暮らしの中にある信頼感をベースにした「世界マヌケ反乱」へ

次第に変化した「予定調和の反原発運動」からコッソリ逃亡!松本哉さん(高円寺「素人の乱」)インタビュー

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 「ルールが幅をきかせてメチャクチャが許されない…そんな予定調和の反原発運動を見て、「これ、俺は向いてないなと思うようになった」と語る、高円寺「素人の乱」の松本哉氏。3・11直後、1万人超の反原発デモを呼びかけた同氏は、その後の反原発運動に「日本社会に蔓延するヤバさを感じた」と語る。
 「統一の力」が叫ばれたり、あれはダメ、これもダメと排除の論理がまかりとおる。こんなイヤな空気を感じた松本哉氏は、「世界マヌケ反乱」を呼びかけている。台湾・香港・中国・韓国・マレーシアなどに巣くう地下文化圏のネットワークを広げて、世界反乱を準備しようという企てだ。最近では、親善大使の交換も始めた。来訪する親善大使には、宿と食事が提供され、仕事も手伝ってもらいながら情報交換と交流を進めるという。リサイクルショップ「素人の乱」でインタビューした。(文責・編集部)

自分たちの社会があれば生きていける

編集部:アジアの地下文化圏とのつながりが生まれたのは?
松本:台湾の環境系の団体が、素人の乱や日本の反原発運動について紹介してほしいという要請で、僕を呼んでくれたのがきっかけです。

 そのつながりで、「直走珈琲」(台北)というカフェを中心に集まる音楽系・アート系の人たちとのつながりができました。台湾でのつながりは、香港などの中華圏とのつながりにも発展します。自著が翻訳された韓国では、以前から交流がありましたので、似たもの同士の親近感で、つながっていきました。
編集部:共通項は?

 政治的に全く同じ方向性というわけではありません。アートスペースやカフェ、ライブスペースを運営していたり、インディーズのバンドだったりしますが、何でも自分たちでやってしまうというDIY感覚は共通しています。

 自由に生きたい、自分たちの力でやってしまうという人たちは、政府の規制や干渉を嫌います。根本的に反体制の人が多いし、かといって左翼やアナーキストばかりではありません。

 なかでも「マヌケ」さは重要です。ノリがよくバカなことを大真面目にやるというマヌケさがいいんです。

 交流を始めた2012年頃は、無理して月1回くらい継続的に韓国や台湾に行って飲んでいましたが、そのうち海外から来た「特別な人」が普通の人になって、互いに行き来するようになりました。

 ひたすら飲んで、友達になると、また会ってみたくなります。そうなると、国境を越えてカップルができたり、結婚して移住した仲間もいます。コミュニティ同士のつきあいとなっていきました。

 生活圏を共にするコミュニティがあれば生活しやすくなるし、原発事故や天災のような大事変が起こった時は助け合うこともできます。福島の人たちは、原発事故で地元に住めなくなった人も多くいます。何年もかけてコミュニティを創りあげても、一瞬で破壊されしまうことを思い知らされました。

 東京は、まだ住み続けられるのかもしれませんが、原発事故が巨大化していれば、高円寺のコミュニティもなくなっていた可能性は大いにあります。「移動もできる生活圏」を創っていくことが重要だと感じました。近くにいる人よりも遠くにいる同じ考えの人の方が信頼できる場合もあります。

アジア反戦から「No Limit」へ

 2015年、安倍政権の戦争法案反対運動が盛り上がっていた時に、東アジア同時行動として、「戦争反対」を共通テーマとした「アジア反戦大作戦」を呼びかけました。日本の戦争法に反対するというのではなく、各々の国が抱える戦争政策に反対するという同時行動で、4カ国(日・台・香港・韓国・マレーシア)・7地域がお互いを支持しあって同時にやろうという企画です。

 夜には、全ての参加地域をインターネットでつないで、宴会をしながら昼間の行動の発表会をして盛り上がりました。

 台湾の「直走珈琲」界隈の人たちは、総統府前の道路・公園一帯を全てデモ・集会場として申請し、ライブ・映画会は無論、巨大なスクリーンでゲームをやったり、カラオケ大会や宴会などバカなことをやりきりました。これを観た他地域は、「もっとおもしろいことをやってやろう」という競争心も働き、どんどんおもしろくなっています。

 2012年から始めた「飲み友達作戦」は、「東アジア マヌケサミット」などを経て、「アジア反戦大作戦」というひとつの成果を生み出しました。

 こうしたつながりを基礎に、2016年から「No Limit」というイベントを毎年開催しています。「アジア各地の地下文化圏の人たち、集まろう!」という呼びかけに応じて、第1回=東京には、海外から200人、日本の他地域からも集まって、1週間で50の企画という一大イベントとなりました。第2回はソウル、今年冬には、インドネシアで開催します。多国間の交流イベントです。

 海外参加者には、1日1食の食事を無料提供しました。大量のおにぎりを各地の配給所に用意する仕組みを作りました。百姓一揆みたいでいいでしょ?(笑)

 既存の国を相手に闘うことは大事ですが、「こちらの社会」を準備し創っておくことの方が重要です。自分たちのコミュニティができていないのに国を倒してどうするんだ?という話です。

日本の閉塞感を打ち破る海外からの視点が大事

 欧州などでは、簡単に国境を越えて行き来するのに対し、アジアは、半端なく高い国境が横たわっています。さらに、日本から見たら、東アジアの人々の感覚は、欧米の人たちよりも近いし、顔形も似ているからこそ、繋がりやすい要素は多いと思います。

 自由に生きたいけど、真面目にしないとすぐに社会から弾かれる、という共通の悩みもあります。

 一方で違いもあります。香港は、土地が狭くて家賃が高く、最近は規制も強くなっているのですが、さまざまな裏技を使って規制をかいくぐる技を駆使しています。ビルの隙間を勝手に使って自分たちのスペースを作っても黙認されるようなユルさも、一方であります。

 韓国は、自由にデモができる力を民衆がもっているし、中国は、言論統制が強調されていますが、一方で政府の悪口さえ言わなければ何をやっても許される大らかさがあります。著作権も適当ですし、騒音も許される、庶民の間でも「俺に迷惑がかからなければ、いいや」みたいなおおらかさもあります。厳しい監視社会である日本に比べたら、格段に自由じゃないかと思えます。

 日本は、住民の相互監視が厳しくて生きづらい社会だと思っていますが、海外の人たちから観ると、「家賃が上がらないのは羨ましい」と言われます。賃貸契約でも借家人の権利がかなり保障されて、簡単に家賃を値上げしたり、追い出しはできません。

 日本の閉塞感を打ち破るには、海外からの視点は、とても大事です。自分たちでは気づかない新しい作戦のヒントになりますし、これは向こうも同じです。これからも飲み続けて、極力いいかげんに反乱一揆の予行演習を続けます(笑)。

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