【時評短評 私の直言】学術の軍事研究動員と、「無償化」による政治動員

大学の自治を掘り崩す政策を見抜こう 阪南大学経済学部准教授 下地真樹

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●学術への軍事研究そのものは停まっていない

 少し旧聞に属する話かもしれないが、一昨年話題になっていた軍学共同研究の問題とその後について紹介し、簡単に注意を喚起しておきたい。

 この問題は、防衛装備庁が「安全保障技術研究推進制度」を創設、2015年度から予算が付けられて徐々に規模を拡大していったことに端を発する。「なし崩し的に大学が軍事研究に巻き込まれていくのではないか」との危機感が拡がり、反対運動に発展した。これがおおよその経緯だ。

 当時、鍵を握っていたのは日本学術会議だった。日本学術会議は、それまで「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」との指針を持っていたが、その指針の見直しも含めて新たな声明の検討がスタートしたからだ。仮に、日本学術会議がそれまでの路線を否定し、軍事研究を容認する声明を出していれば、深刻な事態を招いていただろう。

 しかし、さまざまな立場の人々の働きかけも功を奏し、2017年3月24日に公表された新たな声明は、過去の声明を踏襲し、軍事研究に対して(きわめて強い意味で)慎重な態度を表明することとなった。

 その結果、2017年度の同制度に対する大学からの応募は22件にとどまり(前年度23件)、採択はゼロとなった。学界内の自制的な運動も強かったとはいえ、近年では市民運動の働きかけが実を結んだ数少ないケースの一つであり、もっと注目されてよいように思う。

 で、その後だ。再び2017年度の採択実績を見るならば、公的研究機関および企業からの応募は大幅に増加している。また、採択されたものの中には「分担研究機関」として大学が加わっているケースが5つあり、しかも、これらの大学名は公表されていない。一種の抜け穴が存在している。学術を軍事研究に動員しようという動きそのものが停まったわけではないことに注意しなければならない。

●大学無償化は政権の意図に従うことを条件に選別

 さらに視野を広げ、「学術研究に対する政治権力の支配介入」という観点でも見てみよう。近年、若者・学生の貧困が問題視されるようになる中で、にわかに「高等教育の無償化」という論点がクローズアップされてきた。大事な論点ではあり、賛成したくなるのだが、その中身には注意が必要だ。

 現在検討されている案では、大学を「無償化対象校」と「対象外校」に選別する枠組みを含んでいる。要するに、この選別の基準の中に政権の意図が盛り込まれれば、無償化対象校を目指さねばならない大学は逆らえない。  結果として、個々の大学はこの基準を通じて政策的に誘導されていく危険性が高まる。ひいては、このような構造が強化されていけば、大学が権力の適切な批判者たることは困難になっていくだろう。大学自治の破壊である(現状を前提に言うならば、せいぜい大学設置基準を使えばよく、それを超える政策誘導的な基準を持ち込むべきではない)。

 軍学共同研究の問題では、いくつもの大学が、学術会議と歩調を合わせて「軍学共同研究に応募しない」旨を表明した。しかし、今後さらに大学の自治が破壊されていくならば(既にかなり破壊されてきているのだが)、こうした表明自体が難しい状況になっていくだろう。大学の自治を掘り崩していくようなさまざまな政策の陥穽を見抜き、警戒を強めていく必要がある。

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