本紙1640号~1642号で、ジンバブエ・ムガベ大統領の退陣をめぐるインタビューを3回にわたって紹介した。その後ジンバブエはどうなったのか、地元紙などを参考に、簡単にお伝えしたい。
「現地化政策」の改定
今年3月6日付『朝日新聞』も報じたように、これまで欧米諸国と対立し、外国企業の進出を制限してきたムガベ前政権から一転、ムナンガグワ新政権は、外国からの投資拡大を呼びかけ、世界3位の埋蔵量を誇るプラチナをはじめ、金やダイヤモンドなど鉱物資源の採掘を中心に直接投資が拡大している。
こうした新政権の姿勢については、すでに昨年11月24日の大統領就任式を受けて、地元紙『インディペンデント』が伝えていた。
「鄧小平を崇拝するムナンガグワは、投資や生産、事業環境の整備、そして論議の的である『現地化政策』などの問題に対処する経済改革を始める意向だ。新大統領はまた、政府内部の腐敗に対処しつつ、大規模な半官半民化と公務員改革を望んでいる。さらに、ジンバブエの孤立に終止符を打つべく国際社会に再び関わり、外国直接投資を誘致したいと考えている」
「現地化政策」とは、ムガベ政権期に制定された、国内の外資系企業に対して株式の過半数を「ジンバブエの黒人」に譲渡するよう義務付ける法律だ。新政権は早々に改定を実施した。
一方、ムナンガグワは今年3月11日付『ニューヨークタイムズ』への寄稿で、こう記している。生活必需品の不足、若者の雇用不足といった困難な経済状況から出発し、「繁栄と経済開放、若者の雇用、投資家の機会、民主主義と万人の平等な権利が保障された新生ジンバブエの建設に向けて努力している」。その軸となるのが「雇用創出に役立つ投資主導経済の回復」であり、政権発足から3カ月で「世界中から31億ドルの誓約を確保し、雇用と機会を創出しつつある」と。
経済開放が暴走する恐れも
ムナンガグワは、1月下旬に開かれたダボス会議に出席し、世界の企業家や政治家を相手に投資を呼びかけてもいる。
これについて、地元紙『デイリーニューズ』は「(大統領、)ジンバブエは売りものじゃない」と題し、「新政権の主な政治的機能はグローバル資本がジンバブエで繁栄できるようにすること、あるいはジンバブエと国民を一つの大市場として扱うことだ」と批判した。
「売りもの」となるのは、鉱業や製造にとどまらず、金融サービスや農業など広範囲に及ぶという。とくに道路、鉄道、航空といったインフラ開発には中国の影響力拡大が予想され、健康、教育、公共交通、エネルギー、水道などの公共サービスは「半官半民化」を通じて民間資本の手に委ねられる恐れがある、とのことだ。
今日、自力更生が困難なのは確かだが、かつての中国と同じく、いったん経済を開放した以上、その暴走に歯止めをかけるのは容易ではない。ジンバブエがグローバル企業の「草刈り場」となってしまう恐れは、残念ながら小さくない。
土地改革は「不可逆的」
ところで、ムガベ前政権のもう一つの「負の遺産」とされるのが、2000年に実施された土地改革である。白人農家の農地を強制収用したとして、欧米諸国の非難を浴びた。新政権が対外関係改善の意向を示したことから、かつての白人大地主らは、この点でも政策転換を期待していた。
しかし、ムナンガグワは2月10日に行われた政権与党の集会で、土地改革は「不可逆的」であり、収用済みの農地を返還する考えはない、と宣言した。
とはいえ、それに先立つ2月1日、ジンバブエ政府は、これまで5年更新だった白人農家への土地貸借期間を、黒人農家と同じく99年へ延長する決定を指示している(ジンバブエの農地は国有)。自らの政治基盤を危うくする土地改革の転換は行わないものの、対外的にも前政権とは異なる融和姿勢を示す必要に迫られたということだろう。
ジンバブエではこの7月にも総選挙が予定されている。民衆がどのような評価を下すのか、注目されるところである。