有機フッ素化合物の血中濃度が全国平均の4倍
米軍基地内で大量に使用されてきた泡消火剤に含まれる有機フッ素化合物のPFOS・PFOAは、自然分解せず生物に蓄積され、生態系や健康への悪影響、発がん性も疑われるため、2018年4月以降、使用が原則禁止になった。
沖縄県企業局が16年1月に公表した調査結果によると、嘉手納基地周辺の水源や浄水場などで高濃度の汚染が確認された。米軍は発覚後も排他的基地管理権を盾に県の立ち入り調査を拒み、県は日米合同委員会の環境分科委員会での議論を防衛省に求めたが、3年以上たっても汚染源特定ができずにいる。県は引き続き各地点の河川や浄水場の水質調査を実施している。
汚染物質は、昨年12月から今年1月にかけての調査でも15地点から高濃度で検出され、最高値は比謝川周辺にある嘉手納町屋良の住宅地の湧き水で2100ナノグラム。米基準の30倍で、住民に不安を抱かせている。そこへ今年5月、北谷浄水場を水源とする宜野湾市の水道水を飲む同市大山の住民(44人)を対象にした調査で、有機フッ素化合物PFOSの血中濃度が全国平均の4倍の値で検出されている。
住民に向けての報告会が、6月16日に宜野湾市で開催された。京大医学研究科の小泉昭夫氏と原田浩二氏による調査で、水道水を日常的に飲む人たちの有機フッ素化合物の血中濃度が飲まない人よりも高く、「健康に与える影響は不明だが、全国との差からしても宜野湾市の水道水の源泉は汚染されている」、「汚染源は嘉手納基地内と考えられ、国内法の下で厳重に管理する必要がある」と報告された。しかし、米国の生涯健康勧告値を基準にすると、安全性の高い数値であるとし、「現在の値であれば、水道水を飲み続けても健康に影響はない」と強調した。一方、有機フッ素化合物の有害性として生活習慣病や胎児の発育不全が指摘されているとし、「地域ごとの発がん率を調べるなど情報収集が必要。県や自治体の調査を拡大するべきだ」と話した。
また、航空基地との関連性を推測し、有機フッ素化合物を含む泡消火剤を使うことなどから、汚染が大気経路の可能性を示唆した。今後、宜野湾市と南城市で空気を採取し、ちりなどに含まれる有機フッ素化合物を調べる調査に協力を要請した。 報告会は日曜日の朝10時という時間にもかかわらず、主催者の予想をはるかに上回る約200人が参加し、会場はいっぱいになった。ほとんどが地域住民で、隣に座っていた高齢の女性は、「汚染された水を飲まされていたかと思うと、不安でいっぱいだ」「心配ないといわれても、子どもや病気の人には影響があると思う」と話していた。また、参加者から多くの意見や質問があった。
また、5月10日の衆院環境委員会で、4月の衆院沖縄3区補選で当選した屋良朝博氏は、米軍嘉手納基地周辺の川から高濃度の有機フッ素化合物(PFOS・PFOA)が検出された問題を取り上げ、「この国の環境行政はどうなっているのかという疑問を禁じ得ない」と批判。原田義昭環境相は「3年間、それが置き去りになっていたのは問題だろうと思う」と述べ、調査に取り組む考えを示した。
英国人調査報道ジャーナリスト、ジョン・ミッチェル氏の著書「追跡 沖縄の枯れ葉剤~埋もれた戦争犯罪を掘り起こす」(高文研、14年)では、枯れ葉剤が沖縄の嘉手納基地などに保管、除草剤として広範囲に散布・噴霧された事実が明らかにされている。
作業にあたった米兵何百人もが健康被害を被った、という衝撃の報告があった。
戦後から続く基地公害 「米軍のゴミ捨て場」に
同氏の「日米地位協定と基地公害~『太平洋のゴミ捨て場』と呼ばれて」(18年、岩波書店)では、米軍基地による環境汚染の追及に、米国情報自由法を活用。1万2000ページを超える米軍、米国務省、CIAの内部文書を公開させ、戦後から今日に至る汚染実態を総合的に調査した。さらに、退役・現役兵士や内部告発者をも取材。「70年以上にわたって、米軍基地は放射性廃棄物、枯れ葉剤、劣化ウラン、PCBやヒ素などの有害物質で日本を汚染してきた。毒物が河川、海、土壌を汚し、米軍兵士や軍雇用員、地域住民の健康を害してきた。なかでも沖縄は、米軍基地の負担が集中する最大の被害地だ」。
在沖米軍による基地公害を許してきたのは、日米地位協定だ。基地周辺住民に被害が及んでも自治体は立ち入り調査もできず、施設返還時に米軍に汚染除去・原状回復の責任もない。基地の排他的管理権が米国にあると定めた日米地位協定第4条の環境条項である。日本政府は、日本の人々の知る権利、健康な環境で暮らす権利よりも、「米軍の特権を優先しているのだ」と、同氏は日本政府を厳しく指弾している。
今後、基地公害に由来する沖縄全地域住民の健康実態調査を国、県の責任で実施するべきだろう。