【国際評論ラテンアメリカ】 ピンクの潮流   翻訳・脇浜義明

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少し前、ラテンアメリカで左傾政権が次々とあらわれ、世界の左翼を喜ばせた時期があった。共産主義と呼べない程度の左傾化で、「ピンクの潮流」と呼ばれた。現在それが姿を消し、右翼政権が次々と誕生した。残る左派政権も、例えばニカラグアのオルテガ政権に見られるように、かつての輝けるサンディニスタ民族解放戦線が堕落して民衆の反感を呼んでいる例もある。ベネズエラでは、経済的混乱に乗じて右派のグアイド国会議長が暫定大統領就任を宣言、トランプが承認を表明、軍事クーデターでマドゥーロ大統領を倒そうと画策した軍部が動かず、未遂に終わった。キューバは健在。DISSENT誌はラテンアメリカに右翼勢力が台頭する状況を分析する特集号をだした。以下に紹介するのはその巻頭論文にあたるものである。  (訳者 脇浜義明)

 ピンクの潮流

 パトリック・アイバー(Neither Peace nor Freedom: The Cultural Cold War in Latin America, Havard University Press, 2015などの著書があるラテンアメリカ研究者) 出典:DISSENT、Winter 2019

 2018年11月1日、トランプ大統領の好戦的な国家安全保障顧問ジョン・ボルトンがマイアミで演説、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアを「独裁主義三人組」「西半球を汚染する共産主義のゆりかご」と呼んだ。同時に、コロンビアのイバン・ドゥケとブラジルの次期大統領ジャイール・ボルソナーロを「我々と同じ考えの指導者」と呼んだ。ボルソナーロは去年10月28日に55%の得票で当選したネオ・ファシストで、ブラジルから「アカ」の駆逐を約束し、ブラジルを独裁支配する軍部は政敵を拷問するが殺さないのが問題だと言った人物である。ドゥケ政権の高官は、匿名を条件で、米国とブラジルがベネズエラに侵攻するならばコロンビアも支援するとブラジルの新聞に語り、「ナショナリスト・インターナショナル」の立ち上げを示唆した。

 後日、コロンビア政府はこの高官の発言を否定した。そのような侵攻はおそらく起きないと思われるが、これは南北アメリカ大陸の政治環境が著しく変化したことを証拠づけるものである。(訳注1:トランプ政権はベネズエラを石油禁輸など制裁で痛めつけ、経済苦に悩む民衆に暴動を扇動し、軍にクーデターを起こさせようとし(未遂)、正規大統領を否定して傀儡大統領を代表と認め、米州機構の国々、欧州、日本をそれに追従させるなど、ゴリ押しをしている。これは侵攻と同じである)ほんの数年前、「ピンクの潮流」が根付いたかのように思えたのに。左派政権の国々は経済成長と格差解消に努めた。10年間ほどは、経済的分配と政治権力に関して、民主主義による多数者と社会運動が若干の力を勝ち取った状態、つまり幾らかの均衡化が実現したように見えた。もっとも、今でその面影すら残っていないが。現在台頭してきた極右に対抗するためには左派・左翼の連帯が必要であることは明らかである。そのためにはピンクの潮流のとき実際には何があったのかを正しく理解し、その理解に基づいてもっと効果的に平等を促進するアジェンダを形成し、貧しい人々や社会的弱者と言われる人々に希望を持たせ、破壊的資本主義に代わるオルタナティブを提示するために、新しい思考方法が必要であることも、同じように明らかである。

 左派の人々は21世紀ファシズム脅威に備えよと、ほとんど本能的に叫んでいる。もちろん、ファシズム阻止は差し迫った優先問題である。しかし、そのためにも、ピンクの潮流がもはやかつてのように世界の人々を鼓舞するものではなくなったという現実をしっかり捉えることも、同様に重要である。パブロ・エステファノニ(訳注2:Pablo Stefanoni. Nueva Sociedad(新しい社会)という雑誌の編集長、ラテンアメリカ政治研究者)が論じたように、極右は反進歩主義に肯定的に反応する聴衆を得たのだ。キューバに代わってベネズエラという悪霊が南米大陸の政治を脅かしているという言説をながしている。エステファノニが指摘しているように、左派政権が失敗しても成功しても、右翼はそれを憎むのである。左翼の任務は、成功した事業を保持し、失敗したものをしっかり検討し改革して、将来人間的必要に応じる政治方針を明確に表現することだ。

