ジンバブエ ムガベ退陣をめぐって 留学生 ランガリライ・ムチェトゥさんに聞く (最終回) 

ジンバブエ政治に訪れた新たな時代の幕開け

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ムガベ大統領の退陣をめぐるインタビューの最終回。テーマは、(1)今回の政変に対するジンバブエ国民の反応はどうだったか、(2)諸外国とりわけ中国の影響はあったのか、さらに(3)ムナンガグワ新政権の今後はどうなるのか――。日本に留学中のランガリライ・ムチェトゥさんにお話を伺った。聞き手・山口協(地域・アソシエーション研究所)

ランガリライ・ガヴィン・ムチェトゥさん  1987年、ジンバブエ、マショナランド・ウェストのチノイ生まれ。現在、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程に在学中。協同組合を軸にした農業と農村開発の研究がテーマ。

国民は概ね軍の行動を支持政権与党への支持は揺るがず

◆一般の国民は今回の政変をどう見ていましたか。どのような不安感、あるいは期待感がありましたか。左翼や社会活動家たちの態度も教えてください。
◆ムチェトゥ 一般の国民の反応は様々です。メディアが国民の反応を伝える場合、都市部の状況だけを見て、国民全体の態度と捉えがちです。ジンバブエの人口の70%が農村部に住んでおり、政権与党ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU-PF)の拠点が農村部であることを忘れているようです。

 とはいえ、実は農村部でも、とくに南部から東部にかけての農村地帯、ヌデベレ人、カランガ人、マニカ人の居住地域では、ムガベの評判がたいへん悪化していました。その他の地域でも、ムガベ個人ではなく政権与党への支持があるおかげで、結果として党代表のムガベが支持されているというありさまでした。

 夫人のグレースが、解放闘争の古参兵士や党幹部を公の場で嘲笑したり、閣僚や副大統領が次々と解任されていく状況から、国民の目にも政権与党内の分裂が明らかになり、内戦への発展も危惧され始めました。それが、都市部でも農村部でも、一般国民が抱いていた不安でした。

 とはいえ、政権与党は土地改革の過程で、内外の反対を押し切って農民に土地を与えました。だから、農民の土地所有が続く限り農民は政権与党を支持し続けます。それが、たとえ評判を落とした94歳の老大統領の再選になったとしても、です。

 今回の政変が起きる前、国民は12月に行われる政権与党の大会でムガベがグレース夫人を副党首に指名すると見ていました。それは次期大統領への布石であり、古参幹部の排除はその道を拓くためだとの見方が、国民の中に芽生えていました。しかし、あの政変のなかで何が起きていたのか、国民も著名な海外メディアも、本当にはわかっていなかったのです。

 国民はおおむね軍の行動を支持しました。野党ですら、このクーデターならぬクーデターを支持しました。政治やイデオロギーがどうであれ、社会運動団体も活動家も、軍が表現の自由を守るように見えたため、軍の介入を支持しました。ジンバブエで左翼の中核といえば、かつての解放闘争を担った「解放戦争退役軍人協会」ですが、彼らは反ムガベ市民デモの前衛にいました。

新大統領は対外開放を推進欧米との関係改善は未知数

◆ムガベ退陣をめぐって、マスメディアでは外国との関係、とくに中国の影響が指摘されていました。
◆ムチェトゥ その意見には同意できません。というのも、対外関係の面では、新大統領となったエマーソン・ムナンガグワの方が強い力を持っていたからです。彼は、ジンバブエから脱出した後に南アフリカへ行きました。南アからさらに中国へ行ったとの情報もあります。また、彼が軍の介入を匂わせる演説をしたのは、中国への公式訪問から帰国した翌日でした。

 政権を握ったムナンガグワは、今や「栄光ある孤立政策」の時代は終わり、ジンバブエは外国に対して経済を開放する、と宣言しました。ジンバブエが経済的に開かれた国だというメッセージを熱心に国際社会に発信しています。

 最近は南アを訪問し、同国で活動しているジンバブエの経済人と会見したのも、彼の経済開放政策の表れでしょう。その上、国際空港の改修などのために2億1300万ドル規模の借款契約も行いました。これは新大統領の外向的な姿勢を表しています。

 ただ、彼の対外政策がどれほど開かれたものになるかは未知数です。主として周辺諸国や中国などに限った関係拡大なのか、それとも欧米諸国も含めて彼の新政策に参加するのか、まだわかりません。

新政権は民主化を約束するも解決すべき課題は山積

◆新政権の発足は旧体制からの脱皮と新たな民主政治の始まりを意味するのでしょうか。それとも単なる統治権の移行にすぎないのでしょうか。
◆ムチェトゥ ジンバブエの政治にとって新たな時代が始まったのは確かです。ムナンガグワの登場は、多くのジンバブエに新たな希望をもたらしました。新大統領の就任演説と一般教書演説からすると、新政権は民主主義への真の転換を始めると約束しており、必ずしも新旧指導者の交代にとどまらないと思われます。政権与党は二派に分裂し、一方は旧政権に、他方は新政権につながっています。

 私は、大多数のジンバブエ国民の目から見ても、旧政権は日に日に民主主義を失っていったと思っています(民主主義の定義はいろいろありますが)。私見では、体制の根本は変わっていませんが、新政権は国民に大きな変革を約束しました。

 一般に指導部の交代は、これまでの考え方の枠内で組織の方向性を転換するという点では十分すぎるものです。私は協同組合運動の研究の中で、そうした事例をたくさん見てきました。政権与党の政治の方向転換、とくにグレース夫人やその黒幕であるモヨ高等教育相の舵取りによる方向転換にうんざりし、野党に転身した人たちは少なくありません。その上、高齢で職務遂行能力が低下したムガベを終身大統領にしようというのですから。グレース夫人などが、とりわけ独立の達成や独立後の土地改革に大きな役割を果たした「解放戦争退役軍人協会」に対して攻撃を加えるに伴い、農村地域や土地改革による再定住地域といった政権与党の支持基盤は次第に縮小していきました。

 だから、今回の政変は、新たな民主的政権を導入するためというよりも、それ以上に政権与党の政治を転換するものだったと言えます。ムナンガグワがしたことは、党内の粛正、すなわち党を内側から崩壊させようとしていた幹部を取り除くことだった、というのが私の見方です。

 今のところ、政権与党は前よりも強くなり、多少は民主的になっています。ただ、新たな政府が国を一つにまとめ、選挙改革を実現し、「グクラフンディ大虐殺」(※)を解決し、経済復興の路線を確定できるか、課題は残されたままです。いずれもムナンガグワ政権にとって重要な問題です。今年8月の大統領選挙までに、これらの3分の1も解決できないことは、ほぼ間違いないでしょう。(おわり)

(※)独立後80年代、ムガベ直属の第5旅団がマタベレランド州などで反体制派と見なされた少数民族ヌデベレ人を弾圧した事件。死者は約2万人との推定もある。当時、国家安全担当相だったムナンガグワの関与が指摘されている。

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