ベトナムの首都ハノイで2月末に行われた金正恩朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)国務委員長とトランプ米合衆国大統領の第2回首脳会談は合意なしに閉幕したため、日本では、「北がミサイル発射場を復旧」、「南北にクーデターの危機」などという無責任な報道が展開されている。日本のキシャクラブメディアの報道は、「朝鮮戦争の終結は時期尚早」と主張するなど、安倍晋三政権もびっくりの、偏見と憎悪に満ちた内容となった。朝米会談を「決裂」「失敗」と断じる報道姿勢は歴史の審判を受けるだろう。
「合意文書なし」は会談失敗を意味しない
協議の継続を両者は確認
フリージャーナリストの私は、朝鮮総連機関紙の「朝鮮新報」に寄稿するとして、ベトナム外務省へ記者証を申請し、22日に取材許可が下りた。26日午前、国際メディアセンターがオープンし、記者証を受け取った。海外には記者クラブがないので、大手メディアと同等に取材ができる。世界各地から3千人を超える報道関係者が訪れた。 金正恩委員長とトランプ大統領は、26日にハノイに到着。大統領はツイッターなどで「驚くほど生産的な首脳会談になる」とコメント。朝鮮戦争の終戦に向けた合意がなされ、国連による制裁の緩和への道筋も示され、「ハノイ宣言」への期待が高まった。 しかし、日本のキシャクラブメディアは、「日本が射程に入っている中距離ミサイルのことが置き去りにされる危険性」(青木理氏のTBSテレビでの発言)などという見当違いの論評をしていた。 2月28日の首脳会談は、閣僚らを交えた拡大会合となったが、合意にいたらず、予定されていた合意文書の発表は取りやめとなった。トランプ大統領は会見で「金正恩委員長との対話は非常に生産的だったが、席を立たなければならない時もある」、「信頼関係は強く、今後も維持したい」と述べ、協議を継続する意向を示した。 また、大統領は、「核・ミサイル実験の中止継続を約束した」と強調した。中国、韓国、ロシア、東南アジア諸国連合(ASEAN)なども第2回会談を高く評価し、米朝の対話維持に協力を申し出ている。 首脳会談で共同声明、合意文書が出されないことは、珍しいことではない。これを決裂と報道するのは言い過ぎである。 日本メディアは、相も変わらず、首脳会談で日本人「拉致」問題が取り上げられるかどうかを大きく報じたが、国際メディアセンターでそうした議論は全くなかった。 安倍首相は28日夜、トランプ氏との電話会談の後、トランプ氏が2回、拉致問題を取り上げてくれたと言明。メディアは、米側に裏取りもせずにこれを大きく伝えたが、金正恩委員長の反応は伝えられない。合計で1時間もない会談で、本当に取り上げられたのだろうか。
日本メディアの偏見報道
東京新聞は良質な新聞だが、朝鮮報道は最悪だ。北京支局の「北東アジア担当」城内康伸記者は3月1日、「『米国第一』を掲げるトランプ氏がこの先、北朝鮮の大陸間弾道弾(ICBM)廃棄などで満足し、日本の安保不安が蚊帳の外に置かれるシナリオも排除できない。反対に、経済制裁緩和の見通しを持てなくなった北朝鮮の指導者が再び、軍事挑発にかじを切る可能性もある」と書いた。同紙は7日付で「北で『米朝会談失敗』拡散か制裁緩和できず広がる失望感」という見出し記事を書いた。「『会談は失敗した』という情報が北朝鮮内部で広がっている」、「当局は情報拡散を防ごうと、住民の監視を強め、秘密警察の地方組織が、日本のかつての隣組に相当する人民班に指示した」というのだ。情報源は「北朝鮮関係者」しか書かれていない。
この記事が出た翌8日付の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、首脳会談自体は「成功裏に終わった」と評価しつつ、合意文書なく終了したことについて、「米国に責任がある」と一様に主張し、「物足りなさとため息を禁じ得ずにいる」と論評している。
「朝鮮戦争終結は日本の脅威」?異様な日本政府と御用メディア
71年間続く朝米の敵対関係を変えるには時間がかかる。朝鮮戦争を終わらせるのも簡単ではない。しかし、核戦争の危機は回避されているし、トランプ大統領も「核実験、ミサイル発射実験がないことは成果だ」と評している。外国メディアは「非核化は、米国の核の傘の下にある韓国、日本の核をどうするかも課題だ」と報じている。共同通信によると、米国と韓国の政府は3日、毎年春に実施してきた最大規模の合同軍事演習を終了すると発表した。このタイミングでの軍事演習の中止発表は、米国が朝鮮との実務協議の早期再開を求めるサインであろう。
朝鮮と日本には国交もない。日本のジャーナリズムは、朝鮮と国交正常化を進め、日朝平和条約を締結するよう提言すべきだ。米政権が朝鮮との平和構築を探っている中で、日本政府と御用メディアが、朝鮮戦争終結が日本への脅威をもたらすと言っているのは異様だ。南北の分断と朝鮮戦争に日本には重大な責任がある。朝鮮戦争がいまだに終焉を迎えておらず、朝鮮半島の侵略と強制占領の過去清算が、半島の北半分(朝鮮)について終わっていないことを、日本の国民とメディアは認識して、朝米交渉の進展に協力しなければならない。