サンフランシスコ「慰安婦」像設置 山口智美(モンタナ州立大学教員)

大阪市が姉妹都市関係を一方的に破棄

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 2018年10月2日、大阪市の吉村洋文市長はサンフランシスコのロンドン・ブリード市長に、60年以上にわたり続いていた両市の姉妹都市関係を破棄するという内容の10ページに及ぶ書簡を送付した。

 17年9月22日、サンフランシスコ市セントメアリー公園に、市民団体「『慰安婦』正義連合」の寄付により設置された慰安婦像をめぐり、サンフランシスコ市が寄付を受け入れたことがその理由だった。

 すでに17年12月、大阪市は幹部会議において姉妹都市解消を決定していたが、サンフランシスコ市のエドウィン・リー市長が同月に急逝したため、新市長の誕生まで姉妹都市の撤回の通知を待つとしていた。そして18年6月のロンドン・ブリード新市長の誕生を経て、吉村市長は7月に再び、「慰安婦」像を市の公共物でなくすことを求める書簡を送り、9月末の返答期限を一方的に設定した挙句、それへの返答がないからと、10月に姉妹都市撤回を宣言したのだった。

 前任者の橋下徹市長と吉村現市長のもと、大阪市は15年8月に「慰安婦」の碑設立に反対する書簡を初めてサンフランシスコ市議会に送り、その後も市長あてに計9回も、一方的に同じ主張を連ねるだけの書簡を送り続けてきた。大阪市や日本政府も、「慰安婦」像の設置を阻止すべくさまざまに働きかけた。さらに在米日本人右派は市議会の公聴会に現れ、「慰安婦」否定論を展開し、参加していた元「慰安婦」を侮辱するなどして、地元の議員や市民らを呆れさせてきた。

 大阪市による姉妹都市関係の破棄を受け、10月4日にブリード市長は声明を発表。「一人の市長が、両市の市民間に60年以上にわたって存在してきた友好関係を一方的に終わらせることはできない」とし、「慰安婦」像が、過去、そして現在においても性奴隷制や人身売買の被害にあってきた全ての女性たちの闘争のシンボルだと言明した。

 大阪市が姉妹都市関係を破棄したというニュースは、地元メディアのみならず、ニューヨークタイムズやガーディアンなど、アメリカ国内外のメディアに大きく報道された。そして、この像の存在やそのメッセージ、さらに像に込めたCWJCなど市民の思いも、大阪市の目的とは裏腹に、広く知られることにもなった。

 逆に日本の大手メディアの報道は、大阪市の主張をただ流すだけのものが大部分であり、像を支持するサンフランシスコや大阪市民の声は無視されるという状況だった。

「慰安婦」像設置一周年記念式典

 大阪市が姉妹都市打ち切りの書簡を送った10日前の2018年9月22日、サンフランシスコ市の「慰安婦」像設置一周年を記念する式典が、像が建つセントメアリー公園で開かれた。会場には多くの人があふれかえり、壇上では、さまざまな形で像の設置に関わった人たちによるスピーチや、踊りなどのパフォーマンスが行われた。その中には、大阪市から訪れていた、「大阪市をよくする会」と、「日本軍『慰安婦』問題・関西ネットワーク(以下、「関西ネット」)」の人たちの姿もあった。両団体はその前日にサンフランシスコ市議会を訪れ、サンフランシスコ市民と連帯しつつ歴史の否定と戦い女性の人権を推進したとして、市議会から感謝状を贈られた。

 だが、在サンフランシスコ日本総領事館は、大阪から来る市民たちを迎えるなと市議らに伝えて回っていたという。

 式典の後にはデモが行われ、終着点は中華街のシティーカレッジ。そこでは日本軍「慰安婦」のパネル展示が行われており、午後には映画の上映や集会が開催された。公教育に生かすために新たに開発された「慰安婦」問題に関するウェブサイトの紹介など、新たな情報も共有された。

 地元の関係者や大阪の市民のみならず、グレンデールやアトランタなどアメリカ各地で「慰安婦」像設置の運動に関わってきた市民や、マイク・ホンダ元議員も参加し、交流を深めた。

大阪・サンフランシスコ市民日本軍性暴力告発の絆は深まる

 日本軍「慰安婦」問題の解決に向けて運動を展開してきた大阪市民たちは、こうした大阪市の方針に反対し、抗議行動や署名運動などを積み重ねてきた。

 「大阪市をよくする会」は10月9日に姉妹都市提携解除に対する声明を発表し、10月11日には、関西ネットとCWJCが共同声明を発表。共同声明は「一市長である吉村市長が姉妹都市関係解消を宣言しても、私たち大阪とサンフランシスコ両市の市民の絆は強まった。 女性、少女、LGBTやすべての人々が誇りと尊厳を持って生きることができ、性暴力の恐怖や戦争の手段として利用される恐怖から解き放たれた世界を実現するため、私たちは太平洋を越え連帯し続ける」と宣言している。

 姉妹都市関係は破棄され、日本政府や右派による妨害を受けても、サンフランシスコ、大阪など各地の市民は連帯し、歴史修正主義に抗い、「慰安婦」問題の解決に向けて運動を進めている。

 だが、そうした市民の動きは日本の主要メディアで報道されることは少なく、先述の1周年記念式典の取材に来たのも産経だけだ。逆に、日本政府や自治体、右派の市民の声ばかりが、日本では拡散されている。これではますます日本国内での「慰安婦」問題の理解はずれて、孤立していくばかりだろう。

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