【イスラエルに暮らして】パレスチナ人の命脅かす 強硬右派政権の勝利の衝撃 イスラエル在住 ガリコ美恵子

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イスラエル総選挙批判

 4月9日、イスラエル総選挙が行われた。1位は強硬右派のリクード党。ベンジャミン・ネタニヤフが首相継続する。2位は「ガザを石の時代に戻してやる」と公言した、元軍参謀総長ガンズ率いる右派のカホール・ラバン(青と白)党。3位に宗教右派のシャース党が続く。汚職問題にもかかわらず、なぜリクード党が政権を維持できたのか。  

「イスラエルはユダヤ人だけの国」と公言したネタニヤフ首相。票獲得のために右派を歓喜させたことを列記する。  

(1)ガザ空爆を繰り返し、ガザ境界線で毎週金曜に行われる「帰還のための大行進」参加者に有毒ガス催涙弾を使用。また、無差別発砲で死傷者を多数出した。主な被害者は若者と子ども。  

(2)毎日、ヨルダン川西岸地区の町村に侵攻。ベツレヘム付近で車の故障で停車し、エンジンを確認していたパレスチナ人に軍が発砲。車で通りかかった若者が病院に運んだが、若者も射殺。非暴力抵抗運動のナビ・サーレ村のアヘッド・タミミの弟モハマッド(15)を、夜間侵攻で身柄拘束。上記はイ軍の民衆への暴力の一例である。  

(3)シリア領非占領地ゴラン高原の「非占領地」という表現を「イスラエル・コントロール下ゴラン高原」に改める、と発表。米トランプ大統領がこれを容認。ビジネス・インサイダー紙によると、ネタニヤフ首相は米国社にゴラン高原での石油・ガス探査権を与えている。  

(4)エルサレム旧市街のハラム・アッシャリーフ(神殿の丘)にあるゴールデン・ゲート礼拝所にイ警察が何度も無断侵入。アクサ職員と礼拝者を逮捕し、ハラム・アッシャリーフ入場禁止令を多数発布。「ハラム・アッシャリーフの運営はワクフ=ヨルダン政府宗教省が担い、入場に関するセキュリティをイスラエル政府が担う」との両国間の合意に違反している。ヨルダン政府の異議申し立てを、イ当局は無視、60日間のゴールデン・ゲート礼拝所の閉鎖を裁判で認めた(同礼拝所はイ当局に閉鎖されていたが、昨夏に13年間の強制閉鎖措置期間が終了、再開したばかり)。  

(5)「入植地は一つも撤退しない」と、新たな入植地建設を次々に許可。  

(6)投票日、イスラエルでの労働許可証を所持するパレスチナ人の検問所通過を阻む一方で、持ち場を離れられない兵士や警察官に僻地で計130カ所の投票場を設置。  

(7)昨年、新移民への学費無料・生活保障期間を1年間から3年間に延長。戦争、不況にから逃げてきたクリミア半島やウクライナなどからの移民は、ネタニヤフ支持を公言する。  

現在、西岸地区の85%がイスラエルのコントロール下にある。入植人口は、単純計算でイスラエル国民の約10分の1だ。入植者、政府機関、軍・警察、防衛・武器生産輸出に携わる国民、および新移民は、国民の4分の3以上。  

一方、ネトレイ・カルタのように「神の意志を冒涜するシオニスト国家を認めない」超正統派は、国内に約1万人存在するが、投票しない。また、リクードに投票しなければ嫌がらせを受ける恐れがあると投票しない人、イスラエル国を認めない気持ちから投票しない人は、アラブ・イスラエリー(イスラエル市民権を持つパレスチナ人)の約半数。  

以上が今回の選挙結果の要因だが、これに加え裏工作があった。  

(1)当日、アラブ・イスラエリーの町村の投票場で計1300個の隠しカメラが発見された。仕掛けたのはリクード党。隠しカメラを手に、事情を話す男性たちの姿がフェイスブックで広がった。国民の約2割のアラブ・イスラエリーに「リクード党に投票しなければ後で恐ろしいことになる」と脅しをかけていた。  

(2)当局は投票3日前、ネゲブ砂漠のアル・アラキブ・ベドウィン集落を撤去した。ネゲブのベドウィンには選挙権があるが、投票どころではなくなった。  

(3)ベドウィン集落の住民は投票場まで徒歩1~2時間かかる。今回、イスラエル人権団体ザジムが、約50台のミニバスによる送迎を行った。  

イスラエル・デモクラシー・インスティチュートによると、自称左派は国民の12%。2~30年前の半分で、国民の56%が自称右派、中道派は26%だという。強硬右派政権の勝利は、パレスチナ人の命を脅かす。  

さらに、紛争地への武器輸出を禁じる国際法を無視。世界各地でイスラエル製武器で市民が弾圧されていて、状況悪化が懸念される。

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