フェミニズム科研費 裁判始まる フリーライター 谷町 邦子

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学問の自由などの主戦場

 科学研究費助成を受けフェミニズムに関する研究を行っていた大学教授ら4人のグループが、研究内容や科研費の使用について自由民主党の杉田水脈衆議院議員から中傷を受けたと、今年2月12日、京都地裁に名誉毀損で訴えを起こしていた。その第1回口頭弁論が、5月24日、10時15分から京都地裁で行われた。  

金曜の朝にもかかわらず、京都地裁の大法廷には大勢が詰め掛け、傍聴できない人も出るほどだった。なお、杉田議員ならびに代理人の姿はなかった。原告側の弁護団、上瀧浩子弁護士によると、被告である杉田議員側は東京地裁に移送を申し立てていたが、原告の人たちの住所は京都に関連し、被害者の住所のほうが合理的だと申し立てを却下されたという。  

原告は牟田和恵さん(大阪大学)、岡野八代さん(同志社大学)、伊田久美子さん(大阪府立大学)、古久保さくらさん(大阪市立大学)の4人の研究者で、研究グループの1人の牟田さんが、以下の内容(要約)で意見陳述を行い、裁判官に理解と公正な審判を訴えた。  

牟田さんらは2014年から17年までの科学研究費基盤(B)「ジェンダー平等社会の実現に資する研究と運動の架橋とネットワーキング」を、1755万円の研究費用を受け、共同で研究。4年間で論文47本、学会等報告が15回、著書5件の成果を上げているが、その研究に杉田議員が攻撃を加えている。  

杉田議員はSNS「ツイッター」で、日本軍「慰安婦」は捏造であり、それに関する研究も捏造だと発信。また、フェミニズムに対する無理解から、研究の価値を貶める発言をメディアで繰り返している。女性の身体や性に関するワークショップを、卑猥なものとしてインターネットテレビで嘲笑。 

さらに、研究とさまざまな社会運動を架橋するために開催した、「オモニ会」(日本全国の民族学校に子どもを通学させているお母さんたちの保護者会)などを呼んだトークイベントを、研究ではなく反政府的な活動として中傷した。  

「不正」疑惑に根拠なし

科研費についての無理解からの攻撃もある。助成期間が終了後に、科研費を使わず動画を作成し、研究について発表した。それに対し、杉田議員は、動画を科研費で作成したという前提で、科研費について、ずさんな処理をしていると複数メディアで発言した。  

研究が貶められることは研究者生命を危うくすることであり、また、研究費への支出について世間から厳しい目が向けられる現在、不正疑惑を掛けられることは大変不名誉である。杉田議員に対して、名誉毀損で牟田さんは660万円、岡野八代さんは220万円、古久保さんは110万円、伊田さんも110万円をそれぞれ請求している。  

個人に対する名誉毀損だけでなく、国会議員であり、SNSなどでの影響力も大きい杉田議員からの攻撃は、学問の自由への介入の理由付けになりうると考え、提訴した。  

意見陳述の後に行われた支援者の集会にも、約200名の人々が集まり、参加者からは教育などを通したフェミニズムの実践が抑圧されてきたことや、マイノリティーに関する研究や労働運動も弾圧されている現状があり、連帯が必要だという発言があった。  

被告人側の主張は、次回の7月30日11時30分からの裁判で行われる。学問の自由、女性やマイノリティーの平等にも関わる攻防を、今後も注目していきたい。

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