中国の労働者の闘いの情報はなかなか入手できないが、国営企業で働くファン・シーガンという労働者が『生き残るためのスト ― 中国における工場移転に反対する労働者の闘い』という本を出した。その本について米国の労働運動紙『レイバー・ノーツ』が掲載した記事を抜粋して紹介する。
一年間に発生するスト数では中国が世界一だろう。たいていは計画性がない自然発生的ストで、混乱に陥ることが多い。経営者は国家権力や暴力団、警官の導入、嘘の約束などで収拾を図る一方、機械類を工場から密かに持ち出し、 賃金が安い地域への工場移転を図る。
ファン・シーガンは、「世界の工場」と言われる珠江デルタで起きた労働者の闘いを、2012~16年にかけて聞き取り調査して、本にまとめた。三つの争議で、一つは米国のウォルマートへ納入する家具を製造する工場、残る二つは日本のユニクロへ納入する衣服を作る工場である。どの場合も、経営者が低賃金地域へ工場移転することに反対するストライキ闘争だったが、ユニクロへ製品納入する工場では年金と住宅資金拠出をめぐる問題も絡んでいた。
しかし、工場移転問題が発生する前から、労働条件、賃金、処遇などに関する多くの問題があった。1日12時間労働で週6日勤務 、時には週7日勤務する場合もあった。工場の食堂の昼食は人間が食べるものとは思えないほどひどいものであるにもかかわらず、法外に高い食事費として天引きされた。加入する義務がある年金保険についても、全額労働者負担で、企業側負担ゼロ。工場内に監視カメラが取り付けられ、些細な規律違反にも罰金が科せられる。1日でも休むと解雇か罰金だ。
ユニクロ納入工場の労働者がストに入ったとき、労働者は警官と暴力団から暴行を受け、その上代表が逮捕された。「私たちは経営者と同じ立場に立つ政府を信じていない」と、スト労働者が語っている。
ウォルマートの工場ストは、会社が機械類を運び出すのを阻止する闘いから始まった。労働者が坐り込んで阻止闘争を続けていると、政府と経営者は「封鎖を解けば代表となら交渉してよい」と提案したので、労働者がそれに従うと経営者は代表を買収しようとした。買収に応じなかった代表は、6カ月の牢獄暮らしの憂き目にあった。労働者が封鎖を解いた途端に交渉もなく工場移転作業が進んだ。
労働者の結束が甘く、政府と経営者の分裂工作にまんまと乗せられた。結局涙金ほどの離職手当で労働者は沈黙してしまい、熱心に闘った指導者は地下へ潜らなければならなかった。きちんとした労働組合の組織的指導があれば、違った結果になっていたかもしれないが、中国の公認労働組合は政府の御用組合で、役に立たないことはスト労働者がよく知っている。
そんな状況で敗北が続く中でも、労働者は工場移転に反対するストを行い、その波は治まらない。なぜなら生き残るためには闘うしかないからだ。