おしゃれできる平和な日常を
役者揃いの舞台劇のようだ。イスラエルに封鎖されるガザで営まれる小さな美容室を訪れた13人の女性たち。その会話を通してガザの民衆の日常生活、不安、不満そして怒りが伝わってくる。
監督が語っているように、あえてイスラエル軍の暴虐を前面に描くことを避け、ガザの人びとの暮らしと人生を描く。そしてパレスチナ解放運動の混迷を浮き上らせている。
美容室の外ではハマス戦闘員の容赦ないマフィア掃討作戦が繰り広げられる。しかし相手がマフィアではなく、ファタハであってもおかしくないパレスチナの政治状況だ。彼女たちは語る「誰がハマスなんかに投票したのよ」「いつでも戦争するのは男たち」…私たちはおしゃれできる平和な日常が欲しい、と。それが率直なパレスチナ民衆の願いなのであろうことが、ひしひしと伝わってくる。
そのことを声高に語ることなく、ガザ生まれの双子のタルザン&アラブ・ナサール監督が描いて見せた。2015年第68回カンヌ国際映画祭に出品され話題を呼んだ映画だが、残念ながら3年経ったガザの事態はより悪化している。
しかしパレチナ民衆は堕落し内紛に明け暮れる指導部を乗り越え、この5月、イスラエルへの帰郷運動を大きな犠牲を払いながらも再起した。この民衆運動がパレスチナ解放運動の新たな萌芽となることを願ってやまない。
人民新聞7月5日号の「ガザもう一つの悲劇、PAやファタハの堕落」脇浜義明さんの視点の鋭さに敬服する。
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※ガザ、パレスチナ占領地域での民衆の抵抗運動を描いたハニ・アブ・アサド監督の秀作、2013年第66回カンヌ国際映画祭特別審査員賞を受けた『オマールの壁』と、2005年自爆テロに向かう2人の青年を通じパレスチナ問題の本質に迫る『パラダイス・ナウ』が今、ネット上で配信されている。 (松永)