被ばくに「健康被害ゼロ」はありえない学術会議の主張は全住民の虐殺を招く

3.11子どもの健康被害を全否定した日本学術会議を批判する:最終回市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺 悦司

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 昨年9月1日、日本の科学者の代表機関とされる日本学術会議が、「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」と題する報告書を発表した。原発再稼働と被害隠ぺいにひた走る国の意向を受けて、「福島原発事故による子どもの健康被害は一切ない」と断定した許されないものだ。そこで渡辺さんに昨秋に批判連載をしてもらった。一回目は「学術会議は発足以来一貫して原発推進であり、福島原発事故への自らの責任も一切言及しない。そして今やただのデマ集団に堕落したといえる」と痛烈に批判。二回目は、報告書は被ばくは防護の必要があるという観点が全く欠けており、遺伝的影響もあるのだと指摘。

 最終回の今回は、国や報告書が言うようにこのまま年間20mSvの被ばくを強いれば、福島周辺と周辺住民だけでなく、日本の全住民が死滅しかねないと警鐘を鳴らした。国は復興省「原子力タスクフォース」とともに全力被ばく受忍政策を広げており、強く批判する必要がある。(編集部)

国際見解を自らに都合よく捻じ曲げ

 学術会議報告は、放射能被ばくはわずかでも健康被害をもたらすというLNT(しきい値なし直線モデル)を「見直す」、すなわち否定する方向を明確に打ち出している。だがUNSCEAR2006年報告書は、「生物学的機構のより良い理解が不可欠である。とくに、極めて低い線量におけるリスク上昇を疫学的方法によって検出できないことは、がんリスクが上昇していないことを意味しているのではない」と警告している。

 また「DNA修復の研究および放射線腫瘍形成の細胞・分子的過程は、腫瘍の誘発一般に対して低線量しきい値があるであろうと仮定する有効な理由を提供しない」としている。ICRPも同じく「約100mSvを下回る線量では、ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん・遺伝性影響の確率の増加を生じるであろうと仮定する」のが「科学的に蓋然性がある」としている。

 さらに、「直線しきい値なし(LNT)モデルが、放射線被ばくのリスクを管理する最も良い実用的なアプローチであり、『予防原則』にふさわしい」と規定している。

 学術会議報告が「科学的妥当性の検証を行わなければならない」としているLNTは、同報告が「科学的基準」とする国際機関においては「科学的に妥当」「予防原則にふさわしい」と認められているのである。

 この点でも、学術会議報告は、自分にとって都合の悪い、国際機関の見解には沈黙し、それに真っ向から違反する見解を、あたかも国際機関が主張しているかのような振りをしている。不誠実で欺瞞的な本質は明らかである。

 現実には、このLNTモデルでさえも、極低線量の放射線リスクの大きな過小評価である。直線ではなく極低線量から大きく上方に膨れたカーブ、あるいは2回上昇型のカーブとなる可能性が高い。だがこの点もここでは置いておこう。

集団線量とICRPリスクモを無視

 LNTの問題にはもう一つの側面がある。LNTに従って、特定の人々が集団として被曝した場合のリスクは「集団線量」あるいは「集団実効線量」としてモデル化されている。これら国際機関の被曝リスクモデルは、広島・長崎の原爆被爆者の寿命調査に基づいて推計され、その後の各種の疫学研究に従って補正されている。これらは、大まかで、不確実性が大きく、しかも極めて過小評価であるが、しかし被曝リスクが「ゼロではない」ことを明確に示している。

 学術会議報告が「科学的根拠」とするUNSCEARもICRPもすべて、このリスクモデルを採用している。学術会議報告の著者集団に2名を送り込んでいる政府の放射線医学総合研究所でさえも、同研究所編『低線量放射線と健康影響』(最新版は2012年刊)においてこのモデルを認めている(上表)。

 放医研の同書によれば、UNSCEARの2つの報告書が推計している10万人が100mGy(100mSvとほぼ同じ)被曝した場合のがん死リスク(白血病および固形がん)の最小・最大値は、462~1460人(生涯期間すなわち成人50年間、子ども70年間に生じる過剰死)である。つまり、特定の人口集団が放射線に被曝した場合、どの国際機関のモデルによっても、決して被害が「ゼロではない」ことを放医研は公然と認めているのである。

 学術会議報告は、この集団線量と被曝リスクモデルを無視することによって、自分が「科学的根拠」とするUNSCEARやICRPだけでなく放医研自身の著作さえも裏切っているのである。

年間20mSvで被ばくを拡散すれば日本の全住民が死滅しかねない

 たとえ政府の言う「100mSvしきい値論」に立つとしても、避難者10万人が年間20mSv地域に帰還して5年間居住すれば、放医研作成の表の「10万人が100mGy(mSv)被曝した場合」に相当することになる。上記のUNSCEARのモデルによれば、その場合、5年間の被曝により、帰還者のうちがんで亡くなる人が(生涯期間で)およそ460~1500人増えるということになる。20年経てばその4倍の1800~5800人、50年で10倍の4600~1万5000人が過剰死する想定になる。

 子どもの放射線感受性は、学術会議報告自身が最大で3倍と認めているが(これも過小評価であり10~15倍と考えるべきだが)、リスクも上記の3倍と考えなければならない。

 大まかな計算だが、帰還する子どもの数を(福島県全体の平均と同じとして)約1・9万人とすると、5年間の被曝で約260~830人、20年間で約1000~3300人、70年(子どもの生涯期間)で約3600~1万2人ほどの子どもたちが過剰に亡くなる(最大で帰還した子どもの3分の2が亡くなる)という想定になる。

 これらは、UNSCEARやICRPモデルを熟知している学術会議の「専門家」には周知のことであろう。すなわち、彼らの言動は、「知ってやっている」のであり、「意図的」であり、その結果に対する責任関係では「過失致死」ではなく「殺人」である。現に生じている事態は、放射線被曝による住民の「大量殺人」とくに子どもたちの集中的な「大量殺人」を意味している。

 これらのリスクは、実際は大きな過小評価である。ECRRによれば、上記の数字は20倍されなければならない(2010勧告179ページ)。またUNSCEARやICRPなどが無視している「がん以外」の疾患による被害も加えなければならない。これをがん死とほぼ同じと仮定しても、年間20mSvという高汚染地域に住民を帰還させて長期に居住させれば、その全員が20数年を待たずして全員死滅するという、「皆殺し(ジェノサイド)」に等しい状況が生じる可能性が示唆されている。

 もし、学術会議の意図通り、日本の人口全体について現行年間1mSvではなく年間20mSvの基準が適応され、今後の原発再稼働によって全国各地で重大事故が相次ぎ、広島原爆5発分の長期的「死の灰」を含む残土やガレキが全国的規模で再拡散され、学術会議の想定が実現されると仮定するなら、日本に住む1億2500万人の全住民の「ジェノサイド」が予想されるのだ。

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