【フランス・ストライキ】教員が試験監督をボイコット 須納瀬 淳(パリ第八大学博士課程在学)

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教育の自立性を侵す法案に反対の意思示す

 6月17日、フランスのバカロレア(大学入学に必要な国家資格)試験の一部である哲学試験が行われるなか、複数の労働組合の呼びかけに応じた教員たちの試験監督のボイコット運動が起きた。それ自体はさほど大きなものとはならず、試験は滞りなく行われた。  

だが、この一例に限らず、フランスの教員たちの間ではある法案に反対するさまざまな動きが起きている。パリでは5月にも教員たちによる大きなデモが行われたばかりだ。バカロレアのボイコットは、あまり注目を浴びなかったデモに、メディアの注目を向けさせるための戦略的なものだったのだろう。実際、それは運動を可視化するという点ではある程度の効果があった。  

彼らが反対するのは、通称「ブランケ法」と呼ばれる、国民教育大臣ジャン=ミシェル・ブランケが押し進める教育法改革だ。義務教育の年齢の引き下げ(6歳から3歳)から大学入学試験に関する条項まで多岐にわたるこの法案が、フランスにおける教育のあり方を根元から破壊しかねないとして、多くの教育者たちを憤らせているのである。  

まず批判されているのは、この法案が現在、既に認められる「不平等」を押し進める可能性があるという点だ。バカロレアは複数の試験で構成されるが、法案はその試験のうち40%相当の部分を各自治体の教育機関に委ねると定めている。  

ここで懸念されるのは、各自治体でなされた試験の評価が、すべて平等に扱われるのかということだ。例えば、学校や病院などの公共財に対して国家から十分な投資が為されず、普段から行政上の差別的な扱いを被っているセーヌ=サン・ドニ県(パリ北部の自治体)などの住民が不安を表明している。この改革によって国家資格のバカロレアに地域に応じた価値の格差が生じると、それはそのまま学生たちの将来に大きく影響することになる。  

フランス国旗・国歌の 強制に抵抗

同様に厳しく批判されているのが、学校や教育者に対する「信頼」について言及した第一条だ。教育者たちは生徒とその家族が教育制度・機関を尊重し「信頼」しあう関係を築かねばならない、とするこの条項は一見、問題がないようだ。しかし、問題視されているのは、条文中の教育者たちは『彼らの義務』と『彼らの規範性』に従わねばならないという表現である。これら漠然とした表現がいかなる法的な定義も与えられていないために、あらゆる恣意的解釈が可能だとして、国務院(政府の諮問機関)は第一条を削除するように促しているのである。  

さらに教員たちを不安に陥れているのが、後に修正案として追加された条項である。それは、公立私立とを問わず、初等教育および中等教育の学校の教室にはすべてフランス国旗および国歌の歌詞を掲げねばならない、というものだ。日本の国旗国歌法を想起させるこの法案は共和党議員エリック・シオティにより提案されたが、彼は、その意図を「われわれの国を脅かす数々の禍いに対抗する防波堤」を築くことであるという。この国旗・国歌の強制は、教員や生徒の思想・信条、表現の自由を損なう可能性があると指摘されている。  

他にも、大学生や大学院生を教師不在時の代理教師として雇用するよう定める法案など、教育の質を下げ、教育機関の自立性を損なう恐れのある項目を多く含む「ブランケ法」。この法案は2月に下院、5月に上院で既に可決され、後は両院が合意できる修正案を待つばかりとなった。現場の教員たちの声は、政府には全く届いていないようだ。

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