抜かれている歯があることになる。裁判で医師は「問診をした」と供述したが、入管職員と話しただけで、宋さんへの説明はなかった。同意書もない。痛みのあまり暴れる宋さんを、入管職員は押さえつけた。危険な抜歯で熱が39度まで上がり、歯の手当はされず、以降も揚げ物など硬い食べ物ばかり出された。  

二度目に歯が痛んだ時「同じ歯医者だったら行きません」と抵抗したが、入管ははぐらかし、K歯科医院へ連れて行った。医師に「(他の急性歯肉炎からの)虫歯菌が血内に入ったら菌血症・敗血症で死ぬ」と脅され、抗議した。「前回の抜歯がトラウマです。なぜ一気に抜いたんですか」。「立場を考えろ。頻繁に来れないだろ」。入管は応急処置しか許さないため、複数回にわたる通院・入れ歯やブリッジなど他の治療法の選択肢は与えられなかった。  

宋さんの歯は治療が必要だが、フラッシュバックで歯医者の椅子に座れない。宋さんは精神科で「心的外傷、抜歯時の虐待的な待遇による恐怖症」と診断を受けた。  

裁判のための証拠請求で、医院のカルテには「抜歯9本」と記されていた。診断書含め全てが杜撰。一度に抜歯したことで口が血だらけになり、確認できなかったため残根が2本残され、のちに撮影されたレントゲン記録との本数に違いが出た。  

残根を放置すると炎症が起こり、感染症のリスクが高まる。本来なら、抜歯後の経過観察や傷口の洗浄のために通院すべきだった。宋さんは、「2年近く放置され、歯が全滅なんですよ」と嘆く。  

1回目の裁判では「同意の有無」を争った。医院は「口を開けたので本人は同意していた」と供述。しかし、宋さんは椅子に押さえつけられ、「口を開けろ」と言われたため開けるしかなかった。  

宋さんは、裁判中のため、強制送還はされない。しかし、在留資格がなく、日本での労働が禁止され、帰化した身元引受人である姉たちからの経済的援助で暮らしている。宋さんは「差別と闘いたい」と裁判に前向きだが、生活費だけでなく、裁判費用もかさむため負担は大きく、困窮している。支援のカンパと注目をお願いしたい。  

次回公判は、9月2日10時~大阪地裁1009号法廷。(編集部・村上)

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