 こういう背景のもとで、2018年10月5~6日に、DISSENTは「アメリカ大陸の左翼の将来」と題する国際会議を主催、カナダからアルゼンチンまでの左翼活動家が参加した。大雑把に言えば、アメリカ大陸の政治を民主主義的社会主義の鏡に映して議論することが会議の目的であった。状況分析とこれから何を建設するかを論じることだった。ラテンアメリカのピンクの潮流の衰退が明らかな今、それが盛んだった頃の中身を正しく評価し、その評価に基づいて建設的な未来ビジョンを練ることであった。左派が解消しようとした社会的問題はそのまま残っている。それどころか、問題はどんどん増大し続けているので、南北両大陸の左派・左翼がしっかりした国際主義的ビジョンをもって活動しなければならない。本特集号に収められているのは、その国際会議で提起されたものもを、一つ一つ論文の形でまとめたものである。

 21世紀の民主主義的社会主義を想像し、それを実現するためにも、ピンクの潮流を正確に理解・評価する必要がある。会議で議論になったことの一つは、左派を自認していた政権の中には、専制的民衆統治を行い、貧困増加を防ぐことが出来ず、犯罪的営利企業を国家機構の中に統合した政府があったこと事実を踏まえ、「左派」または「左翼」をどのように定義するかであった。そもそもピンクの潮流に属する諸政権は同一ではなかったし、統一していたわけでもなかった。国際社会からラジカルと見られた「ボリバル主義」派を名乗るベネズエラ、ボリビア、エクアドル、ニカラグア、そしてたぶんアルゼンチンも加えてもよい急進的政権もあれば、ブラジル、ウルグアイ、チリのような社会民主主義左派政権もあった。

 この二つを同じものであるかのように簡略化して語られることが多いが、それぞれ民衆統治方法などに大きな違いがあった。そうかといって、一つの国が他の国よりより左翼的だという分類の仕方をすると、たちまちカテゴリー化の迷路に迷い込むことになるだろう。それより大切なことは、ボリバル派を名乗る国々の多くでは、従来の政党政治システムが崩れ、国内の諸勢力をまとめるためにカリスマ的指導者を使った新しい支配政党を急遽作ったことに注目することだろう。この挑戦的やり方のために選挙民が二極分裂した。論理よりは「忠誠」が強調され、単純な敵味方、それも思い込みを含んだ敵味方に分化し、しばしば物理的衝突に発展したことだ。社会民主主義的諸国では従来の慣習的政治制度の枠が維持され、その枠内で社民政権が機能したので、必然的に権力共有から生じる障害や期待外れが生まれた。

 現在という地点から振り返って考えると、ピンクの潮流の潮流を可能にしたのは物資の国際価格の上昇であった。あのブームがピンクの潮流の台頭と、それと同時にその限界の、構造的原因であった。ラテンアメリカ諸国の経済はずっと昔から原材料輸出と完成品輸入で成り立ってきた。2000年代初期、中国とインドの急速な経済成長のおかげで、原油、リチュム、大豆などの原材料価格が上昇した。そのおかげでピンクの潮流政府は社会的福祉や開発にカネを使うことができて、自らの政治的基盤となる人々―少なくともその一部―の必要を、根底的な経済の構造変革やグローバル通商システム内の自分たちの位置付けを根本的に変革することをしないでも、ある程度充足することができた。しかし、政治も物資の国際価格も不変ではない。価格が下落すると政権支持も下落した。チリやアルゼンチンでは選挙で与党左派が敗北した。パラグアイのフェルナンド・ルゴ大統領は2012年の「議会クーデター」で大統領職を罷免された。(訳注3:ルゴは解放の神学に抱く大統領だったが、2012年6月土地なき農民の土地占拠運動と警官隊とが衝突、17人が死亡する事件が起きた。上院が治安悪化に対する大統領の責任を問う弾劾裁判を行い、ルゴを罷免した。ルゴはこれをクーデターと呼んだ)ホンジュラスのマヌエル・セラヤは2009年の「憲法危機」とクーデターで政権を追われた。(訳注4:もともと保守系だったセラヤは、2006年選挙で大統領になってから左傾化した。憲法は大統領の再選を禁じていたが、再選を望むセラヤは憲法改正国民投票をやろうとして、与野党から非難され、やがてクーデターが起きて失脚した。民衆の間では人気があった)ブラジルでは2016年ブラジル史上初の女性大統領である労働者党(PT)のジルマ・ルセフ大統領がかなり問題のある上院による弾劾裁判による罷免投票の結果失職、右翼が権力を取った。(訳注5:彼女の前任大統領ルラと同じく汚職容疑であるが、不況による民衆の不満を利用した動きであった)

