韓国非常勤講師法施行前夜の波乱
昨年11月、韓国の大学関係法である高等教育法の「講師」部分が改正され、今年8月から施行される(以下「講師法」)。夏休みが明ける9月にかけて教員や学生らに大波乱が予測される。講師法の内容を簡単に紹介し、大学側の動向と、大学と政府に抵抗する非常勤講師や大学院生・学生たちの動きを報告したい。
講師の雇用を最小限に 大学側が段階的首切り
これまで、学期ごとに契約を繰り返す非常勤講師は教員ではなかった。だが、講師法成立以降の非常勤講師は、法的に教員である「講師」として大学に雇用されることになる。大学側の対応方法は、人件費がかさみ簡単に首を切れない講師の雇用を最小限にする、というものだ。法施行の19年8月にまとめて首切りをするのではなく、段階的首切りが行われている。
大学側が予算的に専任教員の10分の1ほどにしかならない講師をかくも減らそうとする理由は、講師法の混乱を契機に大規模構造調整をたくらんでいるからだろう。
講師法ゆえに金がかかるというが、講師法には大学の夏冬休みの賃金を講師に支払う(何パーセント支給かは記載なし)ことが明記されているくらいで、大学側の負担は大きくなく、さらに政府は、講師法を安定させるために私立大学を含め講師の長期休暇中の賃金を国家が負担することを決定している。
収入面の不安訴える院生
そのようななか、19年1学期の時点で、授業数減少や卒業単位数縮小、大講義化、サイバー授業拡大などが始まっている。
数字を紹介すれば、韓国の大学全体で20人以下の授業は、18年1学期に11万8657コマ開設されたが、19年1学期には10万9571コマへと減少した。またソウル市内の某私立大学では0・5単位の授業が開設され、学生の選択できる授業数が「増えた」ことになるなど、大学側は驚くべきやり口を編み出している(今後さらに多様で巧妙なやり口が現れるだろう)。
19年1学期には、卒業要件である必修授業に登録できず、その授業登録を売買する学生がいたことまで報道された。韓国の大学は6月に1学期が終わり、7~8月に夏休み、9月から2学期が始まる。通常なら2学期の授業は6月中に全て組まれるのであるが、いまだに各大学は他大学の動向をうかがっている。
講師を公開採用することも講師法に明記され、各大学が自律的に運用できるようになっているが、それがいかなるやり方で進められるのかも未知数だ。
主に教養科目を担当する講師の大部分は人文社会系の研究者だ。つまり金のない人が圧倒的に多く、これまで講師をしてきた人々や今後講師になりうる大学院生にとって、大学側の構造調整は死活問題だ。
また、大学院生にとって講師に参入することは経歴面でステップになるだけでなく、研究を続けるための生活面においても必須である。
そのパイ自体が大幅に削減されようとするなか、院生の多くが次の学期からの収入面の不安に震えている。数カ月後の未来が全く見えないのだ。暗く投げやりな会話も交わされるが、単に震えているだけではない。院生や講師たちは講師法を理由に首切りを進める大学(公然と講師法が理由とは言わないが)と、それを放任する教育部(文部科学省にあたる)を批判してきた。
また、コマ数が削減され、授業選択の幅が狭まるなかで、学部生たちも学ぶ権利を侵害されたと声をあげている。19年5月11日にソウル市内で開かれた講師らの抗議デモは、大学側に強い態度を見せられていない教育部を批判対象とするものだった。今後さらに首切りが表面化していくなかで、抵抗は質量ともに変化していくだろう。今年の夏はその抵抗の過程で創造されるものによってさらに熱くなるだろう。 ※参考文献:イム・スングァン「改訂講師法の政治社会的意味」『進歩評論』78号、2018