ベネズエラ左翼政権の行方

米国の経済制裁が続くなか 対話路線と民主主義で現状打開をはかるチャベスモ スティーヴ・エルナー(ベネズエラの大学で経済史と政治学を教える研究者) 翻訳・脇浜義明(編集部)

LINEで送る
Pocket

 ラテン・アメリカの左翼政権が次々姿を消していく中、ベネズエラのマドゥ―ロ率いるチャベスモ(チャベス主義)は、地方選挙という民主主義的方法で乗り切った。マドゥーロを批判してきた民族統一会議(MUD)は選挙ボイコットを呼びかけたが、一部の穏健派が参加。マドゥ―ロ陣営は54%、アンリ・ファルコンやエンリケ・カプリレス陣営は45%を得票。一方、選挙ボイコット運動で有権者の54%が棄権した事実は残り、米国や近隣の右派政権諸国の介入が続く中、ベネズエラの不安定は続きそうだ。(『Zコミュニケーションズ・デーリー・コメンタリー』18年5/25より。)

 ベネズエラは4桁インフレ、下位・中間層の生活水準低下、石油産業の経営失敗による生産減など、厄介な問題を抱えており、マドゥーロはチャベスモ運動以外からの支持を取り付けるなど、政治資源を拡大する必要がある。緊急課題は二つ。汚職問題への対処と、政府設定の公的価格を市場価格に近付けることだ。

 ガソリン、ガス、地下鉄料金、電話料金はもともと無料に近い低価格で、かなりの無理がある。この低価格政策は、国民の分極化の中で、一部富裕層からの抵抗を招き、それを右翼野党が利用する。そのうえ、米国、ラテンアメリカ反動政権、EUの敵対姿勢が働いている。2017年トランプは、ベネズエラ国債の購入を禁止し、さらに米国内のベネズエラ石油企業の本国送金を禁止した。

 2月、右翼野党は、米の要請で政府との話し合いを打ち切り、選挙ボイコットを決めたが、社会キリスト教党(OPEI)と社会主義運動(MAS)は選挙参加した。これまでチャベスモ体制を完全否定してきた野党は分裂、今回の地方選に参加して4人の知事を当選させ、チャベスモ体制の憲政議会(ANC)で宣誓した。

 従ってベネズエラは二大陣営ではなく、三陣営―チャベスモ、右翼野党、指導者不在の中間派―に分かれている。中間派は反マドゥーロ国民のかなりの数から構成されている。

 チャベスモは、この中間派支持層に働きかける必要がある。そのためには、煽情的に反米スローガンを繰り返すだけでなく、経済制裁が国民生活に与えている具体的影響を説明しなければならない。

 経済制裁と同じように脅威なのは、オバマやトランプの大統領令であった。ベネズエラを「米国の安全保障にとって大敵」「麻薬王国」「マネー・ロンダリング国」と決めつけて、外国企業の投資引き揚げを奨励している。右翼野党もそれに同調している。

米国と右翼野党の狙いはネオリベラル経済への回帰

 もちろん米国の経済制裁だけでなく、チャベスモ政権の失政や汚職や国営精油企業トップ層の堕落も、国の混乱の原因である。

 右翼政党の狙いは、チャベスが行った改革を全部ご破算にして、ネオリベラル経済へ戻すことである。とりわけ重要経済の民営化禁止法を廃止したいのだ。その点では中間派も同じであるが、彼らは暴力的手段を否定するし、ベネズエラの問題はベネズエラ人の手で解決すべきだとして、米国などの介入を否定する。社会キリスト教の指導者は、米国の経済制裁は「民衆を苦しめるもの」として反発している。

 マドゥーロの「国民的対話」呼びかけは、5月選挙前からあった。地方選挙に中間派が参加したことで、対話への道が開かれた。しかし、中間派が主張するネオリベラル経済、大規模民営化、IMF路線、ドル建て経済は、チャベスモ路線とは水と油で、対話によって調整できる種類のものではない。一致できる点があるとすれば、統制物価システムを市場価格に近付けて、無茶苦茶なインフレに対処することだろう。

 国際的孤立、経済悪化、国民の不満という現実の中で、マドゥーロの選択肢は非常に限られている。しかし、対話路線と民主主義的過程に野党の一部中間派が乗ってきたことは、現状打開の出発点となるだろう。

LINEで送る
Pocket