 労働者党から初めて大統領になったルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァの人気は依然として高く、賄賂疑惑で収監されていなくて、2018年10月の大統領選挙に立候補できていたら、おそらく勝っていたであろう。賄賂や汚職がPTにあったかどうかはあまり大した問題ではない―好ましいことではないが、ブラジルの政治風土は事実上汚職を必要とする構造で、ルーラを含め政治活動をやる上で汚職を避けて通れないのが現実だ。(訳注5:ノーム・チョムスキーは、ラテンアメリカで賄賂を拒否した珍しい政治家はベネズエラのチャベスぐらいだと、左右を問わず賄賂がラテンアメリカ政界で横行していることを指摘したことがある。彼の娘はニカラグア人と結婚しているが、娘の家の前には有刺鉄線で囲まれた巨大な空き地がある。その不在地主はサンディニスタ政権オルテガ大統領の兄である)

 しかし、ルーラに立候補資格ないという政治的有罪を決定する適正手続きはなされなかった。10月選挙で大統領になった極右のジャイール・ボルソナーロは、ルーラ投獄を命じたセルジオ・モロ判事を法務大臣に任命した。政権の座にいた頃のPTは穏健路線―資本主義根絶でなく貧困根絶を目指し、既成政治制度の変革でなく既存政治制度の中で事態改善を図る路線―を取ったことが、PTの脆弱性となった。

 しかし、穏健政策をとらず、対決を辞さないラジカルな方法をとれば成功するというわけでもない。ボリバル主義の国々も様々な危機に直面し、民主化への潜在的能力が浸食された。ボリバル主義諸政権の中で最も成功したと思われるボリビアのエボ・モラレスは、第三期で終わっていれば偉大な大統領という遺産を残すであろう。しかし彼は、国民投票の結果を無視して、第4期大統領を狙っている。(訳注6:憲法では大統領は3期まで継続できるが、モラレスは4期目への継続を狙って憲法修正を提案した。それは国民投票で否定された)

 ベネズエラのチャベス時代は、原油価格上昇のおかげで貧困を減らすことができたが、彼は石油輸出経済に依存しすぎ、独立経済・政治への道を損なった。後継者ニコラス・マドゥロが破局的行政を引き継ぐ基を作った。この数年間、GDPが半分以上も下落、国民は品不足と飢えに苦しみ、難民として国外流出、貧困立は80%を超えている。ニカラグアのダニエル・オルテガ政権は自国民に銃を向ける政権に転落し、かつてオルテガたちが崩壊させたソモサ一族に匹敵する存在となった。覇権政党に権力集中が制度化すると、政権への支持や人気が低下したとき、権力を他に移譲するよりは権力を守るために抑圧を強める戦略をとるのだ。

 アメリカ両大陸の左派・左翼の状況はまったくお先真っ暗というわけではない。確かに左派政権は姿を消しつあるが、それは政策失敗によるもののようで、決定的敗北というわけではない。欠陥や失敗にもかかわらず重要な業績を記録に残している政権もかなりある(中にはそうでないものもあるが)。

 ピンクの潮流に属していた二つの大国で、最近左派が驚くべき力を発揮した。コロンビアでは、元左翼ゲリラ活動家でボゴタ市長を務めたグスタボ・ペドロは、2018年大統領選挙では敗れたものの、左翼としては久しぶりの健闘を見せた。メキシコでは、去年夏の選挙で、アンドレ・マヌエル・ロペス・オブラドールが、左翼の支援を受けて大差で勝利、去年12月に大統領に就任した。(訳注7:オブラドールが立ち上げた中道左派の国家再生運動が労働党及び社会結集党と連合して2018年大統領選挙に挑み、勝利した)米国でも、制度的脆弱性にもかかわらず、草の根差役が弾力性を発揮、少なくとも2世代にわたって見られなかった左の組織力・動員力を見せた。ブラジルでも、ルーラでなく極右のボルソナーロが大統領になったけれど、ボルソナーロがルーラより人気があったからではない。米国と同じようにブラジルとメキシコで中道右派が崩れたということは、それぞれ異なった結果をもたらすであろうが、アメリカ大陸政治風土にとって無視できない現象である。

 とはいえ、ボリバル主義戦略にも社会民主主義戦略にも限界があったと言えるだろう。精も根も尽き果てたというわけではないが、ゴールに着かないうちに息切れしたのは明らかである。ピンクの潮流時代、民主主義的社会主義者の基本的姿勢は倫理的優越性であった。彼らはボリバル主義には民主主義が不完全という欠陥があり、社民主義には社会主義が不完全という欠陥があるのを見て取ったからである。しかし、両者の欠陥を乗り越えようとするこの倫理的優越性から、政権を取ったときの政策設計とその政策に対して国民の支持を結集できるプログラムが生まれるであろうか。

