国土交通省や総務省などの中央省庁が、義務付けられた障がい者の雇用割合を42年間にわたり水増しし、定められた目標を大幅に下回る実態を隠していた。障がいの程度が比較的軽く手帳を交付されていない職員などを合算する方法で誤魔化しが行われていたという。
中央省庁は、誰もが対等に安心して働ける共生社会の実現を目指す「旗振り役」でなければならない存在。障がい者雇用のお手本となって社会的バリアを取り除き、民間企業を指導する権限と責任を持っている。にもかかわらず同様の水増しは自治体でも発覚するなど、問題は拡大し、不正が組織的に行われていたことも明らかになりつつある。
こうした報道を受けて障がい者団体や障がい者雇用に積極的に取り組む企業からは、怒りの声が相次いでいる。「障害者の自立と政治参加をすすめるネットワーク」(代表=傳田ひろみ・さいたま市議)のメンバーらは、「今の政府・省庁には、障がい者とともに働く経験もノウハウもない」として、厚生労働省に徹底調査と障がい者雇用促進などを求める抗議・要請文を提出。「DPI日本会議」も、実効ある再発防止策のため、障がい当事者と弁護士を含む第三者委員会の設置を求める要望書を提出した(8月24日)。
加藤勝信厚労相は記者会見で、「今年中に法定雇用率に満たない人数を雇用するよう努力してもらう」と述べたが、同ネットワーク事務局の古庄和秀さん(大牟田市議会議員)は、「共に働く経験もノウハウもない省庁が、一気に多数の障がい者を採用したところで、採用された障がい当事者も職場のなかまも混乱するだけ。即座に撤回すべきだ」と語っている。
政府は不祥事鎮静化のために、形式的に障がい者採用に取り組むだろうが、その前に雇用環境を整え、ノウハウを積み上げることが先決だとの提言だ。
また、「DPI日本会議」副議長・尾上浩二氏は、「40年にわたって障がい者の雇用権利を大きく損ねてきたという反省の声が、全く聞こえてこないことが、事態の深刻さを物語っている」としたうえで、「役所の身内だけでやっていたのでは、実効性のある再発防止策にならないことは明らか」と指摘。「障がい当事者と弁護士を含む第三者委員会を設置することが重要だ」と提言している。
「私たち抜きに私たちのことを決めるな」という当事者主義の原則は、障がい者権利条約の基本理念であり、日本政府も同意し、進めてきたからだ。
法令遵守より未来を見据えた制度改革を
同氏は「必要以上に法令遵守に固執し、雇用対象者を厳格に手帳保持者に限定するのではなく、障がい者権利条約に基づいた社会モデルの観点から拡大の方向で見直すべきとしている。例えば難病患者は、日常生活は普通に送れているように見えても、疲れやすかったり、気温による変調などといった波のある症状が出る人もいる。症状に波があったり断続がある場合、手帳交付の対象にはなっていない。
長時間労働や体調に合わせて休みが取りにくいという日本の労働慣行のなかでは、難病患者で、定期的に入院治療が必要になる場合、仕事を継続しづらくなる。症状は断続的でも、社会生活上の制限・不利益は継続しているのである。「社会的な雇用環境や制度が整っていない結果として雇用されにくい人たちも、障がい者雇用の対象にすべきだ」との提言は重い。
社会モデルに転換すれば、対象者は増える。日本の法定雇用率は、2・2%(民間)だが、社会モデルを採用するドイツやフランスでは、5~6%に設定されている。これら諸国に倣って雇用拡大を進めるべきである。「法令遵守」に固執するのではなく、未来を見据えて障がい者権利条約に対応した制度のあり方を当事者とともに模索すべきだ。