イスラエル 「過越し祭」の虐殺

直接行動は声を聞いてもらえない人々の言葉だ

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 ネーヴェ・ゴールドン(ベン=グリオン大学政治学教授) 『アル・ジャジーラ』2018・4・1翻訳・脇浜義明

<過ぎ越し祭り(すぎこしのまつり)>
ユダヤ教の三大祭りの一つで春祭り、ユダヤ民族のエジプトからの脱出を記念する行事

 

 3月30日の「土地の日」から始まった、パレスチナ人の大規模な非暴力帰郷デモ。封鎖塀から数百メートルのところで集会を行い、封鎖と70%にのぼる難民帰還権拒否に抗議した。

 イスラエルは千人の狙撃兵を配置、数十人を殺害、1400人以上を負傷させた。軍は「意図的にやった」と挑発したが、すぐにそれを抹消した。国連が調査委員会を提案すると米国が止めた。米とEUはパレスチナ人に「挑発行為をやめよ」「非暴力に徹せよ」と、イスラエルの明らかな戦争犯罪行為に目をつむり、パレスチナ人に非があるかのような発表をした。

 4月7日までに死者は31人に拡大、その中には「プレス」の表示をしていたジャーナリストも含まれる。パレスチナ人たちは5月15日の「ナクバの日」(イスラエルでは「建国記念日」)まで抗議を続けるとして、狙撃兵の銃口にもかかわらず、塀の側にキャンプを設営している。

 「土地の日」はちょうどユダヤ教の「過越し祭」にあたる。これはイスラエル人が隷属から解放され、エジプトを脱出したことを祝うユダヤ教の休日で、通常8日間(イスラエルでは7日間)続く。今回の虐殺はそうした中で開始された。ユダヤ教徒は、ガザ封鎖からの解放と、聖書物語にあるユダヤ人のエジプトからの解放を重ね合わせ、ガザ虐殺を容認している。

 

ユダヤ教徒のガザ虐殺の容認

 パレスチナの人々がデモを行っている時、イスラエルでは通常通り「過越し祭」が行われていた。それは「パレスチナ人が非暴力抵抗に徹しないから、軍の弾圧を招くのだ」という意識があるからだ。

 その論法は世界でもまかり通っている。植民地主義者と被植民地住民の間の圧倒的な力関係、世界の反植民地闘争の政治史を無視した論法である。

 それに、イスラエルの植民地プロジェクトが暴力によってパレスチナ社会を破壊・解体してきたのに対し、パレスチナ民衆はずっと非暴力で粘り強く抗議してきた事実を無視している。民衆には武器にアクセスする機会はないのだ。

 たぶん、パレスチナ人=テロリストというキャンペーンのせいだろう。アルジェリア、ベトナム、南アフリカなど、世界史に残る民族解放闘争の歴史を無視する論法である。1976年3月30日に土地を没収されたイスラエル内パレスチナ系国民が、ゼネストで抗議したのに対して、治安部隊が暴力弾圧、6人を殺害、100人以上を負傷させた。それが土地の日・ナクバ(大災厄)だ。

 

非暴力抵抗運動をイスラエルが武力弾圧

 1967年戦争以降、西岸地区と第三次中東戦争ガザ回廊では、非暴力も含めいかなる抗議活動も禁止された。政治集会、旗や民族シンボルの掲揚、政治的ビラなどの発行などを違法行為とすることが、1993年まで続いた。C地区では今でもそれが続いている。

 1967年戦争の3カ月後、西岸地区で学校ストがあった。教員もストを行い、生徒たちは街頭で占領軍に抗議した。商店主も協力ストで店を閉めた。

 イスラエル軍はこの市民的不服従運動に対し、指導者や「扇動者」の逮捕、外出禁令、移動禁止、電話線切断、その他検問、家宅捜査などの嫌がらせで対応した。

 それがイスラエルの常套手段となり、日常的に行われるようにエスカレートし、拘留、暗殺、家屋破壊、集団懲罰などへと発展していった。

 そして、民衆の非暴力抵抗をイスラエルは暴力的に弾圧してきた。商店ストには商店破壊、マーチン・ルーサー・キングを真似たバス・ボイコットには、パレスチナ人の輸送機関の破壊で対応した。第一次インティファーダの市民的不服従運動、鉄の戦車に子どもが投石しただけで、大量逮捕・投獄、無差別殴打、ゴム弾発射、外出禁止、移動禁止で弾圧された。1987~94年の間に100人に一人(2万3000人)が逮捕され、拷問にかけられた。

 今回のガザの「過越し祭の虐殺」も、この長い暴力弾圧の一つである。人口密集の野外刑務所で永遠に閉じ込められる自分を想像してごらんなさい。

 塀に近寄るとすぐに射殺される状況を想像してごらんなさい。その人たちに、黙って無抵抗で歩けと「非暴力」を説くのか。何千人というパレスチナ人が勇敢にそれに立ち向かい、死んでいった。

 私は暴力は嫌いだが、「暴動は声を聞いてもらえない人々の言葉」だと思う。国連も植民地支配や外国支配に対して、武力闘争も含めあらゆる手段で被害者が解放闘争を行う権利を認めている。マハトマ・ガンジーですら、場合によっては暴力も適切な戦略であることを認めている。 

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