イラン・パぺは1954年生まれのイスラエル人、ユダヤ教徒だ。現在はイギリスエクセター大学で教授となりパレスチナ・イスラエル問題の研究に携わっている。彼は政治的党派、組織との深い関わりは持たないとしているが、その鋭いシオニスト批判故にイスラエルを逃れ今イギリスで暮らす。今彼のパレスチナ・イスラエル間への問題への探求は世界から注目されている。
題名を「イスラエル建国に関する十の神話のウソ」としたほうが、この本にふさわしいだろうと思う。
まずこの本を紹介するに当たり、長くなるがどうしてもこの「十の神話」について述べなくてはならない。シオニストがイスラエル建国とパレスチナ人の土地を植民地化すること、そのための残虐な行為を正当化する拠り所がこの「十の神話」にあるからだ。
(1)パレスチナは無人の土地であった (2)ユダヤ人は土地なき民族であった (3)シオニズムはユダヤ教である (4)シオニズムは植民地主義ではない (5)1948年パレスチナ人は自ら居住地を捨てた (6)1967年六月戦争は「やむを得ない」戦争であった (7)イスラエルは中東で唯一の民主主義国家である (8)オスロ合意に関する諸神話 (9)ガザに関する諸神話 (10)二国解決案が唯一の道である。
彼はこの神話の欺瞞性を、歴史的には16世紀宗教改革に遡り、そもそもユダヤ教徒をユダヤ人とした宗教的根源にまで迫る。
1517年オスマン・トルコ帝国支配を経て英・仏・露帝国主義支配にアラブが翻弄され、またユダヤ教徒がナチスドイツに蹂躙される。排外主義的なシオニズムが形成され、今日に至る過程を具体的史実をもって立証していく。
パレスチナ問題にある程度知識のある人は、これらシオニストの「神話」のデマゴギーや主張に正当性がないことを認知しているであろう。しかしながらこれらの主張は大方のイスラエル国民、ユダヤ教徒、米国民の人々の間では「常識」となっている。また米国の同盟国および支配下にある国連加盟国でも同様である。それゆえに21世紀現在進行しているガザにおける「ナクバ」、非暴力帰還運動への、イスラエル軍の容赦ない弾圧、殺戮が国際社会で正当化されてしまっている。
この状況は突如起こったものでなく、「十の神話」を通じてシオニストが周到に準備したものだ。1948年戦争を通じて最大のパレスチナ難民キャンプ「ガザ回廊」をゲットー化した結果であることを暴いている。その後2000年代あの悪名高き残虐なシャロンが現れ、イスラエル軍と入植したユダヤ人を敢えてガザから引き上げさせ、無差別攻撃を可能にした。
50年にも及ぶ侵略・占領は、シオニズムがまさに植民地主義であることを示すものだと彼は結論づける。そのうえで提案される「二国解決案」が、パレスチナへの過酷な暴力と殺戮を合理化し、イスラエルのアパルトヘイト国家化、民族浄化を進めるものだと痛烈に批判する。
パレスチナ問題を知る人にとっては、その歴史性や本質を深めるためによく整理されたものであるし、また歴史的に具体的に語られるパレスチナ・イスラエル問題の入門書としても役立つ。(評者 編集部・松永了二)