帰還兵が語るベトナム・イラクの真実 フリーランス・ライター 谷町邦子

若者への米軍勧誘・PTSD・帰国後の自死…

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 ベトナム戦争・イラク戦争の帰還兵が平和を求め、戦地の真実を伝える「ベテランズ・フォー・ピース」。「ベテランズ・フォー・ピース2018年ジャパンツアー」は今回4回目で、10月16日、神戸女学院大学で行われ、多くの学生や平和を求める人々が耳を傾けた。

 1970~71年の間、ベトナムに駐留し、救援ヘリ部隊に所属したマイク・ヘイスティさんは、戦地で兵士たちが内部崩壊し、薬物中毒、米軍同士の殺人、自殺が蔓延しているのを目の当たりにした。多くの兵士たちは「なぜ自分たちはここにいるんだ」と自問自答し、自分たちが乗るヘリコプターに抗議の意を込めて落書きすることもあったという。ヘイスティさんは、戦争終結後、虐殺が行われたソンミ村を訪ね、生存者にも会っている。

 アメリカでは軍服を着たGIジョーという人形があり、戦争が子どもの遊びの中で親しまれているが、戦争の真実が知られていないと感じている。戦争は相手国の兵士を殺すだけでは終わらず、相手を和平交渉のテーブルにつかせるには、一般市民を殺害し、自国を防衛する気持ちをくじく必要がある。だから戦争では一般人こそが本当の標的なのだ、とヘイスティさんは語る。

 また、米軍の同盟国も共にベトナムで虐殺を行ったことを挙げ、集団的自衛権により自衛隊がアメリカの戦争に加担する可能性があること、日本国憲法第9条の大切さを訴えた。

 2003年にイラクで従軍したネイサン・ルイスさんは、2006年「戦争に反対するイラク帰還兵の会」に入会。現在は紙すきアーティストや作家として活躍している。

 ルイスさんは目立った産業がない町に生まれ、公立学校には軍が勧誘に来ていた。高校卒業後陸軍に入隊し、訓練が始まった2日後が9・11だった。2003年、イラクに派遣された時は20歳。イラク人への差別、暴力、囚人への拷問を目撃するが、上官は「イラクの人を守るため」と言い訳するばかりだった。

 帰国後は軍から離れ、大学に入学。イラクでのことは忘れようとしたが、心の中は戦争の記憶と怒りで満ちていた。その頃、ベトナム戦争の退役軍人に会い、戦地での記憶に苦しむのは自分だけではないと知る。それから、ルイスさんはアメリカの歴史を深く学ぶようになった。

 その中で、退役軍人による詩などアートでの意思表示に出会う。現在は100年前~現在までの軍服を素材に紙すきで紙を作り、絵と言葉でメッセージを綴る「コンバットペーパー」という活動を行っている。

 2001年に始まった戦争が終わらないのに、メディアは元兵士が孤立し引きこもる現状を取りあげない、罪の意識に押し潰されて自殺した兵士もいる、戦地へ行くためのトレーニングはあるが日常に戻るトレーニングはないなど、芸術を通して、アメリカの嘘、メディアの嘘について伝えていくという。

学生の問いに自らの経験から答える

 「戦争中はどのように過ごしていたのか」という学生からの質問に、ヘイスティさんは、「戦場では次の瞬間、何が起こるのかわからない。急に爆弾が炸裂して夜中に起こされたり、ロケット弾で攻撃され仲間や上官が死んだりすることもある」と過酷な環境を話す。さらに「一番辛かったのは、戦争がアメリカの嘘で固められたものだったこと。自由や民主主義とは関係のない、企業の利益が目的で、戦争とは裕福な人たちがより裕福になるためのものだった」と知って、帰国してから価値観が変わり、PTSDに苦しんだことを語った。

 「どのように軍隊に入ったのか」という質問にルイスさんは、「アメリカは自ら入隊を希望する志願制だが、軍に入ることで大学入学が可能になる若者が多くいる」と、貧困の蔓延により経済的な理由で入隊する若者がいる現状を、自らの経験を交えて答えた。

 また、軍隊がさまざまな方法で勧誘してくる実態も説明した。軍隊がコマーシャル、電車の中の広告などの方法で生活に入りこみ、高校を卒業する頃には校内に軍のリクルーターが来て、「お金がもらえる」「海外に行ける」と誘う。「人を殺すかもしれない」、「怪我で障がいをもつかもしれない」などの不利益は伝えられないまま、若者が自然に入隊する現状を語った。

わかち合う平和への思い

 講演後の懇親会で、2人はスピーチを終えての気持ちを話してくれた。ヘイスティさんは「私たちは常に証言者を黙殺している」、「生き残った人が語ることで救える命がある」と経験を語ってきたが、今回ほどやりがいを感じたことはないそう。例えば、ワシントンD・Cで反戦運動をすると、敵視されることもあるという。日本ほど戦争で酷い被害を受けた国はないのだから、アメリカと向き合ってほしいと望んでいる。

 「来日前は、日本のみなさんに何が提供できるか不安だった」と振り返るルイスさん。戦争の元凶の多くはアメリカで、世界中をアメリカの悪影響が覆っている。戦争について語ること、表現することは世界市民としての役割なので、今後も続けていきたい、と語った。

 和やかなムードの中でも、2人と、主催者、参加者の間で平和への思いが共有された。

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