台湾で生まれた日本人がテーマ
日清戦争で勝利した日本は台湾を植民地にした。日本(多くは九州、四国、沖縄など西日本)から軍人、官吏、企業の駐在員、商人、漁民たちが移民として移り住んだ。明治から大正にかけてである。そして台湾で生まれた子どもが「湾生」である。
昭和の初めに生まれ、幼少、学齢期(つまり日中・太平洋戦争の戦時下)を台湾で過ごし、終戦で日本に来た。映画は、台湾東部の漁民の町=蘇澳で冷泉を発見し、事業を起こした日本人の孫と、官吏として漁港の開発と整備の責任者をしていた日本人の子どもの二人の湾生の物語である。
二人は日本人の小学校に通い、そこには台湾人有力者の特別な子も通っていた。男子は中学に入ると軍事教練、女学校では勤労学徒動員が。当時を日本人の湾生と台湾人の証言で構成する。そこには植民地での日本人の特権的地位もかいま見える。
終戦とともに日本へ送還(湾生にとって「引揚げ」ではなく、祖先の地に行くということだった)。
焦土の日本では、湾生たちは引揚者として偏見の目で見られるが、彼らは戦後復興、高度成長を駆け抜ける。
台湾は蔣介石の国民党の独裁下になり、国際社会の関心は毛沢東の新生中国に注がれる。その中国も「大躍進」、文化大革命で混乱状態に。国際社会では忘却された台湾。しかし青年期、壮年期そして老年期を迎えた湾生の心の中にはずっと生まれ故郷の台湾があった。二人の湾生の歩みと、共に歴史に生きた湾生たちの証言で綴られる150分の長編ドキュメンタリー。台湾でも上映される。日本各地巡回中。神戸の元町映画館、京都シネマでも順次公開。
(クリエイティブ21 林 雅行)