「安倍首相と比べると天皇の方がリベラル」という意見を時折見る。しかも現政権に批判的で、天皇主義ではない(であろう)人々の口からだ。思想的にリベラルを全否定した上で天皇主義になる転向ではなく、リベラルなことを主張する根拠に天皇が登場するのだ。一体これは何だろう。安倍首相よりマシな政治思想を持つ人といえば、かなりの人が当てはまる。この言葉は何も言ってないに等しい▼だが人びとの間で説得力をもつと思われているからこの言説が繰り返されるのだろう。何も言ってないに等しい言葉も繰り返されることで別の意味が生じる。それは社会的意味だ。皆が言ってるからと、シェアを通して拡がる。意味がないから引っかかりもなく簡単にシェアできてしまう。繰り返されることで次第に常識になり根拠になる▼実際に天皇が何を考えているのかは分からない。だからこそ、憶測で安倍首相よりマシだと言ってはならない、という単純な疑問を持つべきだ。意味不明な言葉に分かったつもりにならず「分からない」と述べるのは、実はとても難しい。意味をなさない言葉に「分からない」と言わず、意味を与える社会の空気もまた天皇制を支える。 (K)