民族解放闘争の中心にあったパレスチナ解放運動
昨年11月、人民新聞編集長が突然逮捕された。
容疑は「サギ罪」。銀行がキャッシュカードを不当に追加発行させられたことが、唯一の被害の実体であるとする、珍妙な一審判決が下されている。経緯を知る誰もが思い至る背景は、国家権力による、今は存在しない「日本赤軍」への執念深い報復が続いているという事実。よほど悔しい思いをしたに違いない。
頭に血が上った彼らには理解不能かも知れないが、1970年~80年代にかけて、パレスチナ解放闘争は中東のみならず、世界中の民族解放、社会変革運動の中心に存在していた。
帝国主義支配の厳然たる結果として、第3世界に引かれた国境線を打ち破るパレスチナの闘いが「日本赤軍」の闘いの基礎でもあったということだ。やがて、冷戦構造の終焉という世界情勢の変化の中で、パレスチナは少し見えづらくなっていく。「オスロ合意」、イラク戦争、IS建国。30年にわたる国家をめぐる中東情勢の変化は、アメリカの衰退とともに、再びパレスチナ問題を焦点化させつつある。トランプ米大統領による米大使館のエルサレム移転は、その流れを決定づけるものだった。
人民新聞は、パレスチナの闘いと世界史的役割を、これからも生き生きと報道し続けることをもって、不当な編集長逮捕に屈せず、反撃するジャーナリズムの一翼を担っていくだろう。
トランプが米大使館のエルサレム移転を強行した5月14日は、70年前、イスラエルの一方的独立宣言に端を発する「ナクバ」を再起させた。ガザ、ヨルダン川西岸、イスラエル入植地で、70年前を知らないパレスチナの若者たちが、イスラエル軍と対峙し、多数の死傷者を出しながら、抗議行動を今も続けている。そして、彼らの姿は2010年チュニジアに始まり、エジプトムバラク政権を打倒した「アラブの春」で中東各国の街頭を埋め尽くした若者たちにつながっている。
つまり、イスラエルの建国が引き起こした英国委任統治下にあった、パレスチナにおける多数のパレスチナ人虐殺、追放は、中東全域で帝国主義列強が交渉によって国境線を引き、多くのアラブ人民を擬制国家へ引き裂いた事実と対をなすものである。そうした帝国主義支配の結果の総体を鋭く批判する闘いが、いまだ確固たる主体を持つには至っていないものの、着実に動き始めている。
告発されたパレスチナ民族浄化イスラエルから離反するユダヤ人
その闘いは、イスラエル国家をも、その内部から撃つ動きとも連動しつつある。1948年のイスラエル建国が、その準備段階から「民族浄化」を明確に意図して進められてきたという歴史的事実が、公開された外交文書研究を通じて、イスラエル国内の研究者からも告発され、大きな波紋を引き起こしているからだ。
「ナチス国家による民族浄化からユダヤ人を救済する」という大義の下に進められたイスラエル建国が、同質の原罪を身にまとっている事実をつきつけられ、多くのユダヤ人が、イスラエル国家から離反を始めている。ネタニヤフ政権は、ユダヤ教原理主義を動員し、強権支配をさらに強化することで、こうした国家の存在危機に対応を強めてきた。
「パレスチナの民族浄化」を告発したイラン・パペをはじめ、「新しい歴史家」と称されるユダヤ人研究者の多くが、イスラエル国内で暮らすことを断念し、海外に移住しており、矛盾は拡がっている。パレスチナ・イスラエル・中東各国の国民国家それぞれが、国家という枠組みそのものを改めて問い直さざるを得ない時代を迎えていると言える。
パレスチナ解放闘争は、そうした時代の中で、再び世界を変革していく中心へと再浮上しつつある。同様の視点に立つならば、イラク、シリア内戦を経て、もはや中東の今後を展望する上で無視できない存在として立ち現われて来たクルドの人々の闘いも注目に値するものだ。トルコ、シリア、イラク、イランにまたがり、国家を持たない彼らの闘いが、どのような主張や思想を生み出していくのか。
パレスチナの闘いとあわせて、人民新聞としても注視し、取材を続け、発信していきたいと考えている。