尖閣諸島(釣魚群島、釣魚台列嶼)を当時の石原都知事が東京都で買うと言い、それにビビった野田首相が、中国側の「毛・周・田中」路線にそってそっとしておこうという暗示が読めずに、国のカネで買って国有化、問題を大きくしたことはまだ記憶に新しい。
こういう商品売買のような形で領土や政策を民営化するのは米国の十八番で、石原や野田のように姑息に公金を使わず、堂々と民間人がカネを出す。トランプが、そんな権限もないのに、エルサレムをイスラエル首都と宣言し、米大使館をエルサレムに移転すると宣言したことで、パレスチナ現地は言うまでもなく、世界中で物議を醸しだした。
この移転に伴う費用は10億ドル、それをシェルドン・アデルソンという人物が寄付すると申し出た。
アデルソンはラスベガスのカジノ王、不動産開発業者で、イスラエルのネタニヤフ首相に融資する保守タカ派経済人で、イスラエルの日刊新聞『イスラエル・ハヨム』の発行者だ。
そもそも米大使館のエルサレム移転は、95年に議会通過、クリントン大統領が署名している。ただし、これは親イスラエル派の圧力に見せかけで迎合しただけ、と当時解釈された。その法律の中に、大統領が国益に反すると判断した場合は法履行を取りやめることができ、その判断を半年ごとに行う、という例外規定を設けた。歴代大統領は常に履行放棄(ウェーバー)に署名してきた。トランプでそれが止まったのだ。
しかも移転を前倒し、今年の5月14日に行うという。5月14日は、イスラエルから見れば「建国宣言の日」で、パレスチナ人にとっては民族浄化された「ナクバ(破局)の日」だ。今年はちょうど70周年記念年にあたる。実に悪質な意味を含んだ好戦的「前倒し」だ。
「世紀の取引」はアパルトヘイト化イ・米は世界中の抗議の声を聞け
ご承知のように、国連決議とオスロ合意、中東カルテット(パレスチナ問題にかんする和平プロセスを仲介するアメリカ合衆国、ロシア、欧州連合、国際連合の4者)、アラブ連盟和平案などの、実際には実現不可能な「二国解決案」が国際世論で、そこでは東エルサレムが未来のパレスチナ国首都という前提がある。公式には米国もその方針だが、実際行為としては、大イスラエル主義を支援してきた。
トランプはこれまでの米国の欺瞞と偽善をかなぐり捨て、娘婿のシオニスト、クシュナー補佐官に従って、「二国解決にこだわらない」と明言した。
大イスラエル主義は、1948年戦争が西岸地区を領土化しなかったことを悔やんでいたイスラエルが、1967年戦争で占領して事実上の「イスラエルの地」としたものだ。パレスチナ全土を「イスラエルの地」として、非ユダヤ人人口を駆逐して、純粋ユダヤ人国にしようとするアナクロニズムである。
1979年に、当時の首相ベギンが「統一エルサレムは永遠にイスラエルの首都とする」と宣言している。しかも既成事実作りとして、1967年以降、イスラエルはエルサレムのパレスチナ人家屋を5000戸以上解体している。
トランプのエルサレム論は、国連と国際世論の「二国案解決」の否定である。トランプは、「世紀の取引」と称する和平プロセスをやると言っている。
無茶が通って道理が引っ込む
暴力的な民族浄化ができない現在、「世紀の取引」とはアパルトヘイト化だろう。それなら非ユダヤ人国民を排除する大イスラエル主義と矛盾しない。現にトランプも「パレスチナ人が自分の住んでいるところを国と呼ぶのは自由である」とも言っている。
米クシュナーらの具体的提案は、西岸地区の10%をイスラエル領として接収、その代わりイスラエル内のパレスチナ人居住地区アシュドッドとハイファの一部をパレスチナに「使用」させる、西岸地区とガザとの交通にイスラエル領内の通過を認める、治安維持はイスラエルの管轄、非武装だが警察力は許可する、というもの。国際条約や国際規定で認められているパレスチナ難民帰還権は完全無視。エルサレムの地位と難民問題とパレスチナ人人権問題を除去した「世紀の取引」なのである。そんなものが「和平プロセス」になるはずがない。PLO難民担当官マゼン・アブ・ザイドは、「パレスチナの大義の解体」と激怒している。
アパルトヘイトに対する民衆の抵抗と国際社会の民衆レベルの支援・連帯活動は続き、大きくなっている。日本でもBDS(イスラエルボイコット)運動が大企業ホンダを追い詰めた。しかもPA(パレスチナ自治政府)やPLO(パレスチナ解放機構)への懐柔政策のボロが出てしまった。米も国際社会もなすすべがない状態だ。無茶が通って道理が引っ込むことはない。イスラエルと米はこの教訓を学ぼうとしないが、学ばないとますます混乱に陥るだろう。同じことは安倍政権にも言えるぞ。