 この特集の収録諸論文は、そういう未来のプログラム作りに貢献するために、ピンクの潮流の諸経験の中に存在する中核的問題を論じている。如何にして左翼は経済と社会を変革するうえで必要とされる力を構築できるのか、それと同時に変革プロジェクトに必然的に敵対する資本の妨害に立ち向かうことができるか。如何にして我々左翼をその闘いを、人民大衆の信頼を得る形で進めるか、同時に国の生産基盤を破壊しない形で進めることができるか。どのようにすれば資本の力を上回る国家の力を形成できるか、しかもその国家の力が人権や正義への脅威とならず、国家関係者の利己的利益の道具にならないようにできるだろうか。

 論文集に統一テーマがあるとすれば、国家の政策と社会運動の形をとる左派・左翼の組織的活動が一つのプロジェクトの中に組み込まれるような関係になるべきだという主張であろう。キューバの社会学者アイリーン・トーレス・サンタナは、アメリカ圏で社会主義経験がもっとも長いキューバについて論じている。

 キューバは発生的には「上からの」社会主義の国であった。キューバの平等主義と社会的サービスの均一的提供は大きな功績であるが、共産党の政治的独占のために民衆の政治的自治能力育成にブレーキがかかっていると批判する。現在、キューバは革命世代から革命後世代へと指導権が移行している過程にあるが、その中でもっと多元的で、国家中心的傾向が少ない政治的価値を尊重し、育成すべきだと主張している。キューバ・米国関係史の研究者アンドレス・ペルティエラは、キューバの新指導部は正統性危機に直面するかもしれないと書いている。キューバの課題は、民主主義的意志決定を推し進めることでそういう潜在的危機を乗り越えることである。

 エクアドルのアンディナ・シモン・ボリバル大学のパブロ・オスピナはエクアドルについて書いている。エクアドルは左派政治家ラファエル・コレア大統領の統治下にあるが、かなり国家中心的で、市民社会が主体的に動く可能性が少ない。コレアは民主主義的・平等主義的大衆運動を助成・激励するよりは、自分の政治プロジェクトを大衆に支持させるやり方の方を好んだ。しかし、自発的市民アソシエーションを排除して構築した国家主導の市民組織は円滑に機能せず、むしろ大衆支配・民主主義破壊の道具となる気配さえ見せている。

 政治歴史学者ヘラルド・カエタノは、社会民主主義的視点から、ウルグアイの拡大戦線(FrenteAmplio)(訳注8:1971年に結成された左翼・中道の連合政党で、2005年以来3期連続政権与党である。有名なホセ・ムヒカは2010年に就任した大統領)について記述している。2人の政治家が入れ替わって大統領となったとき(訳注9:タバレ・バスケス(2005年と2015年)とホセ・ムヒカ(2010年)のことを指しているのだろう)、貧困が大きく減少し、効果的統治の見本のような記録を残した。労働組合や市民団体は自立的な主体性を維持しながら政権を支持した。しかし、現在連合政権内で分裂の兆しが見え始め、改革エネルギーもやや減退したように見える。次回選挙で政権維持ができるかどうか、不確かである。

 ボリバル主義だろうが他のなんであろうと、ピンクの潮流諸政権の明白な限界は、相変わらず天然資源採掘と輸出に依存した経済である。生産様式を根本的に変えなければ未来はないのに、既成の通商システムの中で割り当てられた役割から脱しきれないことだ。左翼は未来を語るのだから、エネルギー源の早急な変革を主張する運動と人間的必要の充足と平等な分配を主張する運動とを結合する、大きな連合体を形成しなければならない。

 ラテンアメリカの天然資源をめぐる争いを研究してきた米国プロヴィデンス大学のテア・リオフランコスは、そのためには地域運動と国家政策と国際主義的連帯とを結合させなければならないと述べている。例えば、エルサルバドルで金属採掘を政府が禁じたことに見られるように、この面で微かだが希望の光が見え始めている。最後に、ペンシルバニア大学の気候変動を研究しているダニエル・アルダナ・コーエンがブラジルの危機的状況について書いている。彼はブラジルの未来の未来は二つに分かれることを警告している―つまり、エコ・アパルトヘイトのブラジルか、民主主義のブラジルかの分岐を語っている。

 しかし、ブラジル―及びその他の国々―で支配力を握った新右翼は見かけほどに強力ではない。だから、左派・左翼の当面の仕事は右翼政府の破壊的アジェンダに抵抗・阻止することで、それを行いながら大衆の支持を回復すべく、大衆の必要と希望に応じる政策と、実行できる力を構築していくことだ。
ラテンアメリカが直面してきる問題は国際的規模の問題である。従って解決へ向けての闘争も一国だけの国内課題ではない。南北大陸で寡頭政治が台頭し、政治制度や経済資源や環境の民主主義的管理を破壊している。不安定、不平等、エリートの無責任などが国際的に蔓延する中、ある国では左派が成功し、ある国では危機になっている。なすべきことはたくさんあるが、互いに連携し、力を合わせて、一緒に行わなければならない。

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