大逆事件を想起させる13人オウム処刑の衝撃
上川陽子法相の命令で、7月6日と26日、オウム真理教(2000年2月消滅)の教祖・麻原彰晃氏ら13人の死刑囚が絞首刑に処された。死刑廃止を日本政府に求める国連、欧州連合(EU)などからの要求を無視した蛮行だ。12人が処刑された大逆事件(1910年)を想起させる虐殺であり、安倍政権の人権感覚は近代以前に戻ったと言えよう。
麻原氏の処刑に関し、上川法相は東京地裁の判決文から、「教団の武装化により教団の勢力の拡大を図ろうとし、ついには救済の名の下に日本国を支配して自らその王となることを空想し」という記述を度々引用しているが、麻原氏が「日本の王」になろうとしていたという事実は本当にあったのか。
1997年に公安審査委員会はオウム真理教に対する破防法・解散指定の適用を棄却する決定をしたが、公安当局はオウムに対し、国家転覆を狙う政治団体であるという証明ができなかった。私は公安審査委の弁明手続きで麻原代表が選任した「立会人」(5人)の1人だった。
安倍政権は、オウムが天皇制を中核とする国体を否定したと妄想して、処刑を急いだのだろう。
昨年後半、米朝戦争の危機があった時、安倍首相は「どこかの田舎に北のミサイルが落下して数人が死んでくれると、憲法改正が進む」と周辺につぶやいていたという。世界中で米国への先制攻撃を待ち望んでいたのは安倍首相だけだった。祖父の元A級戦犯・岸信介元首相(東条内閣の商工相)が遂行した大東亜戦争(アジア太平洋戦争)を肯定する安倍氏は、非戦・平和の憲法をぶち壊し、日本を「いつでも米国と一緒に戦争をできる国」にしたいのだ。
偏見に満ちた人民新聞編集長判決報道
7月18日に人民新聞の山田洋一編集長に懲役1年・執行猶予2年の有罪を言い渡した神戸地裁第四刑事部の川上宏裁判長、市原志都・高嶋美穂両裁判官は、公安警察のでっち上げ逮捕、新聞社への襲撃を合法化してしまった。海外に住む友人の医療費のための金を友人の支援者に引き落としてもらうために、自分が管理する銀行のキャッシュカードを預けたことが「詐欺」になる、という判決だ。山田さんは23日に控訴した。
逮捕状にも、起訴状にも記述がないにもかかわらず、近畿の企業メディアは「1972年5月30日に起きたテルアビブ空港乱射事件で、実行役として唯一生き残った日本赤軍メンバー、岡本公三さんを支援する団体が入金」「日本赤軍に資金協力か」などと報じてきた。
地元の神戸新聞は19日、「逃亡犯支援の新聞社編集長」などの2段見出しで「カード詐欺で有罪 控訴へ」「逃亡犯支援の新聞社編集長」と報じた。『産経新聞』は「元日本赤軍メンバー支援でカード詐取『人民新聞』社長に有罪判決」という見出しを立てた。「日本赤軍」関係者の捜査を目的とした公安捜査を監視する姿勢はゼロだった。
警察発表だけを垂れ流す神戸新聞に問う
私は7月20日、神戸新聞の古竹誠治人事総務室総務担当部長に、(1)19日朝刊の見出しに「海外逃亡犯支援の新聞社編集長」とあるが、山田さんが逃亡を支援したという認定は起訴状にも判決にもないが、妥当か、(2)昨年11月には「日本赤軍に資金協力か」という見出しで山田さん逮捕を報じているが、日本赤軍は既に解散しており、山田さんはレバノンにいる友人の医療費を送っているだけで、「資金協力か」というのは誤報ではないか、(3)豊中市議の木村真さんは18日、神戸司法記者クラブでの会見で、「警察発表をそのまま書くのは、社会的に害毒ではないか」と指摘しているが、昨年11月以降の山田さんに関する記事は警察権力を監視する記事になっていると思うか、(4)報道界は、9年前の裁判員裁判制度の導入を機に、警察情報を報じる場合、情報源、情報入手ルートを明確にすると公約しているが、山田さんに関する記事のソースは明確になっているか―などを質問した。
古竹部長は7月24日、「お問い合わせの件について個別具体の回答は控えますが、ご指摘されたいずれの記事も当局の発表だけではなく、複数のソースへの取材に基づいており、見出しを含め事実誤認や誤解を与えうるような内容ではなかったと考えます」と回答した。
古竹氏のいう「複数のソース」は兵庫県警公安三課の面々だろう。海外のメディアでは、ソースを明らかにしない報道は原則として許されない。
古竹氏は、人民新聞が神戸新聞の同業他社であるということを考えもしないのだろう。
木村市議は神戸の記者クラブで、「権力を監視しない報道機関はいらない。警察の広報資料をそのまま記事にする記者はやめるべきだ」と言ったことがある。
神戸新聞は三宮駅前に豪華な社屋を持っている。山田さんが逃亡者を支援して有罪になったという捏造見出しを掲載しておきながら、「誤解を与えていない」と居直るような新聞社は消滅した方がいいと思う。
日本国憲法第76条で「良心に従い独立してその職務を行」うと規定されている裁判官が行政機関である検察庁の言い分だけを信用し、人民の知る権利のために権力を監視すべき記者たちが官憲のリーク情報を裏取りもせずに垂れ流している。人民は立ち上がってこの国の仕組みを変革するしかない。