【実録】公安警察取り調べ(1)

想定外の容疑=詐欺罪!? 編集長 山田洋一

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昨年11月21日、「ピンポーン」という来客を告げるチャイムで目が覚めた。枕元の時計を見ると、朝7時だ。はて? 宅配業者にしては早すぎる。NHKの契約強要もあり得ない。寝ぼけた頭で考えながら、インターホンで「はい」。「山田さんですよね」、「はい」、「兵庫県警でーす」。3秒くらい空白の時間が流れたと思う。自宅のガサイレは、13年ぶり。現住所に居を構えてからは1度もなかったので、「ガサイレ」という単語が浮かぶまでいささか時間がかかってしまった。長い間開けてなかった「引き出し」の奥から次々と関連単語が頭に浮かんできた。「ガサ対、人民新聞、赤軍、スマホで連絡…」。そして、「ついに園君がやられたか」というのが、最初の直感だった。園君は、昨年入社した東京の活動家で、関西へ引っ越してきてからも、梅田前での反安倍デモなど、派手に活動していたので、いずれ公安はちょっかいをかけてくるだろうとの予想はあったからだ。

 まったく無防備のところを狙われてしまったことは、深く自己批判せねばならないだろう。「救援で忙しくなるなぁ」と思ったかどうかは思い出せないが、この日以降、私と園君の役割は、大逆転した。

 この時点でガサ対策は無理だ。ガサの報せだけは入れておかねばと、T氏の携帯に電話。「起きててくれればいいが…」と焦る気持ちに答えるように「なんや」の応答。「ガサイレ、ガサイレ」「容疑は?」「わからん。とにかく連絡回しといて」で電話を切った。

 「ピンポーン、ピンポーン」と催促のチャイム。こうなったらジタバタのしようもない。ドアを開けることにした。「令状は?」、差し出された令状を見ると「詐欺」の文字が目に飛び込んできた。「はぁー?」が第一声だ。想定外の容疑である。「キャッシュカード」、「新生銀行」の文字を見て、ようやくストーリーが見えてきた。

逮捕状あるの?

 ガサイレは、総勢12名。前回は警視庁だったが、今回は兵庫県警。前回とパターンが違うので「逮捕状はあるのか?」と聞くと、「今は言えません」という。逮捕状まで用意しているということは、ひょっとして俺は、誰かの関連ではなく、主役? ムムム。この時23日という数字が浮かんだことだけは、付け加えておこう。

『黙秘する』と答えたじゃないか

 取り調べは、大きく3期に分かれた。第1期=様子見、第2期=対立期を経て、第3期=安定期と移行した。しかし、期間としては早々と安定期に入り、ノートを見ると、逮捕からちょうど1週間後の11月27日に「取り調べは安定期に入った」と書かれている。
 逮捕当日の取り調べは、形式的な人定質問、家族関係などが聞かれたのみ。早々に留置場に移された。留置場では、いきなり大騒動―懲罰房行きとなるのだが、これは後述。

 蛇足ながら、全ての質問に「黙秘します」と一々答えたにもかかわらず、担当の老刑事が調書に「黙して語らず」と書いたので、「ちょっと待て、俺はちゃんと『黙秘する』と答えたじゃないか」と軽く抗議した。刑事は、むっとした顔でこちらをにらみ返したが、すぐに定規を取り出し、二重線で数行抹消、訂正印を押した次第だ。この無用なこだわりは、次のような理由だ。私の中で「黙して語らず」は、ふてくされて、横を向いている容疑者の姿が浮かぶ。拗ねる子どものイメージだ。これは、幾分可愛さはあっても美しくないのである。

 後ろめたさも改悛の情もない私は、刑事の正面に座り、まっすぐ顔を向けて黙秘の意思をはっきりと示したつもりだった。それが伝わらなかったのか、長年の惰性で書いたのかはわからないが、前者なら意思を明示したかったということだろう。

型どおりの検察調べ

 翌22日は、検察調べだったが、これも型どおり。「黙秘します」と答えた後、検事から「黙秘する理由は?」との質問もあった。実は一瞬迷ったことを告白する。逮捕直後で身構えていた私は、「黙秘」の強い意志をはっきり示してやろうという背伸びがあったのかもしれない。今回の事件は、検察側からすれば赤軍がらみだ。検察は、「あわよくば…」というスケベ心を持っていても不思議ではない。(つづく)

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