国家安全保障官僚による軍拡路線(2)
前篇では、中国脅威論と自衛隊ミサイル配備の狙いを掲載した。今回は、日本の反戦運動の現状について、長年の経験をもとに、総括と展望を聞く。 (編集部)
―米朝首脳会談の継続、南北融和が進む中でのミサイル配備の狙いは?
池田:南西諸島の軍拡は対中抑止が理由なので、米朝関係が好転しても変化しません。第二次朝鮮戦争シナリオでは、日本海側からの「殴り込み」が想定されていました。そうした作戦計画に基づく日米大規模演習で北朝鮮への圧力を強めるために、イージス・アショア配備計画も続けています。
南西諸島に関しては、米朝関係が悪化した場合、グアムに向かう弾道ミサイルを迎撃する役割が強調されます。
とはいえ、2017年朝鮮半島危機の際にも、想定される米兵の死傷者数、中国の出方の予測困難性などから、絶対に戦争はないと見ていました。ただし、米朝関係が緊張局面になれば、自衛隊は北朝鮮脅威論を理由に、黄海でも艦船を警戒監視させるでしょう。
イージス・アショアを含めた北朝鮮脅威論を隠れ蓑とした対中抑止力強化と、ミサイル避難訓練のような国民保護態勢(民間防衛態勢)の強化を問題にしていくべきです。
――中国の防衛予算の拡大が日本で盛んに報道されていますが?
池田:台湾の中国に対する経済的依存の高まりにより、中国による台湾武力介入はあり得ませんが、中国とアメリカとの駆け引きは、「インド太平洋地域」や宇宙・サイバー空間で展開されるでしょう。それは戦争を目的としない「抑止」です。ただ、軍拡の悪循環による偶発戦争のリスクはあります。
2013年に設立された国家安全保障会議の事務方、国家安全保障局の官僚や防衛省・自衛隊高級幹部は、軍拡と権限の拡大を得るため対中最前線の役割を買って出ています。中国の軍事官僚も同様です。中国の「一帯一路」政策は、経済大国化して資源輸送路の安定的確保が必要になり、輸送の安全保障が課題になったことで生じています。かつて日本が経済大国化とともに「シーレーン防衛」を語りだしたことを思い出させます。
――日本の安全保障を確保するための戦略は?
池田:抑止力論は軍拡競争を招くので脱却すべきです。自衛隊が対中最前線を引き受ける背景に、中国への蔑視と形勢逆転による「不機嫌なナショナリズム」があります。
非軍事的な信頼醸成措置を積み上げ、軍拡の悪循環を軍縮の好循環に転換させることをめざす以外にはありません。
――日本の反戦運動の現状は?
池田:自衛隊に対する反戦・反基地の運動は、非常に衰弱しています。沖縄の米軍基地には関心があっても、自分の住む地域の米軍や自衛隊基地には無関心なのです。
米軍に対して批判的な人や、9条改憲に反対する人でも、自衛隊を問題にしたがらない。自衛隊軍拡の実態や、国家安全保障官僚の影響力の拡大が十分に理解されていない。私は自衛隊に対する反戦・反基地運動を復興し、継続させたいのです。
さらに、自衛隊明記条項を追加する明文改憲と実質改憲が並行して目論まれており、実質改憲が着々と進行しています。
(1)国家安全保障会議が設置され、(2)防衛省・自衛隊の改組により自衛隊の企画・運用への高級幹部自衛官の発言力が拡大し、(3)国家安全保障官僚が安全保障施策を主導する仕組みが形成されたため、軍拡は安倍が政権を退いても続きます。「9条を守れ」だけでなく、国家のあり方自体を問い直す理論と実践が必要です。