【イスラエルに暮らして】軍法裁判にかけられる パレスチナのガンジー

起訴されると99・74%が有罪となる イスラエル在住 ガリコ美恵子

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 パレスチナのガンジーと呼ばれるイッサ・アムロの5回目の裁判が、12月26日オフェル軍刑務所で行われた。イッサは18件のケースでイスラエル軍から起訴されているが、この日は2件の罪状に関し、警察官や兵士による証言が行われた。

 なお、18件とも、いったん閉じられたファイルである。へブロンでイスラエル軍に撃たれて倒れていたパレスチナ人の男の子をなおも近距離で射殺した時の動画を、イッサが公開したため、閉じられていたファイルが開かれた裁判である。(本紙1627号参照)

 イッサの顧問弁護士は、イスラエル人の人権弁護士として有名なガビ・ラスキー女史。

2つのファイルの傍聴内容

 罪状1―2013年、フランスのTV局を案内していた際、兵士がIDを確認後、返却しなかったことで、イッサが英語で「僕は馬鹿じゃない。IDを返してくれ」と言ったが、兵士は英語ができなかったので「君は馬鹿だ」と言われたと思い込み、拘留に至った。この時イッサは、数時間目隠しで無理な姿勢で縛られていたため卒倒し、救急車で運ばれた。後に警察署でイッサに罪はないとされ、ファイルは閉じられた。

 罪状2―2016年、シュワダ通りで、オバマ政権に対する抗議行動に参加した際、鎮圧にきた警察官が、イッサに叩かれた、と主張。証拠とされる動画で、それがイッサであると確認できないため、ファイルは閉じられた。

判決が出るまで何度も法廷に通う

 弁護士は証人たちに対し、幾つか質問をしたが、どの証人も答えに困ると「覚えていない」と繰り返した。次の裁判は2月20日となり、弁護士によると、あと最低2回は裁判が繰り返されるだろうとのこと。

 イスラエルの場合、現行犯または現行犯の疑いがないと、起訴されても留置されない。しかし、起訴されると、ほとんどの場合が有罪判決になる。軍裁判所で有罪判決が出されるのは、ハ・アーレツ新聞によると99・74%とされている。

 西岸地区に住むパレスチナ人の裁判は、軍法に従い、軍刑務所の裁判所で裁かれる。イッサの裁判は10時に開始されたが、この日、自宅を6時半に出たという。ヨルダン川西岸地区ラマーラ近郊にあるオフェル軍刑務所へ行くには、バスやタクシーを何度も乗り継がねばならない。

 差別と弾圧にまみれた所内の実態

 持って入れるのは金、タバコ、ノート、ペンのみ。鞄、財布、携帯電話、飲食物、カメラ、ティッシュは一切禁止されている。入り口にコインロッカーがあり、5シェーケル(約150円)入れて荷物を預けねばならないが、その金は戻ってこない。

 窓口で入場許可有無の確認があり、身分証明書は帰るまで保管される。プレハブでできた検査小屋の鉄扉が開くと、靴を脱いで金属探知機をくぐらされる。その後、男女別に個室に入り、ブラジャーの中まで探知機で検査される。検査員はシャバク(秘密警察)だ。

 靴を履き、金網に囲まれた狭い通路を歩くと、また門がある。こちらからは中が見えないガラス越しに監視員が門横の小屋から監視しているのだ。中に入ると鉄柵で囲まれた屋根のない待合室で、暗い面持ちをしたパレスチナ人の老若男女が座っている。トイレはそこにしかない。

 裁判は何時になるかわからないのだが、飲食物の持ち込みが禁止されているので、腹が減ればそこにあるプレハブの食堂で買うしかない。しかし、イスラエルの値段だ。西岸地区では1、2シェーケルのアラビックコーヒーが5シェーケル、小さなサンドイッチが10シェーケルもする。あまりの高値にほとんどの人が何も買わないし、メニューはアラビア語表記のみだ。

 裁判傍聴に身内人は2人しか入れてもらえない。「xx」と柵の向こうから被告者の名前が呼ばれると、回転扉の前に走り寄る。「自分はxxの母だ」など、身分を伝えると、回転扉のドアがカチッと音を立てて開く。それまで、人々は延々と待つ。

 軍のスポークスマンが『軍法に従い我々は公平な裁判を行うよう心がけている』と英語で書かれた小冊子を手渡す。裁判はヘブライ語で行われ、アラビア語のできる兵士が通訳を担当するが、上手な兵士と下手な兵士がいる。上手な通訳者でも、テンポが速ければ全てを訳しきれない。

 裁判室の中央に軍服の裁判官。パソコンで裁判内容をタイプする記録係の兵士、通訳兵士、軍検察官。凄い目で傍聴者を睨み続ける警察官3人が、被告人の隣に座る。

ある女性被告の裁判傍聴記

 イッサの裁判が終わった時、イスラエルの人権団体“マフソン・ウオッチ”のメンバーが、ある女性の裁判傍聴を勧めてくれた。

 傍聴席に母親と姉がいたが、イスは被告席から6mほど離れた壁側に3席用意されていただけだった。

 被告は、ビルゼイト大学に通うイスタブラック・タミミという名の21歳の女性だった。逮捕されてから9カ月が経過している。前回の裁判で懲役50カ月が判決されており、今回は再審だった。

 シャバクが彼女を逮捕した理由は、「ハマス員とネットで関係を持った」ためとしている。2015年、何かのきっかけでガザのハマス員とネットを通して交流するようになったという。弁護内容を要約する。

 「彼女はハマスに勧誘され、ハマスに協力する意思のある女性をリストアップし連絡先を渡してほしい、と頼まれた。彼女は協力せず、ハマスとの交流を止めた。チャットしていたのは1カ月間で、ネームリストも渡していない。実際に、彼女が関わったために起きた攻撃は存在しない」

 裁判官は、弁護士の発表を聞き入れた。彼女が協力したために何かが起きていれば、再審は認められていないはずだ。無罪判決が出されるのだ、と私は思った。しかし、減刑されただけだった。「24カ月の懲役及び6千シェーケルの保釈金を要求する。保釈金を払わない場合は、6カ月の懲役延長。保釈は条件つき。5年間は条件に従って生活すること」

 女兵士がすっと現れ、彼女に手錠をかけた。母親が膝に顔をうずめて泣き出した。裁判中ずっとニコニコしていた被告のイスタブラックが、ドアの向こうに消えていた。

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