新刊紹介 イスラエル内パレスチナ人 隔離・差別・民主主義

ベン・ホワイト 著/脇浜義明 訳

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中東唯一の民主主義国家(自称)の残虐性

 近代民主主義国家とは、その国土で暮らすすべての人々の国家だ。建前上、一級市民と二級以下の市民の差別はない。だが、1993年のオスロ合意から断続的に行われてきた、イスラエルとパレスチナの交渉で、イスラエルは、自国を「ユダヤ国家」と認めることを要求。これが、入植地問題と共に、交渉進展を妨げている。なぜパレスチナ側は、「ユダヤ国家」認定を拒否するのか。その答が、本書にある。

 著者は、イスラエル国籍を持つドルーズ教徒のパレスチナ人。自称「中東唯一の民主主義国家」イスラエルが、ここに暮らす先住民パレスチナ人を、いかに隔離・差別しているか、きわめて具体的に語る。イスラエルの閣僚、政治家、高官、宗教家、などのエリートがあけすけに語る例は、この国の新聞報道などから拾うのに苦労しない。

 第1章「『ユダヤ的かつ民主主義的』?」は「ユダヤ国家」が、原理的にも実際的にも「民主主義国家」と相いれないことを論じる。「イスラエル独立宣言」(1948年)は、この国が、「宗教、人種、性にかかわりなく、すべての住民に社会的・政治的権利の完全な平等を保障する」と謳った。だが、イスラエル基本法8条は「この法律が保証する権利は、適正な目的に基づいて、必要とされる範囲を大幅に超えない限度で制定される、ユダヤ人国家の価値観にふさわしい法律がある場合を除いては、侵害されてはならない」と、「ユダヤ人」の特権的地位を前提にする。

 また、宗教では、ユダヤ教正統派に特別な地位を認めるなど、法制度的にも、宗教、人種の平等が否定されていることを論じる。

 この「ユダヤ人国家」建設がいかに進められたか。これを扱ったのが、第2章「土地体制」。イスラエル建国から「軍事政府」廃止の1966年にかけて、追放・逃亡したパレスチナ人の土地・家屋などを奪い取って「ユダヤ人」に与える法制度がいかに整備されていったか。また、「ユダヤ人国家」にとっては「不都合にも」居残ったパレスチナ人の土地、あるいは、「土地所有」の制度を持たない、遊牧民「ベドウィン」からの土地取り上げについて説明する。

 この手口は、イスラエルが軍事政府を廃止、西岸・ガザ地区というあらたな占領地を獲得した後も、続けられた。こうした土地奪取、住居破壊、住民追放が、実は、イスラエル「領土」とみなされているグリーン・ラインの内側でも、今も続いていることがわかる。

 

なぜパレスチナは「ユダヤ国家」を拒否するのか

 そして、その土地取り上げは、「ユダヤ人」のあらたな入植によって人口構成を変える政策と一体となって進められた(第3章「ユダヤ化と人口脅威」)。
 具体的には、イスラエル北部ガリラヤ地方のユダヤ化(パレスチナ人キリスト教徒の追放)、同南部ネゲヴ地方のユダヤ化(ベドウィン追放)と、それぞれセットになっている。

 短めの第4章、5章では、予算の割り当て、行政サービス、教育環境などに見られる「ユダヤ国民」と「パレスチナ国民」の大きな格差、また、そのような制度的・実体的差別への抗議や廃止を求める運動に対する暴力的弾圧を扱う。

 そして、最後第6章で、「排他的民族・宗教国家の維持という至上命令がなくなれば、水利権問題やエルサレムの位置づけ問題など『和平プロセス』の障害物であったものが、共通のホームランドの工程と両社会の権利を双方が認め合う機会へと変化する」(P・239)と述べ、「選択肢は他にない」(同)と結んでいる。

 予備知識がないと、少し難しい?

 やや古いが、S・ジリイス「イスラエルのアラブ人」(サイマル出版会、1975年)などを併読するとよいかもしれない。

  (評者・奈良本英佑)

法政大学出版局、2018年2月/四六判276ページ上製/定価:3400円+税

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